2023年02月07日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(7)

W野木が画面を覗きこんでいる間に、報告書をパラパラめくって中身に目を通し始めるT野
S我谷は、不安そうな表情にならないよう気を付けながら報告書を補足しようと口を開きかける
「いい、まだ喋らんでいい」手でS我谷を制しながら、5ページにまとめられた報告書を素早く見ていくT野
組長のW野木が、スライドショーを見終わって、顔を上げると同時にT野も報告書から視線をS我谷に戻す
「で、お前はこのおっさんの住んでるアパートを見張り、後を付けパチンコ屋で見失い、今度はネットカフェで又、見失ったって報告書なんだな、こりゃあ」

「え、ええ、まあ、そういうことです」次に怒鳴り声が来るだろうと、S我谷は予測して深々と頭を下げる
「で、お前の結論は、あの親父と暴れた覆面野郎は、P連合とはなんの関係もないって言うんだな」
「はい、あの二人はただの格闘技をやってる腕っぷしの強い奴だと思います」
「組長、私もそう思ってます。今、あいつらなんかに関わり合ってるときじゃないと思うんで、後はこいつに見張らせといて、あっちの方を片付けるのが先じゃないかと…」
「そうか。お前がそう言うんなら、あいつらは後回しだ。おい、探偵屋、また何かあったら、言ってくるんだぞ。それにしても、この写真じゃなにもわからんなぁ」W野木が目で合図すると、T野がうなずいて茶封筒をS我谷に渡す

「あ、どうも、ありがとうございます」お礼を言って、T野から受け取った封筒を、男たちが見ている前で開けて中を確認し、2枚の1万円札を指で確かめ
「なんか、いつもより少ないんですが…」恐る恐るT野の顔色を窺いながら、小さな声で言った言葉を途中で飲み込み、慌ててお辞儀をして立ち上がる
「お前がいい報告を持って来ないからじゃないか。文句あんのか」T野が低い声で吐き捨てるように言う
「いや、すみません。また、何かわかったらご報告しますんで。それじゃあ」もう一度お辞儀をして、そそくさと部屋を出ようとする
「今週中に、あの覆面野郎の正体を突き止めて来い。わかったな!」T野が抑えた声でそう言うのを、もう一度お辞儀をして、わかりました、と言ってS会事務所のドアを閉めて、額の汗をそっとぬぐうS我谷
*
*

警視庁公安部外事第二課課長のJ道警視は、対策会議招集の起案書を書き上げ、関係各所へのBCCメールに添付すると、そろそろ正午になる腕時計を見て、スマホで妻に都内のデパートで待ち合わせようと、メールした
*
*

内調1課のM原とY岡、2課のK川の三人は、内閣府6階のミーティングルームで、Y岡がコンビニで買ってきた弁当とお茶で昼食を摂りながら、ぼそぼそ話を続けていた
「とにかく、もう起きていることは間違いない。そのGが宇宙人だとして、我が日本が全人類を代表するような形で、接触を持ってしまったんだから」とM原
「私としても、その場の空気感としては、真に友好的な、シンパシイというか、そんなものを感じました」弁当を頬張りながらY岡が言う
「そこが、T電に拙速な交渉を持たせるはめになったんだな。しかし、あの国の連中はなんでも自分のところが一番でないと気が済まないから、必ず茶々を入れて来るぞ」茶々を入れて来るぞ、に合せてお茶のPETボトルを口にして、K川がにやっと笑う

「茶々は、あの国も入れて来るさ。問題は、こっち側の体勢が整えられるか、だ」とM原
「そうですね。明日、NSC(国家安全保障会議)の招集まで行くんでしょうか?」
「W田さんが官房長官にどんな風に伝えるか、だが、あの国にこの件をどう見せるか、総理も悩ましいだろうからなぁ」K川は、もう弁当を食べ終えて箸袋の中から爪楊枝を取り出して口にくわえている

*

これからの課題は、スーツ非装着時の同種間接触問題だと言っていたジュブブの残留思念が、私の脳内で警戒せよと明滅している
当初想定していたような、私が超人の仲介人として手数料を受け取る、という仕組みが出来たとして、それを世間にすんなり納得させるには、なにかが足りていない
官憲だけでなく、マスコミも仲介人の私から、超人に関する情報を得ようとするだろうし、そればかりか家族にまで追及の視線を向けることは容易に想像できるし、度合いが増せば家族の平穏は壊滅だろう

普通人である私や家族を、詮索したり尋問したりすれば超人が不機嫌になる、みたいな設定を用意しておくべきなのかも
テレビドラマでよくあるように、私や家族に暴力が振るわれそうなときには、超人力で対抗することになるが、毎度毎度では世間の不興を買うだろうし、私はともかく、妻も子も孫も社会と敵対したら、普通に生きていけるはずがない
そんなことを考えていると、いつものようにSAプランニングM田井社長の金言が脳裏に浮上した

『敵は作ったら駄目。苦手と思った相手ほど、乗り越えれば味方に変わってくれるものだ』…そう、それは現役時代に何度か経験した企画売り込みの鉄則だ
苦手なクライアントの担当者が味方に変わるとき、それは何度もめげずにプレゼンしている繰り返しの中で、ある時突然、私という人間の、なにか(趣味や物の見方)が相手に共鳴したときだった
つまり、乱暴そうなつっぱり兄ちゃんが、野良猫を抱き上げるのを見た彼女の中に“好感”が芽生えるとか

しかし、まさか超人の趣味や考え方を披露する場などありようもないし、そもそも一般人との交流は、一段上の立場で対応すると決めていたはず
堂々巡りの思考の末、やはり信頼されるには、できるだけ人を傷つけないことと、些細な心配りを見せることだろう、と結論した
ただ、ここを侵害したら絶対怒る、その先には踏み込んではいけない、というラインを明確に打ち出しておくことが肝要だ
とにかく、超人Gは私に助けられたことがあるので、その恩に報いて、私の望むことは無茶でない限り叶えようとし、望まない事態は回避するという関係性を前面に出しておくのだ
警察やマスコミに訊ねられたら、その話をして、私という人物が超人の庇護下にあるという、そんな印象づけをするのだ

そこまで考えをまとめたとき、洗面所でなにやらやっている妻が私を呼んだ
「パパー、わたし、これからT彦のとこに戻るけど、できるだけ早くここは引き払って、T彦の家の近くで一緒に暮らせるようにしてね」
分かってる、と返事をしておいて、さーっと周囲偵察を試みる
相変わらずの張込み体勢が敷かれているが、その時人の動きがあった
軽自動車が1台、アパートの前の道に停まり、中から人が降りたので、張込みの刑事が動く
聴力の感度を上げ、透視眼を駆使してその様子をチェックする

「誰だ、なぜこんな処に車を停める?」
「や、すみません、私はA県警捜査四課のKですが」言いながら、内ポケットからなにか取り出して、相手に見せている(警察手帳だな)
「ここは、県警は寄らないことになっているはずだ」
「いや、すみません、この近くでP連合の鉄砲玉らしいのがうろついてるって、タレコミがあったんで隠密でアラってるんですが」
「そんなことはどうでもいい、ここは所轄は出入り禁止だ。早く行け!」
そんな二言三言の会話があった後、軽自動車はそそくさと発車していった

「じゃ、行くわね」妻の声だ。今、外に出して良いか、一瞬迷ったが大丈夫だろうと判断
「ああ、T彦とK子さんによろしく。また、訪ねるからって言っといて」
妻を送り出し、再び透視眼と超人耳で様子を窺う
階段を降りた妻が、アパート前の道に出て、駅方面に向かって歩いて行く。その後を、男がばらばらに二人、さりげなくついて行く
そんなに遠くまでは見続けられないので、聴力に神経を集中させる
車の中の男が「マルヒの奥さんがアパートを出ました。一応、二名で尾行しています。はい、マルヒはまだヤサの中です」…う〜ん、刑事ものドラマのワンシーンそのものだ
posted by 熟年超人K at 16:47| Comment(0) | 再編集版・序章

2023年02月06日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(6)

外事一課長のN倉警視は同じ大学の出身で、1年先輩の同じキャリアでありながら、このところの自分の昇進を快くは思っていないことを、あえて周囲に漏らして、互いの立ち位置を印象付けようとしている人物だ
それは、映し鏡のようにJ道にも投影されていて、速やかな一報を入れることを躊躇させている
しかし、この報告書と同じような報告が、今頃内調1課のM原の許にも上がっていることを考えると、公安部、いや警察庁として出遅れる訳にはいかない、という結論に至る
そこで、気持ちを切り替えてスマホに手を伸ばす
休日の朝の電話、それも今朝初めて知った内容にN倉の機嫌が良かろうはずもなかった
「とにかく明朝そちらに伺って、件の報告書を拝見しよう」と言って、向こうから先に通話を終了したのが、N倉らしく、J道は苦々しい思いでスマホを置いて、明日の対策会議招集の起案書作成に取り掛かることにした
*
*

[ 17日(日)の9:45am N市西区 ]
市内の信用金庫で窓口を担当しているH野七美が、日曜の遅い朝の光で目覚めると、探偵屋のS我谷がトースターから焼き立ての食パンを取り出すところだった
「おお、起きたね。ななちゃんも要る?」トーストを片手に持ったSが言う
「何時〜、今」起き立てはいつも、機嫌が悪い七美がそう言うと、S我谷が10時ちょっと前だよ、と応える
「そうか〜、なら起きよっ。朝ごはん、それでいいよね〜。わたしにも1枚焼いてぇ」甘えた声になる七美
「OK!少し焦げた方がよかったよね」そう言いながら、トースターの中に食パンを放り込み、自分のトーストと冷蔵庫から取り出したマーガリンを持ち、さらにドアに差し込まれている新聞も取って、食卓の椅子に腰を下ろす

「どれどれ、世間様になにかありましたかね」と言いながら、新聞を広げ、置かれたままになっている洋皿にトーストを載せ、マーガリンを塗り始める
そこへパジャマを直しながら七美がやってきて、向かい側の椅子に腰を下ろす
チン、という音にS我谷が反応し、パンをくわえたままトースターのところに行き、中からパンを取り出して洋皿の上に置く
「なんか、汚れてない?このお皿」少し不満げな声音だが、それでもマーガリンの蓋を開けて、パンに塗り始める七美
S我谷の方は、そんな七美にお構いなしで、パンをさっさと食べ終わり、沸かしていたやかんとインスタントコーヒーのビンとスプーン、二人分のマグカップを持って食卓に戻る

「なんだか、いつもの日本だなぁ…」と言いながら、コーヒーを用意して、ひとつを七美の前に押し出し、もう一方のマグカップを口に運ぶ
七美はマーガリンを塗り終えて、テレビのリモコンをちらかった卓上から探し当て、スイッチをオンにする
不意に、これが家庭かぁ、と温かいような想いがS我谷を包み込み、優しい気持ちが満ちる
「なあ、俺らそろそろちゃんとしにゃあいかんなぁ」呟くようなS我谷の声に、七美の耳はぴんとそばだつが、なにも返事をせず、テレビを観ながらゆっくりトーストを噛んでいる
「今な、もしかすると、いい収入になるかも知れんネタがあるんだ。東京のテレビリポーターのDとかいう、ほらななちゃん知ってるだろ『昼報ですよ』っていうやつのさ」
「知ってるよ〜。わたしたまに遅昼のときに、食堂で観てるよ。へえ〜あの番組のリポーターさんと知り合ったの?」
「そうそう、結構きさくな好い人だったよ」…S会のT野なんかより、ずっといい奴さ、と心の中で付け足す

「てつ君、なんか危なそうな人と付き合ってるじゃない。そんなのさっさとやめて、まともな会社と付き合えるといいね!」そのはっきりした口調に、なんだ知ってたんか、と小さな棘が心に刺さる
「まあ、これからだけど、今持ってるネタをうまくテレビに渡して、これから先もリポーターさんの役に立てて、安定した稼ぎになってけばいいな、って思ってるんだ」そう言いながら、本心からそう思うS我谷だった
そのためには、とりあえずS会の若頭のT野が納得する調査報告をして、なおかつテレビ局が喜ぶあのネタを別にしておく必要がある
ならば善は急げで、事務所に行ってカメラのデータを分離しないと、と決心すると、何時T野に呼び出されたり、もし事務所に押し掛けられても大丈夫なようにしておかないと…
「そのことで俺、今から事務所に行ってくるわ」言うと七美の返事も聞かず、さっさと靴を履きにかかる

S我谷が、事務所兼住まいにしているN駅近くの古びた雑居ビルの、6階のエレベーターを降りてすぐにある自室に着いたのは、時計の針が11時半を廻った頃だった
鍵束から部屋の鍵を2つ取り出し、上下に2つある錠を開け、室内に入る
カメラを仕舞ってある戸棚に辿り着く前に、デスクに置いてある電話の留守番メモ灯が赤く光っていることに気付く
留守録再生ボタンを押して、そのまま留守録を聞きながら戸棚からカメラを取り出そうとしていると、聞き慣れたS会の若頭T野の、神経に刺さって来る声が流れ出す
<やいやい、いつまでかかってるんだ。組長に報告しないと、俺までケツを叩かれるんだぞ!とにかく早く報告に来い!」…やばい!こりゃかなり頭に来てる
次の留守録では、さらにイラついて甲高くなってきた声音が耳に刺さる
「まだか、早く事務所に来い!」…そして3番目の留守録が
「すぐ電話しろっ、すぐだ!」と念押しして切れる
電話のガイドは、1番目が昨夜10時すぎ(土曜の夜を七美と楽しく過ごしていた頃)2番目が11時頃、そして3番目の留守録は、つい先ほどの今朝の11時2分となっている

怒ってしまったときのT野を一度だけ見たことがある
S会の事務所に、頼まれていた町工場の社長が、キャバクラの女とホテルに入るときと、出て来たときの写真を届けたとき、若いチンピラが横を向いたままT野に返事したことがあって、そのとき突然切れて、その若い者をど突きまわしたのだ
その時は組長のW野木のとりなしで収まったが、あのときも声が甲高くなっていた

これは、ともかく組事務所に顔を出さないと収まらないのは分かる
持って行くSDメモリから、あの部分を削除してあるが大丈夫だろうか
T野はいつも、昨今のIT関連情報に強いことを、組の若い者にひけらかしていた
パソコンもよく見ているし、スマホも持っている
このメモリを渡せば、すぐにノートパソコンに差し込んで、中を見るだろうな
どのみち、あの訳のわからない画像があったところで、あの晩のAと正体不明の怪人との関係に繋がりそうもないし。
そもそもW野木組長が思っているような他の組関係の臭いがないことは、第一報で報告済みで、パチンコ屋の屋上の画像は、話をややこしくするだけに思えた
さらに言えば、リポーターのDが示した関心を大事にもしたかったのだ

どうせ最後の3カットだったから、その前で終わっていても不思議はないだろう
気持を決めて、SDメモリと報告書をクリアファイルに入れて、S会の事務所に電話をする
3コール目が鳴ったとたんにT野が出た
「はい、…」用心しているのか、S会とは名乗らない
「T野さんですか、連絡遅くなりましてすみません、リサーチプロのS我谷です」
「おう、駄目じゃないか連絡なしじゃあ。どうなってるんだ、あの件は」声の尖り具合は思ったほどではない
「すみません、これから報告書を持って伺いますんで、よろしくお願いします」
「すぐ来いよ。組長もじきにみえるから、しっかり報告してくれや」
そうか、W野木組長もいるのか、と思いながら電話を切る
それから事務所兼住まいの部屋の鍵を2つ、しっかり施錠して部屋を後にする

S会の事務所のあるマンションは、Sの事務所のある古い雑居ビルから徒歩で10分ほどの、飲み屋街の一角にあるやはり年季の入ったビルである
俺の事務所のあるマンションと、そんなに変わらないじゃないか、といつも思う
3階まで階段で上って、308号室のドアを3-2-2とノックする
がちゃっと音がして、チェーンが外される音がして、ドアが開く
「どうも」と言いながら、Sが入って行くとW野木がデスクの向こうでこちらを向いて座っている
T野が、デスクの前の革張り風の応接セットにこちら向きに座って、前の椅子に座れと顎で示す
あと二人、背が高くてがっしりした若い者と、ひょろっとした年のよくわからない男が、後ろで手を組んで足を肩幅より広げた姿勢で突っ立っている

いつもと違う緊張感の漂う雰囲気に、少し怖気づいているS我谷に、T野が手招きして自分の前の椅子を示す
頭をぺこりと下げて、S我谷は椅子に浅く腰を下ろすと、報告書の入った封筒を差し出す
「おう。これが報告書か」言いながら封筒を受け取ると、W野木に目で語りかけて封筒から報告書と、SDメモリを取り出し、W野木のデスクに載っているノートパソコンに挿入する
W野木によく見えるようにパソコンを操作して、画像フォルダを出してスライドショーを選択する
posted by 熟年超人K at 23:13| Comment(0) | 再編集版・序章

2023年02月04日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(5)

「はい。Gが当日我々に示した能力は、確かにT電やF県には救いでしょう。しかし、あれほどの能力をもって、仮に廃炉処理まで出来るとして、しかもGが言うには、1万tクラスのタンカーにデブリはおろか、炉心そのものまで積み込んで、太陽に放り込んで来るということで、およそ想像を大きく超えるやり方ですから、
これはもう人類の遠く及ばない解決法でしょう。となると、その力がなぜ、我が国のためにのみ発揮されるのか。これを善意で考えても、他国の諸問題解決に適用してくれるのか、さらに言えば、他国に対してこの力を日本がどのように行使しようと考えているのか、特に主要各国の指導者たちへのインパクトは重大なものになろうかと推察します」…Y岡の話を引き継ぐように、M原が発言する
「特に、彼の国の反応が容易に推察できるのです」

この発言を受け、W田とO垣からうながされる前に、2課のK川が立ち上がる
「その件につきましては、早急に諸外国の反応を調査しますが、当面、この案件につきましては、周辺諸国に対しても、A国に対してさえも、事前通報はなされていなかったと心得ております」
「そうだったのか、O垣君はどう判断していたんだ」…柔和な笑みの消えたW田の声が参加者の耳を打つ
「確か、この案件はT電の社内会議なので、結果次第で官房長官に報告しよう、ということで1課から人を出す件も、私の裁量権でやらせて頂いたと了解しておりますが」…思わぬ部下の反撃に一瞬たじろいだが、すぐに柔和な面持ちを取り戻して、W田が発言する
「そうだそうだ、私が様子を見てから、と言ったんだなあ、失敬失敬。で、ネットにこんなものが出た今、なにか事後の妙案、というやつはあるのかな」…たぬきだなぁこの人は、と思いながらM原が発言する

「S野さんのところには、この動画が作りものだったというSNSを何本か上げて頂き、当日は公安さんも人を出していたようですから、動画をアップした人物の特定と交渉をして頂き、私の方ではT電が連絡を取っているAというGとの中継人について、大至急身元確認と状況把握を行います」と、言っておいてちらっとK川に目をやる
「2課は、課員で動けるものに緊急招集をかけ、NETの動画の波及を調べますので、S野所長、ご協力よろしくお願いします」
分かりました、と言って会議室に居た全員が部屋を出たのは8時43分だった

[ 17日(日)の8:58am Y市戸塚区1LDKマンション シーブリーズ 304号室 ]
折角の日曜日の朝なのに、MLBの試合見たさにかけておいた目覚ましのコールが鳴っているのを夢うつつに聞いていたDは、はっと正気に返って大きく伸びをして、テレビのリモコンに手を伸ばした
目覚ましの示す時刻は9時少し前
お目当ての試合はもう、最終回に近づいている頃
案の定、明るくなった画面には日本人投手の姿はなく、所属のチームの敗色は濃い
がっかりしてテレビを消し、もう一度寝るかそれとも起きてしまうか逡巡する
トイレも催したので、欠伸をしながらベッドから出て、休日の一日を始めることにする

明日は、朝早くからTテレビの『昼報ですよイチサンマル』のネタ会議がある
時間の都合がつくときは、会議に出席して意見を述べてくれよ、と先月からメインキャスターのO倉の了承を得ていたので、絶対外す訳にはいかなかった
先週日曜夜の、K市の怪人が暴れた事件は、他局の報道を後追いする形になり、その分、力を入れたリポートが出来た積もりだったのだが、その夜起こった九州の大地震のニュースに押されてしまい、Dとしては心にくすぶる火種となっている
放映した夜、N市の飲み屋での探偵と変なおばさんとの出会い、そしてどうしても気になって再度K市を訪れ、この事件のキーマンになりそうな男を探って、ネットカフェでまかれた後に会った刑事との話、そのどれもが、あの夜の怪人につながっているんだという妙な確信があった

こんな世の中だから、D自身、怪人がスーパーヒーローであって欲しいと願っているのかも知れない
O倉は、もうあの事件への興味を無くしているようで、追跡リポートの依頼もないが、ここはリポーター魂の見せどころだと思っていた
昨年までは、メンズファッションの広告チラシのモデルや、たまにファッション男性誌の仕事、もっとたまにテレビドラマの刑事ものでのその他大勢役しか回ってこなかった自分が、まがりなりにも準レギュラー的なリポーターの仕事がもらえたのは、O倉と偶然新橋の飲み屋で意気投合したお蔭だった
所属のPプロの担当マネも喜んでくれたその邂逅は、Dに新しい未来への扉を示すものになったのだ
年が明けて、O倉の番組のリポーター役が回って来てから、Dは全力でその役に取り組んでいた

今年5月に36才になるDには、結婚しても良いと言ってくれそうな彼女がいる
ここで、しっかり結果を残せれば、昔夢見たアクターという仕事ではないけれど、華やかなマスコミ界でそれなりの位置を確保できそうな、そんな初めて感じた手応えを大切にしたいと思っている
しかし、それにも増して、あの戦隊ものヒーローを彷彿させる怪人の出現は、子供の頃からの夢、そして大人になって何度もぶつかった現状の壁を破壊してくれる、そんなインパクトを胸に残してくれていた
本当に存在するヒーロー、あるいはヒーローでないにしても、一般人とは違うクオリティを持つ存在
その人物にインタビューできれば、今の閉塞感に満ちた社会のどこかが、きっと変わる、という予感があった

本当なら今日の休みを利用して、またK市の手掛かりを調べに行きたいところだが、あいにく明日の会議の資料も揃えておかねばならず、今夜の夜中までに起きるかも知れない事件について、ぎりぎりまで情報入手をしておかなければいけない
思わず「くそーっ!」と吐き捨てると、怪人のことは脳内の別のフォルダにしまって、焼き上がったトーストにバターを塗り、口にくわえるとパソコンを開きにかかる
NETの中は相変わらずのごたごた状態で、Yニュースをざっと見た後、このところちょくちょく訪れている事件トピックス動画まとめサイトに入ってみた
結構手の込んだフェイクニュースだったり、画像不鮮明な怪奇現象などを見ていると「スー○ーマン原発に現る!」というタイトルがある
へぇーと思いながら、タイトルをクリックすると『只今アクセスが集中しております』の断り書き画面になってしまう

そうか、と思って元画面に戻りながら、ふっと脳裏をなにかのイメージがかすめる

確かあの日、ラーメン屋でKとか言う刑事と探偵屋の男と話を交わしていたときの、探偵屋がスー○ーマンを撮ったと言っていたシーンが唐突にフラッシュバックした
なんとかレンジャーだけでなく、今度はスー○ーマンか
これは、きっと居る。スーパーヒーロー(であって欲しいが)は居るんだ
ぜひぜひ、その原発に出たという動画を見たいと、何度も動画サイトのそのタイトルをクリックしたが、アクセス集中のお詫びの文字が出るだけ…
やがて、タイトル文字さえ現れなくなってしまった

その見損なった感が至極不快で、Dは何度も「くそーぉ!」とうめき声を漏らしていたが、ふと思い立ち、以前もらっていたはずの探偵屋の名刺を探し始める
その時、PC画面の時刻表示は10時を大分過ぎていた

*
*

[ 17日(日)の8:15am 千代田区霞が関 ]
警視庁公安部外事第二課課長のJ道警視は、日曜日だというのに本庁13階にある自分のデスクで、昨夜F原発のT電会議を傍聴した第二係主任のN目来警部補の報告書を、もう一度読み返していた

<N目来の報告書>
(1)要約
グリーンマン(以下G)と名乗る宇宙人とT電関係者および重電メーカー2社、政府関係者に大手建設2社の担当者によるF原発事故収束方法検討会議は、なぜかGの能力については肯定的な論調で進行。ただ、座長のT電K護地副部長は、終始懐疑的な態度だったことが印象に残った
Gは、放射能の影響は受けないと主張(後にこのことは証明された)、原発の炉心ごと大型船に載せて宇宙に投棄するという計画を提案、結論は得なかったが、会議後のGのデモンストレーションにより、あながち無茶な計画でないことを証明して見せた
前述のパフォーマンスの後、3名の重装備の防護服着用者の同行の下、3号機建屋内への潜入が試みられ(※G以外は建屋外にて待機状態)、これまで不可能だった炉心部のデブリ回収に成功した
Gは、回収容器に入れたデブリ数個を引き渡す前に、姿が見えなくなるほど遠隔の太平洋にて放射能汚染を洗浄、3号機建屋外に待機の3名による安全確認を受けた後、回収容器を残し突然宇宙に飛び去った模様(※3名の証言による)

(2)私見
@前述の経緯を鑑み、本官にはGの本案件の遂行能力はあるものと認識
A尋常ならざるGの能力が、我が国以外の外国政府において脅威と映ることは必至
B本件の情報管理態勢は、民間のT電には欠落しているため、相当なスピードで海外に拡散すると推測
C結果、海外諜報部より多数の調査員、乃至工作員が渡来するものと推測
DGとの連絡員という民間人Aなる者の身柄の安全、及び縁故者の安全の確保が急務と結論

(3)詳細記録は別紙
*
*
この民間人Aについては、警察庁同期の内調1課長のM原からT電収束作業に関わる会議があること、そこにはスー○ーマンとの連絡役がいると、14日夜に都内のバーでさりげなく耳打ちされ、先見事項として留意していた人物だった
ほぼ同じタイミングで、T大後輩のA県警警備部公安課長のT内から、テレビでニュースになっている怪人がらみの事件の参考人としてAなる人物を、捜査4課が追っているらしいという話があった
この2件に関係するAについて、大いに興味を持ったJ道は、組織犯罪とは関係のなさそうなこの人物の動向を追うべく、A県警に素早く連絡を取ることに決め、実行している

今、この報告書を読み返すにつれ、この件がアジア担当の外事二課だけでなく、欧米担当の外事一課をも巻き込む大きな事案になることがひしひしと予見され、明日の一課長N倉の登庁を待たず、今、一報しておくべきかと、逡巡していた

まず、二課担当のC国は、今でもF原発エリアに何人かの在住調査員を置いているはずだ
一課担当のA国もR国も今回のような、なんと言うか、スー○ーマンと日本との共同作業が、N目来の報告書にあるような、途方もない結果に至る可能性を察知すれば、持てる探査能力を集中する(つまりスパイどもが群がってくる)であろうことは、火を見るより明らかだ
そのような、本格的な海外諜報機関の集中攻勢に、我が国の防諜態勢が耐え得るはずもないし、一方的な調査の報告が我が国の、文字通り痛くもない腹を探る態のものになれば、厄介至極な国際問題を引き起こすことは自明の理であろう
posted by 熟年超人K at 21:02| Comment(0) | 再編集版・序章

2023年02月03日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(4)

ええーっ、と思わず声をもらして、タイトルをクリックする
タイトル文字の下の動画画面が、見覚えのある原発構内を映している
スマホで録画しているらしく、縦長の画面に建屋のシルエット、そして画面は上方にパンする
その空を飛ぶ巨大な長方形
画面に声がかぶる
「…おーっ、すげえすげえ、メガフロート飛んじょるぞー」
「端っこのあれが、飛ばしちょるんや!」
あまりに巨大な長方形が、ぐーっとこちらの上空に回り込んできて、空が暗くなる、人がどよめく
すぐに画面が明るくなって、飛び去る空飛ぶ長方形の下に、ちょんとマントをひるがえす人物らしき姿
一息遅れてズームアップするが、飛び去るスピードが早くてはっきりしない
が、リアル感はある
画面が下がって、周囲の簡易防護服の作業員の姿を映し出しているところで録画は途切れた

画面の下の数行のコメントに、イチエフにスー○ーマン登場、とあって
4月16日、昼食後に作業待機とアナウンスがあり、昼休み気分のまま作業員同士で喋っていたらスー○ーマンが現れたとある
メガフロートの前に、大型クレーンを持ち上げて飛んでいた、という話もあった、となっている
やはり、録られているんだなぁ、とその瞬間は思っただけだが、実際この先難しくなりそうだなぁと
気分が暗くなった
がちゃ、と音がして、コンビニの袋を下げた妻が顔を覗かせる
「お待たせ。お腹空いたでしょ。パンとおにぎり買ってきたから」…結構機嫌がいい

買ってきたおにぎりとサンドイッチを食べながら、なんとはなしに
「なんか、ご機嫌うるわしいねぇ。いいことでもあったの?」
「あったのよ〜♪それがね、若い男の人がぶつかってきてね、買ったおにぎり落っことしちゃったら、申し訳ありませんって、新しいおにぎりの代金払ってくれて、おまけにサンドイッチもどうぞ、って」
そうか、それでご機嫌がいいのか、と腑に落ちたのだが…
「なんでも、この近くに住んでて、パパとはたまに挨拶してるけど、奥さんですか?って訊いてきたのよ。結構イケメンで、N証券にお勤めだとか言ってたけど、パパ知ってるの?」
その妻の一言で、愕然となった
思っていたよりも早く、私の懸念が現実のものになったようだ

これは、単なる人物確認、というよりも、いつでも調べることができるんだぞ、という警告なんだろうな
「ママ、昨夜僕が話したことだけど…」できるだけ、さりげない声音で話しかける
「ああ、あれね、パパがなにやってるか、わたしは知らないっていう話ね」
「そう、その話のことだけど。もし、そんなことがあって、そんなようなことを訊かれる雰囲気になったら、僕に簡単なメールを送って。今、話あった、とか」
「ふ〜ん、そんな簡単なメールでいいの?パパはそれで分かるの」
「まあ、超人だから大体わかるんだよ。そしたらすぐに説明に駆け付けるから」
「ホントそんなに、危ないことやってるの?」
「いや、危ないっていうより、原発のことって微妙な問題なんで、お役所でも神経使ってるんだよ」
「なんで?、日本のためにいいことやってるんでしょ」
「そうなんだけどほら、お役所って縦割り組織だから、いろいろ周りを気にする偉いさんが多いんだよ」
「そうなのね。わかったけど、変なことにならないでよ、ねパパ」真剣な表情の妻

その後は、妻が話題を変えて、初孫の様子や、パパになったT彦や嫁さんのK子さんの話をした
私は相槌を入れながら、ときおり周囲偵察をして張込みの車にも、そのほかの人の動きにも変化がないことを確認していた
本当は、張込んでいる人物が受信しているときの、会話なども聴いてみたかったのだが、妻の話が途切れないので、さすがにそれは超人の私でも不可能だった
そんな、表面上は平和な夫婦の時間を私たちが過ごしている日曜の午前中、それどころではない人たちが大勢いるのを知らずにいられるこの時間こそが、私たちの幸せだったのだ

*
*

[ 17日(日)の7:30am 千代田区永田町 ]
日曜日だというのに、早朝の緊急呼び出しを受けて出勤するはめになった内閣府のM原参事官は、丸の内線国会議事堂前駅のエスカレーターを昇りながら、この朝何度目かの欠伸をした
いつもは、官庁街に通勤するまずまず偉い官僚やら、そんなに偉くない役人でごったがえす駅も、日曜日ともなれば閑散としている
地上に出ると、幅広の国道246号線の左右に内閣府と合同庁舎8号館、その向かい側に総理大臣公邸と官邸が見える
昨夜は、土曜日出勤だった部下の調査官Y岡の、F原発出張報告書を確認して、来週喫緊にこの件で会議の用意をしなければならないと判断したのだが、上はそれ以上の即応性を認めたようで、早朝同僚参事官のK川から緊急会議の連絡を受けたのだ

6階建ての内閣府庁舎の6階にある内閣情報調査室のフロアも、行き交う人の姿はないが、自席に立ち寄るとK川参事官のメモと、Y岡調査官のメモが別々にあり、8号館6階会議室に先行する旨がしたためられている
さらに、昨夕はまだ提出されていなかった監視班のメモリ3個を慌ただしくチェックすると、Y岡調査官の報告書と監視班の報告書とを合わせてブリーフケースに収め、足早に会議室に向かった

会議室に入ると、驚いたことに官房副長官のW田と、審議官のO垣の姿もある
「遅くなりまして。家が遠いものですから…」と、冗談っぽく一言入れて着席しながらブリーフケースを机上に置く
「いやいや、皆さんご苦労様。お休みだというのにお呼び立てして申し訳ない」W田がゆったりした表情を浮かべながら、出席者を労う(…こんなときはキツイ会議になる)
「後は、私から説明させて頂きます」O垣審議官が話を継ぐ

「折角の休日、しかも早朝のお呼び立てになり、恐縮。実は、昨日のT電F原発事故の収束に関する事案に生じたイレギュラー案件が、思ったよりインパクトのある展開を見せている。これは、我が国の存亡にかかる事態といっていいだろう。さらに今朝にはインターネット上に新たな問題が発生している。この件について、情報集約センターのS野所長」話は、内閣情報集約センター所長のS野に継がれる
「情センのS野です。皆さん、お手元のノートパソコンをお開きください」
会議出席者が各々のノートパソンコンを開く(W田、O垣、S野を除く5名)と、既に動画サイトに接続していて、昨日のF原発事故収束工事現場で起きたGの飛翔する姿が再現されている

「この事案につきましては、只今録画をアップしている本人特定と、動画サイトへの干渉作業を進めておりますが、ネット上に既に拡散している状況収集のため、別途対策も講じておりますので、早晩収束するものと存じております」
「これは、現場作業員のスマホ動画ですか?」質問したのは、M原の同期入庁のK川参事官だ
「そのように思われます。このようなことのなきよう、T電F原発本部には日頃指導していたのですが、意図があってかどうかはともかく、現にこのような状態に至っております」S野が答える
「現地に調査官を派遣しておったのだね、M原参事官」O垣が続ける

「はい、1課からここに同席しておりますY岡調査官を派遣、現場一帯を広域録画監視すべく3班の撮影班も待機させて今回の事案を調査しておりました」M原は立ち上がり、ブリーフケースから取り出した顛末報告書人数分をY岡に渡し、皆に配布するよう指示を出す
「お手元に資料が回りましたでしょうか」W田のうなずく顔を見てM原は話を続ける
「1枚目は、当日イチエフでT電が主宰した会議に、経産省復興推進グループ員として同席した、こちらの(手で示しながら)Y岡調査官のレポートを、本人が抜粋したものとなっております」
1課以外の出席者が、手元の報告書に目を落としているのを確認した上で、M原が話を続ける
「重要なのは、グリーンマンと名乗る、自称宇宙人が65tのクレーン車を、全く静かに空中に持ち上げて別の場所に移動せしめたこと、さらに1万2千t近くあるメガフロートも、同じような状態で運んで見せたということです。先ほどの動画サイトにも、その一端が出ておったようですが、後ほどお渡しする当方の記録班の録画にもその様子は明瞭に記録されております」…ざわめきが起きる

「さらに、第2章にあるように、高濃度の放射線にさらされながら3号機建屋内に侵入して、今まで自走式ロボットでさえ到達不可能だった炉心内より、デブリ片を数個持ち帰るというミッションを、いとも簡単にクリアしております」
「確かに、そのグリーンマンとやらが、炉心に行って来たのかね。ロボットさえ動けなくなるような処に行って来たと、誰が証明できるんだ」と、M原の話にO垣が割り込んだ
「その件の証明は、3号機建屋の外に同行した収束センターのU技官とT電機の2名が、建屋外で待機している間に、現場放射線数値の急上昇を見て急遽、かなり離れた場所に待機していた会議メンバーの退避を依頼しているところから判明しております」…再び一同から嘆息がもれる
「続いて、2枚目のY岡君の所感をご覧ください」…一同がレポートをめくる音

「そちらについては、当の本人から語ってもらいます」と、Y岡を促しながら、M原はゆっくりと着席する
「1課国内問題調査官のY岡です。報告書には、私が当日現地で遭遇したことを、できるだけ客観的に箇条書きしておきましたが、私見ですが、このグリーンマン…この後はGとしておきますが、という存在が我が国のみならず、国際社会にも多大なる衝撃を与えうる由々しき問題かと把握しております」
「国際的にも、か…」W田が聴こえる程度に呟く。国際部門の2課の二人もそれに反応を見せる

posted by 熟年超人K at 17:25| Comment(0) | 再編集版・序章

2023年02月02日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(3)

私自身、今回の案件がちゃんとした売上(というのもおかしいが…)になるため、詰めの部分をどうしたらいいか、まだ考えあぐねているのだ
そもそも超人の代理人、なんてありえるのか、自身自信が持てない(うまい!)のだが、妻には心配をかけたくないので
「そっちは、大丈夫。だけど、多分国もからんでくると思うから、もしかするとママのところにもなにか問い合わせがあるかも知れない」
「えーっ、問い合わせって、どこから?」
「う〜ん、警察とかもあるかも」
「警察なんかに訊かれることって…。一体、なにやろうとしてるの?」
「そ、それは、やっぱり、あそこの問題って国としても大きな問題だし、ほら、どんな人間が代理人か、いろいろ調べたくなるんじゃない、国としても」
…だよな。そりゃ、訊いて来るだろうし、身元も確かめるだろうなぁ

「わかりました。パパは超人じゃなくて、代理人ですって言えばいいのね」
「いやママは、わたしはなにも聞いていないので、主人に訊いてください、って言うのがいいと思う」
「そうなの、そう言っておけばいいのね。そのほうが後々、めんどうなことにならないのね」
そう、めんどうなことにならないよう、抜けが無いよう、私がやらないといけないということだ
「質問は僕が引き受けるから、全部僕の方に回して」
「わかった。じゃあ、冷蔵庫のビールで乾杯しよう、パパの新しい仕事がうまくいくように」
…どうやら妻の機嫌は直ったようだが、私の方は、この先よほどうまく立ち回らないといかんぞ、と憂鬱度がどんどん増していた

その夜は、久しぶりにビールを飲んだ妻が、早めに寝てしまったので、私は妻が寝ている布団の隣のベッドに横になって周囲偵察を試みていた
張込みの2台の車は、相変わらず停まっていて、中の人物が起きていてこちらを監視しているのが分かる
もしかすると、彼らは私にではなく妻に尋問しようとするのだろうか
そんなことになれば、生来気の小さな妻はどうなるかわからない
それはまずい、阻止しなければと思った
いや、待てよ、彼らが目標としているのは、一体誰なんだ?
飲み屋で暴れた私か、それともスパイ○ーマン風の怪人か、はたまた原発で活躍したGの連絡役の私か?

いずれにせよ、警察が家族に接触するのは避けるようにしないといけない(…と、この時点ではマスコミや警察以外の捜査機関、ましてや海外の諜報機関の接触などは想定外だった)
そのようなことを考えていると、眠気など訪れようもないはずだったが、いつの間にか眠りに落ちて、しばらくするといつものレム睡眠に
そして、ジュブブとの回線が開く
『第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である。テラ3号、君は負荷率82.23%の状況に陥っている。
この状況は、君のような初期の超人勤務者によく顕れるが、君の場合、単純強化体の人格を超人体との連関させるという対外設定を行ったため、あらゆる行動に齟齬が生じ易くなるという負荷状態になっている』
*えっ、と言いますと…

『君たちのような、第2段階初期文明においては、同種体の超人化は95.8%の反発を在来種から受けることが知られている。今回のような同種体が超人と脈絡を通じるケースは、過去に何例か報告されていて、大部分が在来種と軋轢を生じて、超人目的の遂行に困難をきたしている』
*…困難、と言いますと、家族に害が及ぶとか、そういうことでしょうか?

『家族、というのは雌雄から生じる連関関係のことと理解しているが、それもあるが、それ以上に超人活動を遂行しにくくする同種間波及マイナス効果が生じ易くなる、ということだ』
…んんん、なんだか分かりにくいのですが、同じ人間の癖に、みたいなやっかみが生まれる、ってことですか
『やっかみ、は、妬みのことだな。ほぼその通りであるが、さらに自己を優位づけたい性癖が複合化して、1の活動の前後に多大の摩擦を生むことで、活動の正しい成果が得られなくなるということだ』

そうか、私がグリーンマンとして、あの原発廃炉をやってのけたとして、それを快く思わない者や、組織の妨害が合ったり、利用して甘い汁を吸おう、という連中が出て来るってことだな(と、一応理解)
*…分かりました、その点は気を付けて行動します

『君はまだ状況が理解できていないようようだが、それはそれで良い。支障が大きくとも、この惑星で生じるトラブル程度なら、打開できるレベルの仕様は施してある。
ただ…、官のフォロー下での成果の期待度が12%程度低減したことが不本意なのだ』

…つまり、気に入ってないということか

『ここまで、超人化したときの君はかなりよくやっていた。対抗スーツの使用法も自身で利用原価を拡大させ、難局を乗り越えていたことは評価できる。これからの課題が、スーツ非装着体での同種間接触問題だということを提言して、今回の官のフォローとする』そこで、目が覚めた

目が覚めて、ベッドの上で半身を起していると下の布団で寝ていた妻が、心配そうにこちらを見上げている
「大丈夫?なんか、うなされてたみたいだったけど」
「へえ〜、うなされてたの僕。よく覚えてないけど、前の会社でお客さんのとこに行った夢見てたような気もするなぁ」と、当り障りの無さそうなことを呟いておく
「なにか、謝ってるみたいだったから、そうかもね。夢の中まで…パパご苦労さまね」
「いやいや、どういたしまして」と笑って、それで夫婦は和むのだ

朝ごはん作ってあげるから、パパはもう少し寝ていて、と言いながら冷蔵庫を開けた妻が、本当になんにも無いのねとぼやく
そういえば、超人になってからは腹がほとんど空かないので、なにも買い置きをしていなかった
「ビールとカットベーコンしかないから、コンビニでなにか買ってくるわ」とキッチンで声がする
まずい!外で張り込んでる連中と出くわして、なにかあったらまずいぞ
「それ、僕が買ってくるから、ねえママ、僕が買いに行くからー」思わず大声が出る
「いいわよ、寝ていて。あそこのコンビニだったら、もうやってるでしょう。8時半過ぎだし…」
がちゃっとドアが開く音。部屋を出ていく靴音…

慌てて周囲偵察を試みる
妻らしき個体が移動していることが分かる
分かるが、目に見えている訳ではない
これまで何度も周囲偵察はしていたが、どのように人や車の動きが分かるのか、しっかり確認したことがなかった
これは人だろうと思える柔らか味のある点と、硬い感じの車や建物などを脳裏に感じているのだが、細部は分からない
動いている物は、よりはっきり認識できる
張込みの車らしきものは、じっと停まっていて、中の人物らしき点が妻の動きに合わせて動いたのが分かる
偵察できている範囲は、およそ直径200mくらいの円内だろうか
妻の移動に合わせて、私の偵察感覚が移動するようで、偵察範囲も移動できている
多分、張込みの車に集中すれば、中の人物の動きも詳しく分かるだろうが、今は細かいところは把握できない

こんなに真剣に周囲偵察能力を使ったことがなかったが、どうやら車の中の人物はそのまま待機しているようだ
いや待て、反対側の建物のところから、別の人物が現れて妻の後を追っている
妻の点はそのまま移動して、コンビニ辺りに向かっている
別の人物の点もそちらに移動しているが、残念ながら偵察範囲の限界のようでよくわからなくなった
居ても立ってもいられず、ベッドから離れてカーテン越しに透視をしてみたが、これもそんなに遠くまで見えない
ただ、外に停まっている車の中の人物が、携帯でなにか話をしているのが分かる
耳を澄ませて聴力を集中させると声が聴こえる

「では、このままで待機します」
ちょうど、会話が終わったところらしい
もう少し早く、聴き耳を立てていれば会話がわかったのに…と悔やみつつ、超人でも一度にいろいろできないんだなぁ、と他人事のように感じていた
いずれにせよ、当面は妻に何事もなさそうだと判断して(尾行者が気になってはいるが)、テレビのリモコンをONにする
ドラマのように都合よくニュース番組をやっている、という訳にはいかず、簡単レシピの卵料理の番組やら、幼児番組、CM、CM、CM…と一通り廻してOFFにする
それでは、とパソコンを開ける
しばらくして(大分メモリーが不足しているのか、遅い!)、開いた画面のYニュースを選ぶ
一覧には気を引くものがなく、ずっとスクロールしていくと《ネットで話題の動画》のタイトルのトップに“スー○―マン原発に現る!”と出ている
posted by 熟年超人K at 22:18| Comment(0) | 再編集版・序章