その瞬間、こちらを振り向いた顔は、見覚えのある、あのカンフー美女のそれだった
その顔を見て、一瞬私の行動がにぶったのは、恥ずかしながらこの年でも、美女に弱い男の性だったのだろう
その一瞬の隙を突いて、女兵士は小声で『準備完了!』と呟いた
なにが、準備完了なのだと、いぶかる心に、エマージェンシーコールが鳴り響いた
爆弾か!
その間を衝いて、女(白蘭と言ったか)が私に飛びかかって来た(手には光るもの)
もちろん相手にならず、やや加減した私の右手がすくい投げのような形で、女を巻き込むように床に叩き付けた。と、そのタイミングで、閃光と爆発音、そして盛大な爆風が私たちを襲った
影スーツのお蔭で、肉体的な損傷はなかったが(偶然私に抱え込まれる状態になった女も)、山荘の1階は吹き飛び、柱が損傷したお蔭で、2階部分が崩れ落ちてきた
超人パワーで、身体にのしかかっている2階の残骸を払いのけ外に出ると、ばらばらになった山荘ではあったが、どうやら地下室形状の退避部屋は無事なことを確認できた
気を失っている女兵は、火が出たら可哀相なので、空き地に置いて、私は今後のことを考え、念のため用意していたGスーツを装着し、それまでの影スーツに私の姿になるよう命じ、その私を抱きかかえると、宙に浮き上がり、次の展開の待った
爆発音に驚いて、なんとか駆けつけてきたSIT隊員たちに「Aは倒れた、私は宇宙に戻る」と大声で言い残すと、マントでAの姿になっている影スーツをくるんで、大空目指して一気に急上昇した
*
山荘の攻防から1週間が経った7月の土曜日
D田警視正は、警視庁本部庁舎14階の自分の執務室で報告書を読んでいた
本来は休日の土曜だが、このところ会議の連続で、ゆっくり自席で報告書を読む暇がなかったのだ
Aの山荘で繰り広げられた攻防戦は、表向きは所有者不在の山荘が、プロパンガスの漏れで爆発的火災を起こしたことで収束を図り、なんとか煩いマスコミの目を欺くことに成功していた
ただ、十人を超える死者と夥しい数の重軽症者の搬送先は、警察病院だけでは収容しきれず、SIT隊員の負傷者は信頼のおける都内大病院で治療に当らせている
D田も先日、目を掛けているN目来が入院しているS大学病院に見舞いに寄った。大学病院側も銃創の治療には困惑を隠さず、警察関係の上層部のD田に尋ねたい意を露わにしていたが、それには応じず、ただ生きて治療を受けているN目来の姿を、ICU(集中治療室)の外から眺めただけで、帰るしかなかった
警視庁内でも内閣官房でも、恐らく死んでしまった仲介人Aを抱えて、早暁の空に昇って行ったグリーンマンのことが物議を醸し、迫っている“太陽作戦”の存否が案じられていた
それらの紛糾する論議の矢面に立たされているD田は、このところよく眠れないこともあり、げっそりこけた相貌に、目だけ光らせている状況で、庁内の誰もが声を掛け辛いこの1週間であった
報告書から目を上げ、眉の間を指で摘みながら、窓外に目をやったD田の口から「あっ」と声が出た
14階の窓の外に、グリーンマンが浮かび、己とD田を交互に指差した後、上を指さしてゆっくり上昇を始めた
一瞬、なにを見たのだろうと、自身の眼底に残るそのジェスチャーを思い起こして、はっと気付いたD田は、机上の内線電話を取りあがると「屋上にGが来る。私が行くので、失礼のないよう対応せよ!」とだけ言うと、席を立って屋上目指して走り出した
D田が息せき切って屋上に着くと、Gが二、三人の職員に囲まれて立っている
「ようこそ!」思わず出た言葉と差し出した右手が、D田の心情を物語っていたが、グリーンマンはそれに構わず「Aの残存思念に基づき、ワタシは君に逢いに来た」と音声で意思を伝えてきた
その言葉に、はい、はい、と頷くだけで、言葉が出ないD田に、ここで話して良いのか?とジェスチャーで伝えて来るGに、慌てて「下の階にどうぞ」と、ようやくそれだけ伝え、そこにいた部下に下の階の会議室を用意せよ、と命じる
あまりの手配の時間の無さに、大慌てで管理室に電話連絡する部下をそのままに、D田は自ら屋上の扉を開け、階段を先に降り始める
後を付いて降りて来るGが発する存在感を意識しながら、D田は、これからどのような話が告げられるのだろうと、ややもすると不安が募り、さらに、誰か立ち合う人間が居るべきではなかろうかと、考えがまとまらぬまま、あえてゆっくり階段を下っていく
そのうち、後方からどかどか急ぐ足音が聞こえ「17階の音楽隊の会議室が使えます!」と声がかかった
17階の会議室は、会議室と言うよりリハーサル室に近い造りだったが、今日は休みで椅子も会議テーブルもあったので、屋上から付いて来た職員に命じて即席のロの字形に並べさせ、こちらに椅子2脚、向かい側にGの座る席を用意することができた
確か、3課のK置課長も当庁していたはずだと思い出し、庁内に居たら同席してもらうべきだと考えたD田は、室内の内線電話で15階の公安3課長席をコールした
幸いまだ席に居たK置は、事がコトなだけにすぐ同意して、今から音楽隊の会議室に向かうと言って内線を切った。その返事を聞いてD田は、まだ部屋に居た職員に、記録用にスマホでの録画を命じた
グリーンマンはその間勧められた椅子に座り、一言も発せず、D田たちの奮闘を見守っていたが、K置課長が入室して席に着くと、フェイスマスクの一部を見えるようにして、西欧人に似た容貌を現すと、おもむろに口を開いた
「7自転前のこの惑星人同士の戦闘の結果、ワタシをこの惑星に関わりようにしたAの生命活動が停止した。ワタシは、残存有機体を持ち帰り、再生法を何種か試みたが不成功に終わった。ただ、その過程で、Aの脳内残存思念から、ワタシに伝えたかった思念を取り出せたので、ワタシはそれに従って今後の行動の指針を決定した」言っていることは、なんとなく分かるものの、結局どういうことなのかD田もK置も不要領だった
「ワタシはAの強い残存思念に基づいて、当初の約束である核分裂応用施設の残骸を、この惑星の主星に投棄した後、Aの家族の三世代の生存期間の間、この惑星におけるこの日本と名付けられた地域の、不安定な惑星活動と地勢的騒乱から、可能な限り護ることにしたことを伝えに来た」
なんと“太陽作戦”の遂行だけでなく、その後の国際間の紛争等にも、介入するという、日本にとってまたとない申出をしてくれているのだと、D田は心の奥で歓喜したのだが、K置は幾分懐疑的な表情になっている
「それが本当なら、我が国にとっても大変有難いお話だとは思いますが、私たち二人だけでは、ただお申し出を承っておくだけで、この場でのお返事は致しかねるのですが…」
「それは承知している。そこの人物が操作しているこの場の電子的記録を、君たちの上層者に報告することは理解している。なぜ、このような伝達に赴いたのかの答えは、Aの家族に可能な限りの保護を依頼するためであることを承知しておいて欲しいからである」
「わかりました。私たちだけでは、なんともお約束できませんが、極力、そのように取り計らうことを、私個人はお約束いたします」Aとの関わりがあったD田としては、このように答えるのが精一杯ではあった
「それは期待するが、念のためAの残存思念に強く残っている、富士山という地表噴出孔近くに住む長寿者にも同様の依頼をしておくことにした」
富士の老人のことか!と気づいたD田とK置は、思わず顔を見合わせたが、頷いておくより仕方がなかった
Gが、あの超右翼であり国粋主義者に、このことを伝えた場合の波紋の大きさは想像が付くが、果たしてそのことが、この国にとってなにを意味することになるのか、高級官僚の一員とは言え、この時点では皆目判断が付かないことではあった
…そして、この物語は、新たな章『グリーンマン編』に踏み出すことになった。
※作者よりご案内 → 新Stage『第2章 グリーンマン編』に続いています
2023年05月06日
熟年超人A〜第4章3-7 C国工作員との対決(第1章 終)
posted by 熟年超人K at 16:11| Comment(0)
| 再編集版・序章
2023年05月05日
熟年超人A〜第4章3-7 C国工作員との対決(9)
何発か防弾楯にも着弾したと見えて、中のSIT隊員が防御に専念したのをちらと確認して、私は猛スピードで発砲して来た敵に襲い掛かる
その速さには、訓練を重ねてきた敵でも対応できず、隠れていた場所から変則ステップで飛び出すと、次の銃撃に移りかけたところで、私の胴体タックルをくらって、一緒に叢に突っ込んだ
近接戦で、まだ勢いを失っていない相手と闘うのが初めてだった私は、少々慌ててしまい相手の持つ短機関銃の銃身を握って、取り上げようとしてして揉み合った
短機関銃の銃身は、私が強く掴んでいたものだから、ぐにゃりと曲がってしまい、相手の戦闘員は一瞬驚いたが、すぐに腰のホルスターから拳銃を取出して、身体を密着させたまま引金を引いた
自動拳銃だったのが災いし、密着した私の身体に当って、発射口に詰まった銃弾に、次の銃弾が当たった結果、銃身が破裂し、裂けた鉄片が彼と私に当り、彼は傷ついた己の手に目をやり、しばし硬直した後、腿に装着していたアーミーナイフを掴み出して、無茶苦茶に暴れ出した
無論、私に傷を負わせることなど出来ないまま、落ち着きを取り戻した私のベアハッグによって悶絶した
相手の体中の骨が折れる音を聞きながら、私はもう普通の生活になど戻れないことをはっきり覚悟した
一連の格闘の様は、幸いSIT隊員たちには見えていなかったようなので、防弾楯の陰に隠れたままの隊員たちに「こいつは、片付けてござる」などと、時代劇調で話しかけたが、彼らの返答が返って来る前に『黄(フゥァン)隊長!』とC国語の怒声が聞こえ、私に9oパラペラム弾が降り注いだ
人を死なせてあれほど精神的なショックを受けたにも拘らず、私の頭脳は冷静に仕事をこなし、残る一人の敵の姿を見出だし、瞬速で相手に飛びかかると、完全武装の敵兵の弱点である顔面に、ストレートパンチを放って、あっさり戦闘不能状態にしてやった
これで一段落となった訳だが、救出したSIT隊員たちと話している暇はないことに気付き、さっさと木に登り、透明化に切り替え、懸案の山荘警備に戻ることにした
山荘に近づくと、常時自動展開している周囲偵察に武器と電子機器の反応が5つ感知された
自動展開の周囲偵察に反応するということは、強力な敵だということをこれまでに学んでいた私は、俄かに緊張度が高まり、山荘の屋根に着地するとすぐ、敵の勢力を詳しく知ることに専念することにした
なんと言っても、彼らの位置は山荘に近すぎる
日頃、駐車場として利用している家の前の空き地を囲んでいる雑木林の中に二人、そして空き地に姿を現した一人、続いて一人、さらに一人、5〜6歩進んでは、動きを止め、周囲をチェックするという、接近術を使うコマンドだ。加えて、林の中を移動しながら、空き地に出ている仲間を援護しているチームワークの良さが伝わる
おまけに、雨が止んで雲間も切れ、上弦の月が顔を出し、彼らの行動に慎重さが更に加わった
私の取るべき行動は、彼らが山荘に辿り着かないうちに、空き地に飛び降りて姿を見せ、攻撃してくる敵を一人また一人と倒していくのが良策だが、それでは何人かが山荘に突入できる可能性がある
かと言って、透明化して一人ずつ倒すのは、この開けた場所では不可能だ
躊躇しているうちに、さらに彼らが接近して来る
とにかく、なんとかしなければと、透明化を解除して、屋根の上から彼らの目の前に降り立った
*
慎重に索敵と前進を繰り返して、山荘の間近に迫った鄭は、文字通り目の前に降って湧いた黒装束の男に遭遇して、その場に凍りついた
鄭とコンビネーションを取り、同じような接近行動を取っていた二人もその場で動かなくなったが、林の中に居て接近班を援護している張と白蘭は、突然の敵の出現に一瞬驚いたものの、すぐに取るべき行動を取って、一人立つ敵影に向けて、ウジーの銃弾を浴びせかけた
ところが、パラベラム弾の着弾の前に黒い影は、信じられない速さで移動して、突っ立ていた鄭をすれ違いざまに右腕のラリアットを叩き込み、その勢いのまま、斜め後方の戦闘員に、左足でキックを浴びせて、3mも吹き飛ばすと、跳ね飛ぶように残る一人に襲い掛かる
目の前で、鄭ともう一人が丸腰の相手に吹き飛ばされるのを見て、残った一人、楊は恐怖に駆られてウジーを構え直そうとしたが、飛び込んで来たハリウッド映画の忍者のような敵が、短機関銃を叩き落とすと、連続技でタクティカルベストの襟に手を掛けてくる。そこから投げ技に移るのを察して、思い切り身を捻りかろうじて避けた
林の中から、この一瞬の攻防を見た張は白蘭に『こいつは強敵だ、お前は先に山荘に突入して、プランCの爆破を実行しろ』と命じた
白蘭は無言で頷くと、林から飛び出して山荘に向かって走った。黒い影はそれに気づかず、ナイフで切りかかてくる楊と闘っている
その様子を視野に収めて、楊の敗北を予期した張は、王に短く『撤収せよ!』と命じると、踵を返して山荘の裏山に逃げ込んだ
楊は得意のナイフで闘っていたが、これはと思う一撃が全て、致命傷はおろかかすり傷も与えていないことに気付き、ぞっとした
相手の繰り出してくる技は、さほど的確なものではなかったが、そのスピードが尋常ではなかった
じきに、鍛え抜いたはずの自分の息があがってしまい、ナイフを振う腕に疲労が溜り、随分前に忘れていた自分が負けてしまうという予感を感じたその時、敵の一撃が厚いボディアーマー越しに直撃し、意識が飛んだ
*
影スーツ状態で、手加減もしていないのに10秒近く闘った相手に、束の間感慨にふけったが、はっと気づくと、周囲偵察に感知していた林の中の二人の反応がない
どこに移動したのかと、精神を集中させて感知範囲を広げていくと、なんと!一人は山荘の中、もう一人は山荘の裏山に移動している!
防御楯から姿を現してきたSIT隊員に挨拶などする間もなく、私は大慌てで戦いの場を後に、山荘に急行する
地上を走る際の最高スピードを出したであろう、5秒程度で山荘のテラスに到着した私は、さすがにそのまま飛び込もうとはせず、一旦、居間の外側から邸内の様子を探ってみると、小柄な敵兵が邸内を探索しながら、あちこち移動しているのが見える
幸い、家族の皆は退避室に隠れ、合図が無い限り、頑丈な鉄扉を閉めているから、仮に所在が知れても、すぐにどうこうはないはずだ
そう判断して、この敵兵を排除すべく居間に飛び込もうとしたが、妙な行動を取っているのが見えた
なにやら暖炉の前で、タクティカルベストを脱いでいるような気配だ
脱いだタクティカルベストの塊から、なにか引っ張り出してもう一方から出した紐のようなものに結んでいる
なにをしているんだろうと、興味心が私がすべき次の行動を妨げる
紐のようなものを結び終え立ち上がると、取り出した携帯電話に繋いで、すっとそのまま立ち去ろうとする
もうどっちにしても、この敵兵を確保するなり倒してしまうしかないと判断した私は、出来るだけ派手な音を立てて、テラスのガラス戸を粉砕して居間に飛び込んだ
その速さには、訓練を重ねてきた敵でも対応できず、隠れていた場所から変則ステップで飛び出すと、次の銃撃に移りかけたところで、私の胴体タックルをくらって、一緒に叢に突っ込んだ
近接戦で、まだ勢いを失っていない相手と闘うのが初めてだった私は、少々慌ててしまい相手の持つ短機関銃の銃身を握って、取り上げようとしてして揉み合った
短機関銃の銃身は、私が強く掴んでいたものだから、ぐにゃりと曲がってしまい、相手の戦闘員は一瞬驚いたが、すぐに腰のホルスターから拳銃を取出して、身体を密着させたまま引金を引いた
自動拳銃だったのが災いし、密着した私の身体に当って、発射口に詰まった銃弾に、次の銃弾が当たった結果、銃身が破裂し、裂けた鉄片が彼と私に当り、彼は傷ついた己の手に目をやり、しばし硬直した後、腿に装着していたアーミーナイフを掴み出して、無茶苦茶に暴れ出した
無論、私に傷を負わせることなど出来ないまま、落ち着きを取り戻した私のベアハッグによって悶絶した
相手の体中の骨が折れる音を聞きながら、私はもう普通の生活になど戻れないことをはっきり覚悟した
一連の格闘の様は、幸いSIT隊員たちには見えていなかったようなので、防弾楯の陰に隠れたままの隊員たちに「こいつは、片付けてござる」などと、時代劇調で話しかけたが、彼らの返答が返って来る前に『黄(フゥァン)隊長!』とC国語の怒声が聞こえ、私に9oパラペラム弾が降り注いだ
人を死なせてあれほど精神的なショックを受けたにも拘らず、私の頭脳は冷静に仕事をこなし、残る一人の敵の姿を見出だし、瞬速で相手に飛びかかると、完全武装の敵兵の弱点である顔面に、ストレートパンチを放って、あっさり戦闘不能状態にしてやった
これで一段落となった訳だが、救出したSIT隊員たちと話している暇はないことに気付き、さっさと木に登り、透明化に切り替え、懸案の山荘警備に戻ることにした
山荘に近づくと、常時自動展開している周囲偵察に武器と電子機器の反応が5つ感知された
自動展開の周囲偵察に反応するということは、強力な敵だということをこれまでに学んでいた私は、俄かに緊張度が高まり、山荘の屋根に着地するとすぐ、敵の勢力を詳しく知ることに専念することにした
なんと言っても、彼らの位置は山荘に近すぎる
日頃、駐車場として利用している家の前の空き地を囲んでいる雑木林の中に二人、そして空き地に姿を現した一人、続いて一人、さらに一人、5〜6歩進んでは、動きを止め、周囲をチェックするという、接近術を使うコマンドだ。加えて、林の中を移動しながら、空き地に出ている仲間を援護しているチームワークの良さが伝わる
おまけに、雨が止んで雲間も切れ、上弦の月が顔を出し、彼らの行動に慎重さが更に加わった
私の取るべき行動は、彼らが山荘に辿り着かないうちに、空き地に飛び降りて姿を見せ、攻撃してくる敵を一人また一人と倒していくのが良策だが、それでは何人かが山荘に突入できる可能性がある
かと言って、透明化して一人ずつ倒すのは、この開けた場所では不可能だ
躊躇しているうちに、さらに彼らが接近して来る
とにかく、なんとかしなければと、透明化を解除して、屋根の上から彼らの目の前に降り立った
*
慎重に索敵と前進を繰り返して、山荘の間近に迫った鄭は、文字通り目の前に降って湧いた黒装束の男に遭遇して、その場に凍りついた
鄭とコンビネーションを取り、同じような接近行動を取っていた二人もその場で動かなくなったが、林の中に居て接近班を援護している張と白蘭は、突然の敵の出現に一瞬驚いたものの、すぐに取るべき行動を取って、一人立つ敵影に向けて、ウジーの銃弾を浴びせかけた
ところが、パラベラム弾の着弾の前に黒い影は、信じられない速さで移動して、突っ立ていた鄭をすれ違いざまに右腕のラリアットを叩き込み、その勢いのまま、斜め後方の戦闘員に、左足でキックを浴びせて、3mも吹き飛ばすと、跳ね飛ぶように残る一人に襲い掛かる
目の前で、鄭ともう一人が丸腰の相手に吹き飛ばされるのを見て、残った一人、楊は恐怖に駆られてウジーを構え直そうとしたが、飛び込んで来たハリウッド映画の忍者のような敵が、短機関銃を叩き落とすと、連続技でタクティカルベストの襟に手を掛けてくる。そこから投げ技に移るのを察して、思い切り身を捻りかろうじて避けた
林の中から、この一瞬の攻防を見た張は白蘭に『こいつは強敵だ、お前は先に山荘に突入して、プランCの爆破を実行しろ』と命じた
白蘭は無言で頷くと、林から飛び出して山荘に向かって走った。黒い影はそれに気づかず、ナイフで切りかかてくる楊と闘っている
その様子を視野に収めて、楊の敗北を予期した張は、王に短く『撤収せよ!』と命じると、踵を返して山荘の裏山に逃げ込んだ
楊は得意のナイフで闘っていたが、これはと思う一撃が全て、致命傷はおろかかすり傷も与えていないことに気付き、ぞっとした
相手の繰り出してくる技は、さほど的確なものではなかったが、そのスピードが尋常ではなかった
じきに、鍛え抜いたはずの自分の息があがってしまい、ナイフを振う腕に疲労が溜り、随分前に忘れていた自分が負けてしまうという予感を感じたその時、敵の一撃が厚いボディアーマー越しに直撃し、意識が飛んだ
*
影スーツ状態で、手加減もしていないのに10秒近く闘った相手に、束の間感慨にふけったが、はっと気づくと、周囲偵察に感知していた林の中の二人の反応がない
どこに移動したのかと、精神を集中させて感知範囲を広げていくと、なんと!一人は山荘の中、もう一人は山荘の裏山に移動している!
防御楯から姿を現してきたSIT隊員に挨拶などする間もなく、私は大慌てで戦いの場を後に、山荘に急行する
地上を走る際の最高スピードを出したであろう、5秒程度で山荘のテラスに到着した私は、さすがにそのまま飛び込もうとはせず、一旦、居間の外側から邸内の様子を探ってみると、小柄な敵兵が邸内を探索しながら、あちこち移動しているのが見える
幸い、家族の皆は退避室に隠れ、合図が無い限り、頑丈な鉄扉を閉めているから、仮に所在が知れても、すぐにどうこうはないはずだ
そう判断して、この敵兵を排除すべく居間に飛び込もうとしたが、妙な行動を取っているのが見えた
なにやら暖炉の前で、タクティカルベストを脱いでいるような気配だ
脱いだタクティカルベストの塊から、なにか引っ張り出してもう一方から出した紐のようなものに結んでいる
なにをしているんだろうと、興味心が私がすべき次の行動を妨げる
紐のようなものを結び終え立ち上がると、取り出した携帯電話に繋いで、すっとそのまま立ち去ろうとする
もうどっちにしても、この敵兵を確保するなり倒してしまうしかないと判断した私は、出来るだけ派手な音を立てて、テラスのガラス戸を粉砕して居間に飛び込んだ
posted by 熟年超人K at 15:45| Comment(0)
| 再編集版・序章
2023年05月04日
熟年超人A〜第4章3-7 C国工作員との対決(8)
もう一度、西側から接近して来る敵の様子を確認し、その移動速度ならあと10分程度掛かるだろうと踏んで、細道脇の林の中で展開している戦いを、先に制圧しておこうと心に決めた
透明化機能が問題なく機能していることを確認の上、屋根からストレートに戦いの場に参戦する
木刀は折れてしまったので、飛び道具のパチンコ玉を効果的に使って、まず山荘を守ってくれている公安部隊を、窮地から救いだすことを優先した
戦いは、細道の両側に生い茂っている雑木林の中で行われているので、屋根から駐車場にしている空き地に降りて、林間を素早く走って行くことにした
裏山の戦いと違い、草木はあっても移動の邪魔にはほとんどならない(それでも音を立てないよう注意)
雨はやんでいて、どちらも夜間ゴーグルを付けて戦っているようだが、そのせいで視野が狭く、忍者が忍び寄るには格好の状況設定だ
最初のターゲットは、防弾楯に身を隠しながら単発銃で応戦しているSIT隊員に、腰溜めで9oパラペラム弾を浴びせまくっている敵戦闘員にした
すっと背後に忍び寄り、タクティカルベストの襟のガードの上から、構わず思い切り手刀を首筋に叩き込む
(自分が随分冷静に人に超人の破壊的な力を発揮できることに、我ながら驚きを禁じ得ない)
ごきっ、と音がして、敵の首がガクッと前に落ちて、そのまま動かなくなる(初めて人を殺したという印象)
嫌な感触が、右の手に残ったが、全滅しかけている公安の隊員を思うと、そうも言っていられない。次の標的を探す
どうやら、三人で三方を防弾楯で守っている公安隊員を、散開して全周的に取り囲み、移動を繰り返しながら攻撃しているので、次の標的を捕捉できない(周囲偵察では把握仕切れず)
こんなところで、あまり時間を遣えないなと、少々苛立ちを覚え始めた私は、もっと簡単に敵を誘い出す方法をあれこれ考えた末、こちらの姿をみせてやることにした
透明化を解除したところで、午前3時の山間の暗闇の中では、ほとんど見えないのだが、暗視ゴーグルをしている連中なら、なにかいる?くらいには視認できるだろう。そうなれば、なにか仕掛けてくるはずだ
もう一度周囲偵察をして、反応がある辺りに、透明化を解除した姿で行ってみる
超人眼をもってしても、相手が完全に気配を消して隠れている場合、そう簡単に見つけられないことが意外だった。その時、見過ごしていた叢に動きがあり、私に向かっての一連射があった
右側面に何発か着弾したが、重力場コントロールでいずれも体表を滑って、どこかにそれてしまう
撃った相手にすると、やった!仕留めた!と思った後、いわゆる命中の手応えが感じられず、大いに戸惑っていると思うが、そんなことを考えさせる暇もなく、私から放たれたパチンコ玉が、叢を貫いて損傷を与える
顔面を押えて転がり出たところを、私の容赦ないキックが見舞い、そいつは吹き飛んで木の幹に激しく衝突して動かなくなる
私だって暗視力はあるし、物体を透かして見る透視力まであるのだが、叢に潜んでいた敵を見つけられなかった、ということは大いに問題だ
なんとか周囲偵察力と超人眼の連携が取れないものか。戦闘中にも拘らず、私はそこが気になり、今まで意識を集中するために目を閉じて行っていた周囲偵察を、目を開けたままやってみることにした
超人眼で見ている状景は、暁にはまだ間のある時間帯の林と叢が、モノクロ写真のように感じられる景色だ
反面、いつもの周囲偵察は、自分を中心に半径数百mの範囲内を意識すると、発動中の電子機器類や爆発物を応用している銃器類を、点として(最近その大きさの大小が感じられるが)感知する能力なので、視力を活用した状態では併用できない
基本、ある程度の高さの範囲こそあれ、平面的な範囲内の索敵能力であるが、上空に意識を集中すれば、高度200qくらいの処にいる偵察衛星なら感知できる
その能力と、目の前にあるものを見るという機能が、うまくリンクしない
う〜ん、これはいかん、と頭を振ったそのとき、随分先にある反応点に、暗視ゴーグルを装着した戦闘員が片膝立ての姿勢で、木の幹の横にいるのが見えた(気がした?)
なぜ見えた気がしたのか、それを確かめに、200mほど移動してその場に滑り寄った
いた!確かに、さっき見たと同じような姿勢でウジーを構えて、防弾楯と防弾楯のすき間を狙っている敵の姿
一気に接近して、気配に慌てて振り向いた顔に、ストレートパンチを、思いっ切り叩き込んだ
暗視ゴーグルが顔面にめり込み、血しぶき上げて、その男(と思いたい)は、身を潜めるのに利用した木の幹に後頭部を叩き付けられて(ヘルメットがあったにも拘らず)失神、若しくは死んだ
なぜ周囲偵察の感知点が、三次元の人間に見えたのか、数秒間、次のターゲットを感知しながら、首を振ってみたが、もうそれは起こらなかった
但し、今回は残りの感知点が2個に減っていたことで、かなりピンポイントで樹上から接近することができた
彼らが木登りが得意かどうかは知らないが、あの装備が動きを相当制限するはずだから、地上の、木の幹か叢を利用して身を隠しながら、未だ顕在の公安守備隊を、攻撃していることは間違いないはずだ
*
マイクロバスの外観をした戦闘指揮車にいる王と催は、日本公安が設置した監視カメラが送って来るモニター映像に、釘付けになっていた
赤外線カメラが映し出している映像の中で、C国諜報部が誇る海外特殊戦闘員が次々倒され、あと一歩まで追い詰めたはずの日本公安守備隊が、かろうじて生き残っている
最初は目を凝らしていても、勝手に味方戦闘員が、戦闘不能に陥っていくように見えていたが、つい先程から画面内に、黒い影が素早く動いて味方を屠っている様が映し出されている
緊急連絡無線でそのことを警告し続けたが、応答する者は僅か七名。幸い応答者の中に、本部長の張が居たので、本作戦の中止と、各車両に残っている運転担当者に、撤収準備を命じることを進言してみた
張の脳裏にも、西の公安アジト襲撃チームが、謎の敵に攻撃され、ほぼ壊滅した事実が浮かんだが、確認の取れないことは忘れることにした
その上で、Aの山荘が間近になっていることと、そちらに向かっているH支部の先遣隊が、全員無傷でいることを要因に、A及びAの家族拉致をAの拉致のみにして、山荘を爆破するBプラン遂行の上、先遣隊メンバーと共に帰還する旨を王に伝えた
王は、命令を復唱し、残存隊員の確認後、速やかに先遣隊の車両以外は全車、本部に戻る許可を得た
張にも王にも、謎の敵がA国特殊部隊であろうという推測があったが、互いにそのことは口にしなかった
H支部先遣隊の四名と本部長の張は、互いの距離を離れず付かずの間を開けながら、西の公安アジトからAの山荘までの、山林の斜面を索敵もしつつゆっくり横切っていた
いつ、謎の敵が現れるかと警戒を高めている張の行動は、H支部の隊員から見ても少々極端に思えたが、上層部になればなるほど、用心深くなるのがC国諜報部の嗜みのようなものなので、今回の襲撃計画が最終局面を迎えている今、そのことは当然と言えば当然なので、深く理由を確かめようとも思わなかった
時折り、雨に濡れた斜面で足が滑るほか、さしたる障害もなく先頭を進んでいた鄭が、そっと右手を挙げて皆を制したのは、目の前に広場と山荘が現れたからだった
*
残りは二名。さっさと片付けて、山荘に戻らねばと気が焦る
しかし超人であるとは言え、本気で身を隠している戦闘訓練を積んだ敵を見つけるのは、至難の業だと気が付いていた
超人であるということは、身の安全が保障されているだけで、怪獣映画の怪獣のように、無差別に広範囲を破壊するならともかく、今回のように敵を各個撃破していくのは、時間が掛かるということだ
ならどうする、と考え直したとき閃いた。敵が一番注視している場所に姿を現せば、必ず攻撃して来るだろう
それを捕捉攻撃すれば良い
早速、公安隊員が死守している場所を訪れる
一応、影忍者としてN目来氏を訪ねた折り、あの貸別荘に居たSIT隊員ならば、私の姿を見ているか、情報として知っているはずだ
もう姿を隠す気もないので、堂々と防弾楯で身を護っている隊員のところに近づいて行く
さすがに、SIT隊員は発砲しては来ないが、恐ろしく緊張して待機しているのが分かる
「お役目ご苦労にござる」と、こんな風に時代劇調で声をかけてみた(場にそぐわないこと甚だしいが)
楯の防御陣の中で、人の反応があり「味方か!?」と誰何があった
「拙者、影忍者と申す。A殿宅警護のため、出陣いたしております」…と、返答している最中、突然、背後から短機関銃の消音連射音が起こった
さっと避けることも出来たが、私との会話に気を取られているSIT隊員に、流れ弾が当たってはと、背中への被弾は無視して、一気に振り返り、撃ってきた方向を視認することを優先した
透明化機能が問題なく機能していることを確認の上、屋根からストレートに戦いの場に参戦する
木刀は折れてしまったので、飛び道具のパチンコ玉を効果的に使って、まず山荘を守ってくれている公安部隊を、窮地から救いだすことを優先した
戦いは、細道の両側に生い茂っている雑木林の中で行われているので、屋根から駐車場にしている空き地に降りて、林間を素早く走って行くことにした
裏山の戦いと違い、草木はあっても移動の邪魔にはほとんどならない(それでも音を立てないよう注意)
雨はやんでいて、どちらも夜間ゴーグルを付けて戦っているようだが、そのせいで視野が狭く、忍者が忍び寄るには格好の状況設定だ
最初のターゲットは、防弾楯に身を隠しながら単発銃で応戦しているSIT隊員に、腰溜めで9oパラペラム弾を浴びせまくっている敵戦闘員にした
すっと背後に忍び寄り、タクティカルベストの襟のガードの上から、構わず思い切り手刀を首筋に叩き込む
(自分が随分冷静に人に超人の破壊的な力を発揮できることに、我ながら驚きを禁じ得ない)
ごきっ、と音がして、敵の首がガクッと前に落ちて、そのまま動かなくなる(初めて人を殺したという印象)
嫌な感触が、右の手に残ったが、全滅しかけている公安の隊員を思うと、そうも言っていられない。次の標的を探す
どうやら、三人で三方を防弾楯で守っている公安隊員を、散開して全周的に取り囲み、移動を繰り返しながら攻撃しているので、次の標的を捕捉できない(周囲偵察では把握仕切れず)
こんなところで、あまり時間を遣えないなと、少々苛立ちを覚え始めた私は、もっと簡単に敵を誘い出す方法をあれこれ考えた末、こちらの姿をみせてやることにした
透明化を解除したところで、午前3時の山間の暗闇の中では、ほとんど見えないのだが、暗視ゴーグルをしている連中なら、なにかいる?くらいには視認できるだろう。そうなれば、なにか仕掛けてくるはずだ
もう一度周囲偵察をして、反応がある辺りに、透明化を解除した姿で行ってみる
超人眼をもってしても、相手が完全に気配を消して隠れている場合、そう簡単に見つけられないことが意外だった。その時、見過ごしていた叢に動きがあり、私に向かっての一連射があった
右側面に何発か着弾したが、重力場コントロールでいずれも体表を滑って、どこかにそれてしまう
撃った相手にすると、やった!仕留めた!と思った後、いわゆる命中の手応えが感じられず、大いに戸惑っていると思うが、そんなことを考えさせる暇もなく、私から放たれたパチンコ玉が、叢を貫いて損傷を与える
顔面を押えて転がり出たところを、私の容赦ないキックが見舞い、そいつは吹き飛んで木の幹に激しく衝突して動かなくなる
私だって暗視力はあるし、物体を透かして見る透視力まであるのだが、叢に潜んでいた敵を見つけられなかった、ということは大いに問題だ
なんとか周囲偵察力と超人眼の連携が取れないものか。戦闘中にも拘らず、私はそこが気になり、今まで意識を集中するために目を閉じて行っていた周囲偵察を、目を開けたままやってみることにした
超人眼で見ている状景は、暁にはまだ間のある時間帯の林と叢が、モノクロ写真のように感じられる景色だ
反面、いつもの周囲偵察は、自分を中心に半径数百mの範囲内を意識すると、発動中の電子機器類や爆発物を応用している銃器類を、点として(最近その大きさの大小が感じられるが)感知する能力なので、視力を活用した状態では併用できない
基本、ある程度の高さの範囲こそあれ、平面的な範囲内の索敵能力であるが、上空に意識を集中すれば、高度200qくらいの処にいる偵察衛星なら感知できる
その能力と、目の前にあるものを見るという機能が、うまくリンクしない
う〜ん、これはいかん、と頭を振ったそのとき、随分先にある反応点に、暗視ゴーグルを装着した戦闘員が片膝立ての姿勢で、木の幹の横にいるのが見えた(気がした?)
なぜ見えた気がしたのか、それを確かめに、200mほど移動してその場に滑り寄った
いた!確かに、さっき見たと同じような姿勢でウジーを構えて、防弾楯と防弾楯のすき間を狙っている敵の姿
一気に接近して、気配に慌てて振り向いた顔に、ストレートパンチを、思いっ切り叩き込んだ
暗視ゴーグルが顔面にめり込み、血しぶき上げて、その男(と思いたい)は、身を潜めるのに利用した木の幹に後頭部を叩き付けられて(ヘルメットがあったにも拘らず)失神、若しくは死んだ
なぜ周囲偵察の感知点が、三次元の人間に見えたのか、数秒間、次のターゲットを感知しながら、首を振ってみたが、もうそれは起こらなかった
但し、今回は残りの感知点が2個に減っていたことで、かなりピンポイントで樹上から接近することができた
彼らが木登りが得意かどうかは知らないが、あの装備が動きを相当制限するはずだから、地上の、木の幹か叢を利用して身を隠しながら、未だ顕在の公安守備隊を、攻撃していることは間違いないはずだ
*
マイクロバスの外観をした戦闘指揮車にいる王と催は、日本公安が設置した監視カメラが送って来るモニター映像に、釘付けになっていた
赤外線カメラが映し出している映像の中で、C国諜報部が誇る海外特殊戦闘員が次々倒され、あと一歩まで追い詰めたはずの日本公安守備隊が、かろうじて生き残っている
最初は目を凝らしていても、勝手に味方戦闘員が、戦闘不能に陥っていくように見えていたが、つい先程から画面内に、黒い影が素早く動いて味方を屠っている様が映し出されている
緊急連絡無線でそのことを警告し続けたが、応答する者は僅か七名。幸い応答者の中に、本部長の張が居たので、本作戦の中止と、各車両に残っている運転担当者に、撤収準備を命じることを進言してみた
張の脳裏にも、西の公安アジト襲撃チームが、謎の敵に攻撃され、ほぼ壊滅した事実が浮かんだが、確認の取れないことは忘れることにした
その上で、Aの山荘が間近になっていることと、そちらに向かっているH支部の先遣隊が、全員無傷でいることを要因に、A及びAの家族拉致をAの拉致のみにして、山荘を爆破するBプラン遂行の上、先遣隊メンバーと共に帰還する旨を王に伝えた
王は、命令を復唱し、残存隊員の確認後、速やかに先遣隊の車両以外は全車、本部に戻る許可を得た
張にも王にも、謎の敵がA国特殊部隊であろうという推測があったが、互いにそのことは口にしなかった
H支部先遣隊の四名と本部長の張は、互いの距離を離れず付かずの間を開けながら、西の公安アジトからAの山荘までの、山林の斜面を索敵もしつつゆっくり横切っていた
いつ、謎の敵が現れるかと警戒を高めている張の行動は、H支部の隊員から見ても少々極端に思えたが、上層部になればなるほど、用心深くなるのがC国諜報部の嗜みのようなものなので、今回の襲撃計画が最終局面を迎えている今、そのことは当然と言えば当然なので、深く理由を確かめようとも思わなかった
時折り、雨に濡れた斜面で足が滑るほか、さしたる障害もなく先頭を進んでいた鄭が、そっと右手を挙げて皆を制したのは、目の前に広場と山荘が現れたからだった
*
残りは二名。さっさと片付けて、山荘に戻らねばと気が焦る
しかし超人であるとは言え、本気で身を隠している戦闘訓練を積んだ敵を見つけるのは、至難の業だと気が付いていた
超人であるということは、身の安全が保障されているだけで、怪獣映画の怪獣のように、無差別に広範囲を破壊するならともかく、今回のように敵を各個撃破していくのは、時間が掛かるということだ
ならどうする、と考え直したとき閃いた。敵が一番注視している場所に姿を現せば、必ず攻撃して来るだろう
それを捕捉攻撃すれば良い
早速、公安隊員が死守している場所を訪れる
一応、影忍者としてN目来氏を訪ねた折り、あの貸別荘に居たSIT隊員ならば、私の姿を見ているか、情報として知っているはずだ
もう姿を隠す気もないので、堂々と防弾楯で身を護っている隊員のところに近づいて行く
さすがに、SIT隊員は発砲しては来ないが、恐ろしく緊張して待機しているのが分かる
「お役目ご苦労にござる」と、こんな風に時代劇調で声をかけてみた(場にそぐわないこと甚だしいが)
楯の防御陣の中で、人の反応があり「味方か!?」と誰何があった
「拙者、影忍者と申す。A殿宅警護のため、出陣いたしております」…と、返答している最中、突然、背後から短機関銃の消音連射音が起こった
さっと避けることも出来たが、私との会話に気を取られているSIT隊員に、流れ弾が当たってはと、背中への被弾は無視して、一気に振り返り、撃ってきた方向を視認することを優先した
posted by 熟年超人K at 21:49| Comment(0)
| 再編集版・序章
2023年05月03日
熟年超人A〜第4章3-7 C国工作員との対決(7)
一応防弾ベストを着てはいるが、文字通り決死の攻勢だった
その答えはすぐに、数十倍の弾丸になってKに跳ね返って来たが、かろうじてテーブルが身を護ってくれる
そのほんの僅かな弾幕の隙をついて、ドアが僅かに開き「早く!急げ!」と声が掛かった
その一瞬を逃さず、T村は上手くドアを開けて、室内に飛び込めたが、その背を右奥からの銃弾が襲う
堪らず、一度開いたドアはすぐに閉まり、Kは一人防弾テーブルの楯の内に残される
一人退去した状況を見た右奥からの侵入者は、たった一人の二丁拳銃で対抗している敵を殲滅せんと、じわじわ接近を図る
階下の敵も、1階には敵がいないことを確認し終えて、2階への階段口に姿を現してきた
戦闘服をがっちり装備している敵の姿に、Kは持っている拳銃で、あいつらに打撃を与えられることなんてあるのかな、と不思議に冷めた感覚で、自分の置かれている状況を俯瞰していた
その時、突然ドアが開いて、二人の公安警官が発射音のでかい拳銃を、右奥の敵にぶっ放しながら現れ、T村が「Kさん、早く中へ!」と叫んだ
その声が耳に入るより早く、Kは背後のドアが開いた風を感じて、思いがけず素早く身体が反応し、T村の声を聞いたときには、部屋の中に転がり込んでいた
9mmパラべラム弾使用のヘッケラー&コッホのP2000を装備している公安二名の射撃によって、それまでの低威力の拳銃で応戦していた相手と同じと侮った一名が、不用意に胸元に2発食らってその場に倒れた
が、それも束の間、階下から上がって来た二名が加わり、ウジーの連射を浴びせると、公安の二人は堪らず部屋の中に逃げ込み、ドアに鍵をかけ、それまでロの字に並べていた防弾テーブルのうち1台を、ドアにあてがってバリケードにする
「どうやら、攻め込んで来たのは四名、いや一人減って三名のようだな」N目来が皆を落ち着かせようと、数的な優位に立てたことを、はっきりした声で皆に確認する
連射の利くウジーが相手とはいえ、多少生き残れる希望が見えてきたことで皆の士気が高まった
ところが、その希望を吹き飛ばすように、恐らくプラスチック爆薬であろう爆発が、部屋のドアと一緒に防弾テーブルを吹き飛ばし、残りのコの字形バリケードにぶつかる
その瞬間、N目来の脳裏に閃きがあり、その直感に従い「皆、ガスマスクを装着しろ!」と、短く伝えた
この拠点には、D田が念のため自衛隊から入手しておいてくれた、簡易な直結式のガスマスクがあった
吹き飛んだドアの破片が、バリケード代りのテーブルに当る衝撃音が、続く敵の突入を予感させたが、僅かに攻撃の間が空いた。これは閃光弾か催涙ガス弾を放り込んで来るな、とN目来は直感しその直感に従った
敵味方ほぼ同数の戦いにおいて、所持している武器にかなりな威力差があっても、守備側の守りが堅固な場合は、まず視覚を奪うことで優位に立ち、圧倒的な勝利を収めるのが定石だ
幸いバリケード内に、予備弾薬と一緒にガスマスクは運び込んである
N目来は、ガスマスクを箱から取出し、部下のJ間と県警の二名に渡し、自らも素早く顔面に装着した。と、次の瞬間に、シューシューと白煙を吹き出すガス弾が、3個4個、5個と部屋の中に投げ込まれた
間一髪だったな、と思いながら、味方の様子を見やると、同じ公安のJ間は既に装着し終えているが、装着に慣れていない県警の二人のうち一名は、まだしっかり取り付けられていなくて、咳き込みながら仲間に手伝ってもらっている
一方、催涙ガスが、ある程度部屋に充満したのを見計らい、C国工作員戦闘隊の三名は、一人また一人と間合いを置きながら、素早く部屋に滑り込んだ
まだ濃い白煙の中に、ぼんやり浮かんでいるコの形の簡易バリケードの中は、静まり返っていて予想していた激しい咳き込み音が聴こえない
日本公安アジト制圧班リーダーの周(ヂョウ)は、なにか怪しいと気付き、右手を挙げて仲間を制した
その途端、倒してあるテーブルの陰から人影が立ち上がると、拳銃を3発連射して来た。銃弾は周たちが装着しているタクティカルベストとボディアーマーを貫いて、襲撃者の人体に少なからぬ損傷を与えた
仲間が一人倒されたことで、残った二人のアドレナリンは噴き上がり、至近距離からバリケード目がけて、ウジーの猛射が浴びせられた
一瞬の隙を突いて、連射した銃弾でどうやら敵を倒したらしいのに、手応えを味わう間もなく、激しい銃弾の嵐を身をすくませて耐えていた守備側にも、跳弾による被弾が何発か当っている
3連射して敵を倒したN目来も、右肩に激痛を感じていた。県警の一人もずっと動かないまま、倒れている
「私は銃が打てなくなった、K刑事、この銃を使ってくれ」左隣で伏せているKに、自分の銃を託した
Kはうなづいて、シグをホルスターに収めると、N目来のP2000を手にして装弾数を確認し、まだ自分のシグより多い残弾数に「公安はいいの支給されてんな…」と独り言が出た
銃は強力なものに換わったものの、こうばりばりやられていたら反撃も出来ない
今は、距離を置いて撃ってきているが、こちらが手を出せないと見たら、もっと近接して来るだろう。そうなったら、テーブルのバリケードは用をなさなくなって、もう少し角度が付けば、自分たちは蜂の巣だ
そのとき、敵が吹っ飛ばされた
すごい勢いで、壁にぶち当たって床に転がった
もう一人が、こちらでないどこかにウジーをぶっ放したかと思うと、バキッと音を立てて床に叩き付けられた
恐る恐る顔を上げると、黒い影が突っ立っている状態で突然現れ、ちょっと会釈して、また消え、一瞬黒い木刀のようなものだけが見えたが、次の瞬間、それも消えた
Kは、自分たちが助かったのかも、という突拍子もない考えが浮かんだが、もうしばらく身を隠したままでいようと思った
やがて静かなままの状態を確認して、自分たちの現況を把握すべく、テーブルバリケードの中を見やって、その惨状に愕然としたが、のろのろ身を起こして、仲間の応急手当てに取り掛かった
*
六人の敵を片付けた私は、再び山荘の屋根に舞い戻ると、無理やり興奮状態を鎮静化させ、周囲偵察に意識を集中させた
山荘への細道では、反応点のグループ同士が、変わらず対峙してこう着状態になっている印象がある
さらに偵察範囲を広げていくと、東隣のN目来氏たちが起居している貸別荘に、銃器使用の特徴ある反応が顕著に確認できる
当面、この山荘に迫る危険はなさそうだと判断した私は、顔見知りのN目来氏たちの窮状を救おうと決心し、山荘の屋根から一気に、N目来氏たちの貸別荘の屋根を目指して飛行を開始した
当然、まだ透明化状態は解除していないから、細道周りで戦闘している連中には視認できるはずもない
貸別荘の屋根に到達して、屋内に入るドアを引き破っても、建物内では激しい銃撃音が鳴り響いていて、その音に誰かが気付くとは、到底思えない喧噪ぶりだ
すぐに2階の廊下に出ると、銃声が絶え間なく鳴り響いている部屋に向かう
ドアが無くなっているようだが、念のため廊下の壁越しに透視眼で中の様子を窺う
テーブルが倒れた状態でコの字形に置いてあり、その中に公安側らしき人影が四つ見えるが、動けているのは二体、いや一体に減った
そこを目がけて、交互に短機関銃の弾丸を補充をして、発砲し続けている人影が二体。こいつらが敵だ!
情況を見取って、ドアが吹き飛んだままの入口から素早く中に入ると、手前側の戦闘服の側面に手を掛けて、思いっ切り横に払ってやった
ふっ飛んで壁に当った奴は放っておいて、残る一人の関心を惹くために、透明化を解除して姿を現してやる
驚いて、こちらに向かって短機関銃をぶっ放してくるところを、構わず木刀の一撃を肩口に食わす
いわゆる袈裟切りにしたら、その打撃速度に加減がなかったため、床にめり込むように激突した
これで終了かと思ったが、念のため部屋の中を見回していると、テーブルの陰からひょっこり人の顔が覗いた
おや、顔見知りの刑事さんじゃないかと、なんだか嬉しくなってつい手を挙げてしまい、慌てて透明状態に戻したが、最後の敵を強く打ったせいで、ひびが入った木刀を抱え込むと、急いで部屋から脱出した
部屋を急いで出たのは、今度は山荘のことが心配になったからだ
気が急くままに、新入して来たコースを逆に辿って、再び屋根から山荘に舞い戻るとすぐに、周囲偵察で山荘の内外を丁寧に探ってみる
山荘の西側にある公安拠点方面から、幾つか火器と電子機器が移動している反応がある
また、山荘前の細道で交戦していた公安部隊と敵工作部隊の戦いは、どうやら後者が優勢になっているようで、三点が一塊になって戦っていた公安部隊の一隊は、ばらけてしまっていて、ほぼ壊滅状態のようだ
だからだろう、残る一隊に敵五名が攻撃を集中させていて、こちらも風前の灯になっている
その答えはすぐに、数十倍の弾丸になってKに跳ね返って来たが、かろうじてテーブルが身を護ってくれる
そのほんの僅かな弾幕の隙をついて、ドアが僅かに開き「早く!急げ!」と声が掛かった
その一瞬を逃さず、T村は上手くドアを開けて、室内に飛び込めたが、その背を右奥からの銃弾が襲う
堪らず、一度開いたドアはすぐに閉まり、Kは一人防弾テーブルの楯の内に残される
一人退去した状況を見た右奥からの侵入者は、たった一人の二丁拳銃で対抗している敵を殲滅せんと、じわじわ接近を図る
階下の敵も、1階には敵がいないことを確認し終えて、2階への階段口に姿を現してきた
戦闘服をがっちり装備している敵の姿に、Kは持っている拳銃で、あいつらに打撃を与えられることなんてあるのかな、と不思議に冷めた感覚で、自分の置かれている状況を俯瞰していた
その時、突然ドアが開いて、二人の公安警官が発射音のでかい拳銃を、右奥の敵にぶっ放しながら現れ、T村が「Kさん、早く中へ!」と叫んだ
その声が耳に入るより早く、Kは背後のドアが開いた風を感じて、思いがけず素早く身体が反応し、T村の声を聞いたときには、部屋の中に転がり込んでいた
9mmパラべラム弾使用のヘッケラー&コッホのP2000を装備している公安二名の射撃によって、それまでの低威力の拳銃で応戦していた相手と同じと侮った一名が、不用意に胸元に2発食らってその場に倒れた
が、それも束の間、階下から上がって来た二名が加わり、ウジーの連射を浴びせると、公安の二人は堪らず部屋の中に逃げ込み、ドアに鍵をかけ、それまでロの字に並べていた防弾テーブルのうち1台を、ドアにあてがってバリケードにする
「どうやら、攻め込んで来たのは四名、いや一人減って三名のようだな」N目来が皆を落ち着かせようと、数的な優位に立てたことを、はっきりした声で皆に確認する
連射の利くウジーが相手とはいえ、多少生き残れる希望が見えてきたことで皆の士気が高まった
ところが、その希望を吹き飛ばすように、恐らくプラスチック爆薬であろう爆発が、部屋のドアと一緒に防弾テーブルを吹き飛ばし、残りのコの字形バリケードにぶつかる
その瞬間、N目来の脳裏に閃きがあり、その直感に従い「皆、ガスマスクを装着しろ!」と、短く伝えた
この拠点には、D田が念のため自衛隊から入手しておいてくれた、簡易な直結式のガスマスクがあった
吹き飛んだドアの破片が、バリケード代りのテーブルに当る衝撃音が、続く敵の突入を予感させたが、僅かに攻撃の間が空いた。これは閃光弾か催涙ガス弾を放り込んで来るな、とN目来は直感しその直感に従った
敵味方ほぼ同数の戦いにおいて、所持している武器にかなりな威力差があっても、守備側の守りが堅固な場合は、まず視覚を奪うことで優位に立ち、圧倒的な勝利を収めるのが定石だ
幸いバリケード内に、予備弾薬と一緒にガスマスクは運び込んである
N目来は、ガスマスクを箱から取出し、部下のJ間と県警の二名に渡し、自らも素早く顔面に装着した。と、次の瞬間に、シューシューと白煙を吹き出すガス弾が、3個4個、5個と部屋の中に投げ込まれた
間一髪だったな、と思いながら、味方の様子を見やると、同じ公安のJ間は既に装着し終えているが、装着に慣れていない県警の二人のうち一名は、まだしっかり取り付けられていなくて、咳き込みながら仲間に手伝ってもらっている
一方、催涙ガスが、ある程度部屋に充満したのを見計らい、C国工作員戦闘隊の三名は、一人また一人と間合いを置きながら、素早く部屋に滑り込んだ
まだ濃い白煙の中に、ぼんやり浮かんでいるコの形の簡易バリケードの中は、静まり返っていて予想していた激しい咳き込み音が聴こえない
日本公安アジト制圧班リーダーの周(ヂョウ)は、なにか怪しいと気付き、右手を挙げて仲間を制した
その途端、倒してあるテーブルの陰から人影が立ち上がると、拳銃を3発連射して来た。銃弾は周たちが装着しているタクティカルベストとボディアーマーを貫いて、襲撃者の人体に少なからぬ損傷を与えた
仲間が一人倒されたことで、残った二人のアドレナリンは噴き上がり、至近距離からバリケード目がけて、ウジーの猛射が浴びせられた
一瞬の隙を突いて、連射した銃弾でどうやら敵を倒したらしいのに、手応えを味わう間もなく、激しい銃弾の嵐を身をすくませて耐えていた守備側にも、跳弾による被弾が何発か当っている
3連射して敵を倒したN目来も、右肩に激痛を感じていた。県警の一人もずっと動かないまま、倒れている
「私は銃が打てなくなった、K刑事、この銃を使ってくれ」左隣で伏せているKに、自分の銃を託した
Kはうなづいて、シグをホルスターに収めると、N目来のP2000を手にして装弾数を確認し、まだ自分のシグより多い残弾数に「公安はいいの支給されてんな…」と独り言が出た
銃は強力なものに換わったものの、こうばりばりやられていたら反撃も出来ない
今は、距離を置いて撃ってきているが、こちらが手を出せないと見たら、もっと近接して来るだろう。そうなったら、テーブルのバリケードは用をなさなくなって、もう少し角度が付けば、自分たちは蜂の巣だ
そのとき、敵が吹っ飛ばされた
すごい勢いで、壁にぶち当たって床に転がった
もう一人が、こちらでないどこかにウジーをぶっ放したかと思うと、バキッと音を立てて床に叩き付けられた
恐る恐る顔を上げると、黒い影が突っ立っている状態で突然現れ、ちょっと会釈して、また消え、一瞬黒い木刀のようなものだけが見えたが、次の瞬間、それも消えた
Kは、自分たちが助かったのかも、という突拍子もない考えが浮かんだが、もうしばらく身を隠したままでいようと思った
やがて静かなままの状態を確認して、自分たちの現況を把握すべく、テーブルバリケードの中を見やって、その惨状に愕然としたが、のろのろ身を起こして、仲間の応急手当てに取り掛かった
*
六人の敵を片付けた私は、再び山荘の屋根に舞い戻ると、無理やり興奮状態を鎮静化させ、周囲偵察に意識を集中させた
山荘への細道では、反応点のグループ同士が、変わらず対峙してこう着状態になっている印象がある
さらに偵察範囲を広げていくと、東隣のN目来氏たちが起居している貸別荘に、銃器使用の特徴ある反応が顕著に確認できる
当面、この山荘に迫る危険はなさそうだと判断した私は、顔見知りのN目来氏たちの窮状を救おうと決心し、山荘の屋根から一気に、N目来氏たちの貸別荘の屋根を目指して飛行を開始した
当然、まだ透明化状態は解除していないから、細道周りで戦闘している連中には視認できるはずもない
貸別荘の屋根に到達して、屋内に入るドアを引き破っても、建物内では激しい銃撃音が鳴り響いていて、その音に誰かが気付くとは、到底思えない喧噪ぶりだ
すぐに2階の廊下に出ると、銃声が絶え間なく鳴り響いている部屋に向かう
ドアが無くなっているようだが、念のため廊下の壁越しに透視眼で中の様子を窺う
テーブルが倒れた状態でコの字形に置いてあり、その中に公安側らしき人影が四つ見えるが、動けているのは二体、いや一体に減った
そこを目がけて、交互に短機関銃の弾丸を補充をして、発砲し続けている人影が二体。こいつらが敵だ!
情況を見取って、ドアが吹き飛んだままの入口から素早く中に入ると、手前側の戦闘服の側面に手を掛けて、思いっ切り横に払ってやった
ふっ飛んで壁に当った奴は放っておいて、残る一人の関心を惹くために、透明化を解除して姿を現してやる
驚いて、こちらに向かって短機関銃をぶっ放してくるところを、構わず木刀の一撃を肩口に食わす
いわゆる袈裟切りにしたら、その打撃速度に加減がなかったため、床にめり込むように激突した
これで終了かと思ったが、念のため部屋の中を見回していると、テーブルの陰からひょっこり人の顔が覗いた
おや、顔見知りの刑事さんじゃないかと、なんだか嬉しくなってつい手を挙げてしまい、慌てて透明状態に戻したが、最後の敵を強く打ったせいで、ひびが入った木刀を抱え込むと、急いで部屋から脱出した
部屋を急いで出たのは、今度は山荘のことが心配になったからだ
気が急くままに、新入して来たコースを逆に辿って、再び屋根から山荘に舞い戻るとすぐに、周囲偵察で山荘の内外を丁寧に探ってみる
山荘の西側にある公安拠点方面から、幾つか火器と電子機器が移動している反応がある
また、山荘前の細道で交戦していた公安部隊と敵工作部隊の戦いは、どうやら後者が優勢になっているようで、三点が一塊になって戦っていた公安部隊の一隊は、ばらけてしまっていて、ほぼ壊滅状態のようだ
だからだろう、残る一隊に敵五名が攻撃を集中させていて、こちらも風前の灯になっている
posted by 熟年超人K at 23:44| Comment(0)
| 再編集版・序章
2023年05月02日
熟年超人A〜第4章3-7 C国工作員との対決(6)
次の銃撃はなく、束の間の静寂の間に私は自身の損傷具合をチェックしていた
銃弾の直撃のあったフェイスマスクは、重力場シールドが瞬間展開し弾速をほぼゼロにしていたし、ボディへの着弾は、同時に展開した重力場シールドに進行方向を変えられて、むなしく四方に飛び散っていた
それよりも、私自身、脳内に一瞬でインプットされた対戦相手の、暗視ゴーグルが吹き飛んで現れた顔が、あのS県山中でしばし軟禁されたときの、河本と名乗ったリーダー格の男の顔と、脳内の記憶槽で照合できたことが驚きだった
同時に、あのときのC国諜報員が、これほど苛烈な攻撃者になって現れた、現実への驚きでもあった
その感情は、しばし棚上げして、私は相手が立ち直るまで待つことなどせず、再び間を詰めて、河の首筋目がけて木刀を振った
相手が動かなくなったことを確認して、私は裏山の斜面を上って行った最後の一名の後を追う
超人眼と超人聴覚を動員すれば、鍛えられた秘密工作員と言えども、私からは逃げられる術はない
普通の人間が(訓練を重ねていたとしても)、苦労して登っている斜面など、重力をコントロールしている私には、どうにも抗うことなど出来はしない
必死で雨に濡れた斜面を上っている六番目の戦闘員の背中に、ほぼ全力での木刀の一撃を見舞うと、ぐえっと声を上げ、そのまま斜面に突っ込んで動かなくなった
戦闘服の下に着用しているタクティカルベスト越しに、跳ね返って来た肉体の弾力に、もしやこの男は、あのぽっちゃり男ではなかったか、と確かめたい気も起きたが、それより山荘に戻ることが急務と考え、そのままに打ち遣っておくことにした
*
時間は少し遡る
マイクロバスから山荘目指して出撃した黄の攻撃隊は、指令車としてのマイクロバスに、副本部長の王とサイバー攻撃隊員の催を残し、それ以外の十二名で構成されていたが、当初見くびっていた日本公安守備隊の、単発の狙撃銃による的確な銃撃に、すでに三名の隊員を失っていた
装備している短機関銃ウジーの9x19mmパラベラム弾は、公安守備隊のバリスティック・シールド(防弾盾)を貫けず、逆に発砲光を正確に狙い撃ちしてくる単発銃の餌食になったのだ
攻撃隊長の黄は、当初の作戦(銃器の扱いに劣る警察官の集団との戦い)を変更し、熟練した戦闘集団との戦いと認定することで、高い士気を持ち、熟達した戦闘力を持って作戦を遂行すべしと、全員に徹底した
そこからC国工作員部隊の動きが向上し、公安守備隊はじりじり押され始め、加えて一帯に設置してある監視カメラの映像が乗っ取られたことで、当初の公安東基地とAの山荘を同時に守る守備位置を放棄して、主目的である山荘警護のため、本庁SAT隊の応援が来るまで、第2守備位置を死守するための後退となっていた
N目来とサイバー警察官のJ間、地元県警から応援に来ている刑事二名は、貸別荘の二階に立て籠っていた
恐らく、敵はこの公安基地を潰して、今回のA一家拉致事件の目撃者は、徹底排除しようとするであろう、というN目来の推測に、他の三名も同意し、こうなればここで本庁SAT隊到着の明け方まで踏ん張れれば、助かる道もある、という決死の覚悟を固めていた
そのサバイバル作戦を成り立たせる要素として、今回の警護任務がM小杉事件よりも、激烈なものになるであろうという直属の上司D田の予測を基に、室内の木製テーブルの裏には全て鉄板が張ってあり、いざという場合の簡易トーチカへの流用を考慮したものにしてあった
それを、二階に上がる階段前に2台“への字”に並べ、県警の二名が迎え撃つ形を取り、2階バルコニーから侵入してくる敵は、室内に“ロの字”に設置したテーブル内で公安の二名が迎え撃つ、としていた
敵が来るのをただ待つのは辛い
まして、こちらが所持している拳銃の何倍もの威力のある、短機関銃(恐らくウジー)を持っているとなれば、日頃、銃器をもって敵に対することなど、未経験の県警の刑事としては、N目来から聞いた防弾テーブルが無ければ、さっさと逃げ出したい(と言っても逃げ出すのは不可能だろうが)ところだった
Kは、手にしている通常の刑事用の拳銃シグ・ザウエルP230に目を落とした
発射の反動を押えた扱い易い銃なのだが、その分9oパラベラムに比べると、威力が落ちる
相手は短機関銃を持っているらしいが、これでまともに対抗できるのだろうか
ふと、家で自分の帰りを待っている妻子の顔が脳裏に浮かび、無性に逢いたい気持ちが高まったが、バディのT村巡査長は独身なのだ。彼の親御さんや、いるかいないか知らない彼女のためにも、ここはなんとか生き抜かなければならないと、気持ちを新たにした
そう思って現状を観察してみると、自分達の守備状況は、吹き抜けの階下全体が見渡せる好位置ではある
まずありえないが、玄関から侵入してくる敵や、テラス側の窓ガラスを突き破って突入してくる敵に対しては、非力な武器しかないとは言え、かなりのアドバンテージがある
問題は、この2階フロアの右奥にある非常用の出入口から、同時に突入された場合だ
一気に不利な状況に陥った時、公安の連中が居るドアの向こうの部屋に、どれほど素早く移動できるかが不安だった。入室の際、敵味方判別のドアノックをして、ドアを開け、中に飛び込み、さらに部屋の中のテーブルバリケードに飛び込めるものなのか…
それに、年間で40〜50発しか実弾訓練が出来ていない県警警察官が、戦いのエキスパートであろう工作員との銃撃戦を、少ない弾丸のハンデ付きでやるのは正直気が重い
じりじりするような時間は、突然玄関ドアがぶち破られ、同時に玄関ホールに投げ込まれた数発の閃光弾の、凄まじい爆発音で破られ、猛烈な白煙の噴出が視界を奪い始めたことでストップした
これはある程度予測されていた攻撃だったので、二名の刑事は落ち着いて階下の敵の侵入に備えた
その白煙の中から敵の姿が現れる前に、懸念していた右奥の非常口のドアが、鈍い爆発音とともに吹き飛んだ
同時に二方から敵の攻撃を受けた場合は、部屋に立て籠もって戦う計画だったので、数発威嚇射撃をしておいて、退避する積りだったが、その前にウジーと思われる連続着弾に見舞われ、KもT村も防弾テーブルの陰に隠れているのが精一杯だった
幸い鉄板で裏打ちされたテーブルは、見事に所期の役割を果たしているが、それとてさらに敵が接近戦を挑んで来れば、いつまで持つか分からない
「T村、お前の銃を貸せ!」T村の銃も併せた二丁拳銃で、階下と右奥の敵をけん制して、その隙にまずT村に部屋のドアを開けさせようという算段だった
その意図を察したT村は、銃をKに手渡すと、身を低くしてドアににじり寄り、合図のリズムでドアをノックする
その前にKは、意を決して中腰で上半身をテーブル外に曝し、左手の銃で階下に3発、右手の銃で右奥に向けて3発発射した
銃弾の直撃のあったフェイスマスクは、重力場シールドが瞬間展開し弾速をほぼゼロにしていたし、ボディへの着弾は、同時に展開した重力場シールドに進行方向を変えられて、むなしく四方に飛び散っていた
それよりも、私自身、脳内に一瞬でインプットされた対戦相手の、暗視ゴーグルが吹き飛んで現れた顔が、あのS県山中でしばし軟禁されたときの、河本と名乗ったリーダー格の男の顔と、脳内の記憶槽で照合できたことが驚きだった
同時に、あのときのC国諜報員が、これほど苛烈な攻撃者になって現れた、現実への驚きでもあった
その感情は、しばし棚上げして、私は相手が立ち直るまで待つことなどせず、再び間を詰めて、河の首筋目がけて木刀を振った
相手が動かなくなったことを確認して、私は裏山の斜面を上って行った最後の一名の後を追う
超人眼と超人聴覚を動員すれば、鍛えられた秘密工作員と言えども、私からは逃げられる術はない
普通の人間が(訓練を重ねていたとしても)、苦労して登っている斜面など、重力をコントロールしている私には、どうにも抗うことなど出来はしない
必死で雨に濡れた斜面を上っている六番目の戦闘員の背中に、ほぼ全力での木刀の一撃を見舞うと、ぐえっと声を上げ、そのまま斜面に突っ込んで動かなくなった
戦闘服の下に着用しているタクティカルベスト越しに、跳ね返って来た肉体の弾力に、もしやこの男は、あのぽっちゃり男ではなかったか、と確かめたい気も起きたが、それより山荘に戻ることが急務と考え、そのままに打ち遣っておくことにした
*
時間は少し遡る
マイクロバスから山荘目指して出撃した黄の攻撃隊は、指令車としてのマイクロバスに、副本部長の王とサイバー攻撃隊員の催を残し、それ以外の十二名で構成されていたが、当初見くびっていた日本公安守備隊の、単発の狙撃銃による的確な銃撃に、すでに三名の隊員を失っていた
装備している短機関銃ウジーの9x19mmパラベラム弾は、公安守備隊のバリスティック・シールド(防弾盾)を貫けず、逆に発砲光を正確に狙い撃ちしてくる単発銃の餌食になったのだ
攻撃隊長の黄は、当初の作戦(銃器の扱いに劣る警察官の集団との戦い)を変更し、熟練した戦闘集団との戦いと認定することで、高い士気を持ち、熟達した戦闘力を持って作戦を遂行すべしと、全員に徹底した
そこからC国工作員部隊の動きが向上し、公安守備隊はじりじり押され始め、加えて一帯に設置してある監視カメラの映像が乗っ取られたことで、当初の公安東基地とAの山荘を同時に守る守備位置を放棄して、主目的である山荘警護のため、本庁SAT隊の応援が来るまで、第2守備位置を死守するための後退となっていた
N目来とサイバー警察官のJ間、地元県警から応援に来ている刑事二名は、貸別荘の二階に立て籠っていた
恐らく、敵はこの公安基地を潰して、今回のA一家拉致事件の目撃者は、徹底排除しようとするであろう、というN目来の推測に、他の三名も同意し、こうなればここで本庁SAT隊到着の明け方まで踏ん張れれば、助かる道もある、という決死の覚悟を固めていた
そのサバイバル作戦を成り立たせる要素として、今回の警護任務がM小杉事件よりも、激烈なものになるであろうという直属の上司D田の予測を基に、室内の木製テーブルの裏には全て鉄板が張ってあり、いざという場合の簡易トーチカへの流用を考慮したものにしてあった
それを、二階に上がる階段前に2台“への字”に並べ、県警の二名が迎え撃つ形を取り、2階バルコニーから侵入してくる敵は、室内に“ロの字”に設置したテーブル内で公安の二名が迎え撃つ、としていた
敵が来るのをただ待つのは辛い
まして、こちらが所持している拳銃の何倍もの威力のある、短機関銃(恐らくウジー)を持っているとなれば、日頃、銃器をもって敵に対することなど、未経験の県警の刑事としては、N目来から聞いた防弾テーブルが無ければ、さっさと逃げ出したい(と言っても逃げ出すのは不可能だろうが)ところだった
Kは、手にしている通常の刑事用の拳銃シグ・ザウエルP230に目を落とした
発射の反動を押えた扱い易い銃なのだが、その分9oパラベラムに比べると、威力が落ちる
相手は短機関銃を持っているらしいが、これでまともに対抗できるのだろうか
ふと、家で自分の帰りを待っている妻子の顔が脳裏に浮かび、無性に逢いたい気持ちが高まったが、バディのT村巡査長は独身なのだ。彼の親御さんや、いるかいないか知らない彼女のためにも、ここはなんとか生き抜かなければならないと、気持ちを新たにした
そう思って現状を観察してみると、自分達の守備状況は、吹き抜けの階下全体が見渡せる好位置ではある
まずありえないが、玄関から侵入してくる敵や、テラス側の窓ガラスを突き破って突入してくる敵に対しては、非力な武器しかないとは言え、かなりのアドバンテージがある
問題は、この2階フロアの右奥にある非常用の出入口から、同時に突入された場合だ
一気に不利な状況に陥った時、公安の連中が居るドアの向こうの部屋に、どれほど素早く移動できるかが不安だった。入室の際、敵味方判別のドアノックをして、ドアを開け、中に飛び込み、さらに部屋の中のテーブルバリケードに飛び込めるものなのか…
それに、年間で40〜50発しか実弾訓練が出来ていない県警警察官が、戦いのエキスパートであろう工作員との銃撃戦を、少ない弾丸のハンデ付きでやるのは正直気が重い
じりじりするような時間は、突然玄関ドアがぶち破られ、同時に玄関ホールに投げ込まれた数発の閃光弾の、凄まじい爆発音で破られ、猛烈な白煙の噴出が視界を奪い始めたことでストップした
これはある程度予測されていた攻撃だったので、二名の刑事は落ち着いて階下の敵の侵入に備えた
その白煙の中から敵の姿が現れる前に、懸念していた右奥の非常口のドアが、鈍い爆発音とともに吹き飛んだ
同時に二方から敵の攻撃を受けた場合は、部屋に立て籠もって戦う計画だったので、数発威嚇射撃をしておいて、退避する積りだったが、その前にウジーと思われる連続着弾に見舞われ、KもT村も防弾テーブルの陰に隠れているのが精一杯だった
幸い鉄板で裏打ちされたテーブルは、見事に所期の役割を果たしているが、それとてさらに敵が接近戦を挑んで来れば、いつまで持つか分からない
「T村、お前の銃を貸せ!」T村の銃も併せた二丁拳銃で、階下と右奥の敵をけん制して、その隙にまずT村に部屋のドアを開けさせようという算段だった
その意図を察したT村は、銃をKに手渡すと、身を低くしてドアににじり寄り、合図のリズムでドアをノックする
その前にKは、意を決して中腰で上半身をテーブル外に曝し、左手の銃で階下に3発、右手の銃で右奥に向けて3発発射した
posted by 熟年超人K at 17:33| Comment(0)
| 再編集版・序章