2022年12月06日

熟年超人A〜序章・初心者編(8)

うすぼんやりした小柄な影がゆれるように動いていて
いかにも(や)らしき男たちが、弾けたり横に滑ったりしている
動きは早く、立ってその場を見ている男が次々と
小柄な影に立ち向かい、跳ね飛ばされるのが見えているが
あまりに非現実的な動きで
最近のユーチューバーの加工映像を観ているようだ

『なんか、あんまりよくわからないなぁ、この映像…』
局の報道室にいるキャスターのつぶやきが映像にかぶさり
画面は報道室に戻る
『それじゃあ、Dさん、また変化があったら、番組中でも連絡ください
それでは、次のニュース…』

あきらかに、私の立ち回りがニュースになっている
この面映ゆさは、なんだ
これから先は、マスクはかぶっているにせよ
有名人になるんだ
なにか、とんでもない世界が待ってるような

さてと…、これからどうしようか
なんだか、めんどくさいことになったもんだ
というのが、そのときの本心
しかし、いまさらやめられない
というか、とりあえず金になりそうなT電力本社訪問が優先だが

こっちの話を放っておいて大丈夫だろうか?
こっちの話というのは、もちろんスパイ○ーマン風の方だ
スー○ーマン風と、スパイ○ーマン風を、ほぼ同時期に出現させてしまって
後で、なにかやりにくくなることはないのだろうか
1人で両方やっていると、バレた場合のディメリットは…

コスチュームを2つ作った目的を勘ぐられることだろうな
例えば、どこで調達したのか
誰かにもらったのなら、バックはどういった組織なのか、とか
コスチュームそのものも、調べたくなるんじゃないか、とか

今回の場合、超人が超人然としていればこそ
世間(=マスコミ)は、その超人ぶりに気を取られ
ま、正体は誰だ、くらいのアドヴァンスはあったとしても
その背景やら、家族やらに考えが及ばないのではないか

つまり、その正体が異星人とか、純粋な超人(日常は一般人でも)であって
家族の存在など、追及の意味がないようにしておくべきなんだろう
と、なれば、スパイ○ーマン風は隠しておくに限る、ということだ
まあ、どこかの武術の達人がどこかにいる、とでもなればよい

結論が出たところで、スー○ーマン風のネーミングを考えないといけない
他方よりやや大きめの、楕円形カプセルの縁を触ると
指先に軽くぽちっとした突起が当たる
くっ、と力を入れるとダークグリーンを基調にした緑っぽい衣装が体を覆う

超人なればこそ分かる時間差で、マスクが頭から顔を覆い
ボディの衣装と接触した首周りから、しゅっとやや明るい緑のマントが出て
太腿の辺りにまでまとわりつくように垂れ下がっている

これらのことは、0.02秒くらいの間に起こっているのだが
スパイ○ーマン風のコスチュームに比べると、装着時間は随分遅い
恐らく、装着の瞬間をハイスピードカメラで撮られたら
正体が分かってしまうだろう

故に、スー○ーマン風、あるいはバッ○マン風コスチューム装着の場合は
ちゃんとしたアジト(場所を突き止められても良い場所)が必要だ

ここまで考えて、その場所は山の中か
あるいは、廃屋なのだろうと思い着いた
山の中(案)は、ここ(アパート)の生活をどのように引き払うかが
まだ決めてない以上、そこまでの行き来がかなり困難なので破棄
となると、廃屋だが
そいつは1〜2件心当たりがあった

少し前につぶれた駅東のパチンコ屋か
以前通っていたSAプランニングへの通勤電車から見えていた廃工場だ
パチンコ屋なら確かに近い
いけるかどうか、ちょっとこれから行ってみよう

なにやら、あれやこれやと考えが散漫なようだが仕方がない
なんと言っても、頭の中身は超人じゃないんだから

さあ、名前はなんとしよう
色はグリーン基調だから“グリーンマン“?
もう少し、金色とかなら”黄金マスク“??(古!)
自分で突っ込みを入れてると、即、さ〜っとコスチュームの色が金色に変わった
おお、こりゃ考えただけで色が変わるみたいだ

こうなってみると、われら大人の日本人は、なになにマンになりたいなんて願望が
ほとんど無いということが分かる
子供の頃はあった気がするが、本や漫画の登場人物に身を置いて読んでいただけで
今はハリウッド製のスーパーヒーローの活躍や苦悩を、距離をおいて観ているだけだ
まして、この年齢になると、自分がなりたいなんて気は、全然だ

だが、しかし、である
キャンペーンではネーミングがとても大切なことはよーく分かっている

ポイントは、世間をあまり刺激せず
基本、好意的にみてもらえること
できれば、国際的にも同じようなスタンスがとれること
さらに言えば、T電力関係者や、地域の人の
潜在的な好感が得られることだ

すると、最初の緑系は正解だったのでは
『この星の自然を守る…ネイチャーマン』とか『グリーンマン』とか
まあ、そんなところが正解ではないだろうか

陽が落ちる迄、キャッチフレーズと『ネイチャーマン』、『グリーンマン』を
交互に何回も唱え
ついでに、決めポーズもちょっとやってみたりした私だった

しかし、鏡の前でポーズをとってみると
いまいちしっくり来ないのだ
最初バッ○マン風に口元が開いていたはずだが

私の身元を完全に隠したい願望に反応しているのか
フルフェイスになったマスクが素っ気ないのだ

被っている私の視界は、すごぶるクリアで問題ないのだが
鏡の中にいる私は、つるりとして、戦隊ものヒーローや
フェンシングの選手のマスクのようだ
これでは、主人公っぽさに欠ける

まあ、私の個人的な感覚ではあるが
「私は、地球を守るグリーンマン」みたいな決めゼリフに
ちょっとそぐわない、というか
超人らしさがあまり感じられない?のだ

ま、いいか(…といつもの独白)
あんまり細かいところにこだわっても
世間ってやつは、こっちの苦労なんて関係ないとこに感心するものだし…
この格好に決めて
まずは、2〜3ケ月前から店を閉めてた、あのパチンコ屋に行ってみよう

脱ごうと思った瞬間に緑色は消え、元のグレイ系に戻り
そして小さくなってカプセルに収まって掌に
便利だね
どんな仕組みで作動しているのか、さっぱり分からないが
ちゃんと動いてくれる
スマホの機能性とよく似てる
後は、慣れるまで使いこなせ、だ

てな訳で、若干ハイな状態になった私は
マント付きコスチュームだけをポケットに忍ばせ
ささっとご近所を、通り一遍に周囲偵察しただけで
アパートの部屋から外に出た

それでも早足にならないよう気を配り
直線的にでなく
わざわざ逆方向に歩き出したのだが
歩きながらの前方偵察を時々しているくらいだったので
後から尾行している探偵屋さんには、気付かなかった

夜も大分遅いのに、まだ帰宅途中のサラリーマンやOLさんもいて
人通りが無くなったら
早足移動に切り替えたいと、思っているうちに
徐々に町の明るさが疎らになっていき
照明の無い、つぶれたパチンコ屋の建物が迫ってきた

こうした使われていない建物でも
無断で敷地に入れば“不法侵入“だろう、ぐらいのことは知っているが
でも、どうやら通りの向こうの防犯カメラと
建物の入口に付いている監視カメラは
視界が限られているので
後は、通行人や通りすがりの車に気を付ければ
中に入ることは充分できそうだ

と、踏んだ私は
得意の”周辺偵察“を、いつもより念入りに行い
誰もいないことを確認した上で
しっかりスピードアップした動作で
文字通り、サッと建物の屋上にジャンプした

しかし、プロとは怖いもの
アマチュアとは馬鹿なもの
探偵が望遠カメラでこっちを狙っていたのは分からなかった

距離が近ければ、恐らく私がジャンプしたことさえ
この薄暗がりで見えなかっただろうが
かなり距離を取って潜んでいた、探偵屋さんのカメラのフレームの中から
急に早い動きでジャンプして消えた私と、慌てて押した3連シャッターの
コマ撮りの間に、パチンコ屋の屋上に立つ私の姿が写ってしまっていたことに
私も探偵屋も気付いていなかったのが、後の展開に影響を与えるのだ

パチンコ屋の屋上は
大きなネオンを支える鉄骨の枠組みが載っているだけの構造で
飛び乗った私は、思わずよよっとなってしまった
慌てて鉄骨につかまると
ぐにゅっと曲がった気がしたので
そっとつかみ直す

[ 私がパチンコ屋の屋上でもたもたしていた同時刻 ]
(や)の情報屋である探偵S我谷は、私が急に視界から消えてしまったので
周辺を見廻していたが、ふっと手の中のカメラのことを思い出して
画像再生ボタンを押す
4コマ戻ったところには、暗い大きな建物(つぶれたパチンコ屋)を
突っ立って見ているおっさんの後姿が写っている

次のコマには、おっさんがやや身をかがめているところが
少しブレて写っている
その次のコマには暗い建物だけ
そのまた次の(最新の)コマも建物だけ

なんだ、これはと思って
S我谷はカメラの液晶を拡大してみた
…が、どこにもおっさんの姿はない

突然消えちまった、ってか
S我谷は思わず呟いて
さあ、これからどうしようか、と掻いた頭の中には
S会の若頭T野の渋面が浮かんでいた

私の方と言えば、とりあえず体の落ち着く場所に身を委ね
ざっと周囲偵察して、監視カメラも人の眼も無いことを確認した上で
(探偵さんは気配を消していたので分からなかったなぁ…)
コスチュームの入ったケースを取り出す

これを着て、T電力の本社ビルに向かえば
もう今までの私ではいられなくなる
大きな案件のコンペでプレゼンをする前の、緊張感が甦ってくる

まあ、ここでやめてアパートに帰ったって
年金を頼りの倹しい生活に慣れる保証はないし
なにもしないでいて、例のジュブブなんちゃらさんにX出されたら
どんなことになるのか分かりゃしない
って言うか、もったいない気分もするし…

ここは吹っ切って、こいつを着て
飛び出しちまえばなんとかなるだろう!
てな訳で、さっとコスチュームを身に着け、緑色を確認して
えいやっと、夜空に向かって跳び上がった

どんぴしゃ、そのタイミングで
探偵S我谷が口にくわえた煙草に火を点け
最初の一吸いを、ふぅ〜っと空に吹き出しながら
見るともなく、黒い建物の輪郭に視線をやり
人影らしきものが、さぁーっと空に跳び上がったのを目撃した気がして
その瞬間、半ば無意識にカメラの連射シャッターを押していた

ちなみに、ジャンプするときはかなり早く跳ぶんだが
空を飛ぼうとして飛び出すときの初速は
えいや、ってな感じで飛び立つので、さほど早くはないのだ

posted by 熟年超人K at 22:01| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年12月03日

熟年超人A〜序章・初心者編(7)

《物語の展開を広げるため、ここからは、私が後日知ったことも含めて記述します》

[ 私に初孫が生まれた翌日の9:30am ]
A県警の「組織犯罪対策局 捜査第四課」第二係係長のM野警部補は
2日前の夜、K市の飲み屋街のT組系S会の仕切る「バー夜露」で起きた
傷害事件の報告書を読み終わって、ふ〜っとため息をついた

「なぁ、K巡査部長よぉ、これって結局マル暴の抗争じゃなく
どこかの格闘技のプロの仕業だって結論に持ってこうとしとるの?」
「はい、あっ、ええ……、まあ、そういうことです」
「そういうことって、この飲み逃げのコスプレ野郎が、空手か合気道やっとる
有段者だって、そういうこと?」
「いや〜、とにかくですねぇ…」やっていた書類書きをしぶしぶ中断して
椅子から立ち上がると、M野警部補のデスクの前に移動したK刑事

「騒ぎを聞き付けて集まった連中に訊いても、丸暴らしくないんすよ、奴さん
なんちゅうか、動きはコスプレ通りの戦隊ものそのもので…」
「そいつの絵はないんか?」
「スマホで撮ってたのがあるんすが、どれもブレててよくわからないんすよ」
「そうか、なら、鑑識のパソきち連中に回して、なんちゃら分析を頼め」
「はい、了解っす!」


[ 同じ日の5:30pm ]
場所が変わって、N市の飲み屋街に近いマンションの一室では
S会組長のW野木が若頭のT野と、スプリングが少し弱くなったソファに
どし、っと腰を沈めて話をしている
「ほしたら、そいつはP連合の鉄砲玉っちゅう訳じゃないんじゃな」
「はぁ、どう考えてもド素人のおっさんだったみたいで、そいつが消えて
代わりにコスプレ野郎が暴れたようなんですわ。
いつもの探偵に探らせても、組関係の臭いは全くせんのですわ」
「ふ〜ん…。 ま、とにかく、や、 あの辺りの連中に
ウチの組が大人数出して、ド派手にあしらわれたっちこたぁ
本部にも知れちょるんや。 T野よぉ、どうにかせんとあかんぞぅ」
「へ、分かってま。野郎のヤサぁ、大体見当ついてますんでぇ
任せとって下さい」
*
う〜ん、こんな風にもう網が絞られてきてるなんて…
恐いもんですなぁ、どっちも


[ 話は戻って、私に初孫が生まれた翌日の9:00am ]
警察からも、(や)の雇った探偵からもマークされつつあった日に
私と妻は、ホテルのチェックアウトを済ませた後
しばし、ロビーラウンジの椅子に深々と座って
これからの相談をしていた

「それでパパは、あら、ジジかしら…まあいいわねパパで
パパはもうしばらくあっちに居たい、って言うのね」
いや、まあ、できたらだけど、昨夜考えて、仕事になりそうな事も
思いついたんで…と、いささか歯切れが悪い私

「そうなの。とにかくパパは転職多かったから、
退職金もちょっとしか振り込んでもらえてないんだし、
もうしばらくは、稼いでもらわないといけないしねぇ…」
そうそう、それで、折角スーパーマンみたいな力をもらえたんだから
もうひと頑張りしようと思ってる訳よ、と私

少し勢いづいた私に、妻がびしっと釘を打つ
「じゃあ、パパはそのすごいって言ってる力を活かした仕事を探してね
でも、あんまり変なことさせられそうだったら、無理しなくていいのよ
お金借りてなにかやろう、なんて考えないでね」
うん、わかってるよ、と少しへこんだ表情で返事をすると

「それじゃあ、わたしはあの子の家に帰るから
パパ、あんまり無理しちゃ駄目よ」
そう言い残して妻はホテルから歩いて、近くの駅に向かった

私はと言えば、そのままホテルのロビーで
妻に約束した通り、超人力を売り込む先をT電力と心に決め
営業活動の手順など思い巡らしていたのであった

そう、私の超人力があれば
あの原発事故の問題解決に役立つんじゃあないかと
考えていたんである

確か、スー○ーマン風のコスチュームは
マントが強力で、核攻撃にも耐えられる、となっていたから
誰も手が出せない溶けてる炉心だって取り出せそうじゃないか

むしろ、取り出した後の捨て先とか
自身の放射能汚染とかが問題になりそうだけど
その辺りは適当な質問してみて、グーグルさまから
お知恵を拝借すればなんとかなるんじゃ…

かなりテキトーだが
誰もが困っていて、かつ問題の対象が明確だし
暴力沙汰にはなりそうもないし
放射能汚染のことさえ解決できれば
家族に迷惑かけずに済みそうだ

この時点では、そんな能力の証明方法やら
その提案を受ける側の、責任問題やら
仮にうまくいくとして、そんな能力を発揮する人物が所属する
国家としての思惑や
所属していない国に与える衝撃にまでは、思い至っていなかった

なにしろ、どこかのスポーツリーグに突然押しかけて
それまでのスーパーな選手がやってきたことなど
一気に子ども扱いしてしまう超スーパーな人物を、人々がどう思うか
例えば、100mを1秒で走ったら
そいつは、なんだと思われるんだろう
そんな心配はしてみたものの
そこは、コスチュームで演出して
全くの超人だったら、そりゃまた別次元の評価だろうと
そう自分に言い聞かせて、ホテルを出たのは10時半を回った頃だった

帰りは、新幹線と在来線を乗り継いでK駅に着き、そこから歩いた
なにしろ超人になって良くなったのは、疲れないことだ
まあ、日常時のスピードが上がり過ぎないように、その辺りは気を使うが
気分としては、空港なんかにある動く歩道に乗ってる感じなのだ

そんな風に、アパートの近くまで戻って
ふと「周囲偵察」をする気になった
ちょっとコンビニに入って、週刊誌を適当に手にして
周囲偵察を開始する
アパートにも、周辺にもなんの動きもない
怪しい車なんかも停まっていない

それで、ほっとしてアパートの自分の部屋に戻った
本当はアパート内の各部屋も、超人眼でチェックすべきだったが
なんかいやらしい気がして、それはしなかった
まあ、していたとしても、目の付け所が素人の私には
微妙な変化など分かりはしなかったろうが

部屋に戻った私がやったのはパソコンの電源を入れ
インターネット検索で「原発事故処理」の項目を
チェックして、事故処理引き受けの窓口を探すことだった
そこには、様々な問題が
様々な立場の人物によって述べられている

特に〈原発事故処理をして頂ける方募集中〉なんてサイトは無いが
やはりT電力があらゆる責任を押し付けられて困っているようなので
ここは、コンサルティング会社の立場になってみて
まずトップから当ってみようと思い至った

最初のプレゼンは、相手の度肝を抜けられるなら、それが一番だから
スー○ーマン風コスチュームをまとって
T電力本店ビル14階の社長室に、空から飛びこむとか

うーん、それもいいけど
ここからスー○ーマンで飛び出すわけにはいかんし
かといって、アジトなんてないし
もう1軒アパート借りるのもなんだし…

まあいいや
大体のプロットは考え付いたんだし
ということで、その後は
テレビでも観ていようと思い、スイッチを入れる

なんというタイミング
間の良さと言うか、悪さと言うか
また、あのひと暴れした夜のことをやっているではないか

『…それでは、現場の飲み屋街に行っているDリポーターを呼んでみましょう
Dさん、そちらはどんな様子ですか?』

『あ、ハイ、こちらは2日前の夜、大乱闘があった現場です
この場所近くの飲食店の関係者に先ほどお話を伺っているので
Vどーぞ』

白いコック服の小太りの男性が
テレビカメラを意識しつつ、インタビュアーに答えている
『いやぁ、ひどい音がしたんで店の外覗いたら
何十人が喧嘩してるでしょ
とばっちり食いたくなかったんで、チラ見しかしてないけど
多分(や)さんたちが、何レンジャーか知らないけど
そいつと闘りあってて…』

『そのなんとかレンジャーは1人だったんですね』
『そう、1人、1人』
『で、相手は何十人』
『そ、何十人もいたねぇ』
『武器とか、なにかそういうもの、持っていたんでしょうか?』

ちょっと思い出そうとして遠い目になるコックさん
『持ってたんじゃないんじゃないかなぁ…
相手は、大体なにか持ってたけどね』

『すると、本物のなんとかレンジャーみたいに素手で暴れていた…?』
『う〜ん、暴れてたっていうか、暴れてた感じはあんまり無くて…』
『あしらってる、みたいな…?』

大きくうなずいて
『そう、あしらってる感じ、そうそう』
『それはすごいですねぇ、迫力あったでしょ?』

『それが…そうでもなくって。ただ、相手はホンコン映画みたいに
ぴゅんぴゅん飛んでたなぁ…』
その言葉が、途中から小さくなって
話しが途切れたところで録画が終わって、Dリポーターの映像に代わる

『まだあるんですよ、次が現場をスマホで録っていた方の映像です』
画面はスマホらしい縦長の映像に替わる
posted by 熟年超人K at 22:15| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年12月01日

熟年超人A〜序章・初心者編(6)

そう言えば、定年前の7年間はSAプランニングで、単身赴任のアパート暮らし
妻はそれまで暮らしていたY市で、子供たちと一緒の生活
そのうち長女はアメリカに行き、妻は結婚した長男夫婦と同居している

私とは月に1〜2度会うくらいで
特に、私の定年間際の頃は、長男の嫁さんがそろそろ臨月になり
私は引き継ぎで忙しかったことと、例のアレのおかげで
2カ月近く会えていなかった

「そうかなぁ」と言って曖昧に微笑むと
「一人暮らしで若返るなんて、パパ浮気でもしてるんじゃ…」
そんなこと、ある訳ないよ、と言いながら
妻を見ると、別に本気で言っている訳でもないようだ

と、その時息子がこちらにやってきた
「お、父さんも来てくれたのか。母さん、まだ生まれてなくて…
結構時間がかかるんだね」
「そう、最初の子のときは時間かかるのよ。T彦のときも
随分かかって、母さん大変だったんだから」

息子のやって来た方向に『分娩室』があり
思わず超人眼が発動して
中の様子が見えてしまった
医師と看護師の会話も聴こえてしまった

こりゃいかん、と思って
頭を振って見ないよう聴かないようにする
ただ、もうすぐ生まれそうなのは分かったし
問題なさそうなのも分かった

それからしばらくして、若い看護師さんが
「赤ちゃん、無事お生まれですよ」と笑顔で告げに来た
その後は、想像通りの新たにパパになった息子との会話があり
別室に居たのか、嫁さん側の両親も程なくやって来て
挨拶など繰り返すうちに、一日が慌ただしく過ぎていった

その頃、私のアパートでは
聞き込みに来た駐在所の警官が103号室のお喋りおばさんから
先日の夜、私が飲みに行くと言って、出掛けたことや、なにやらをメモり

(や)に雇われた探偵が、アパートを突き止め
警官が帰ったら行動しようと
近所のコンビニでタバコに火を点けていたのである

一方、そんなこととはつゆ知らずの私
初めての孫が生まれたその日は
病院のあるY市の中心街にあるホテルに
妻と泊まることになっていた

息子は、明日の仕事の準備もあるからと
病院から大分離れた、隣の市の自分たちのマンションに帰っていき
嫁さんの両親も、ほっと安堵の表情で帰宅した

妻は、息子のマンションに一緒に戻りましょうか、と一度は言っていたが
本音は久しぶりに私と話がしたかったようで
「T彦がホテル予約してくれたから」と、手荷物など私に持たすと
病院の受付に訊いて、さっさとタクシーを呼ぶ

ホテルにチェックインしてから、近くの中華料理店に行って食事をし
部屋に戻ったのは、夜の10時を回った頃だった

生まれた孫の名前の候補と、このところの息子の奮闘ぶり
アメリカに行っている娘の国際電話での会話、などなど
さすがの妻も、話すことは大概無くなったのでは、と思っていたら
どっこい、妻は真面目な顔になって
「パパは、いつまで一人暮らしする気なの?」と、問うてきた

そうなのだ
今の私の超人活動を、家族に内緒のまま、いつまで続けられるだろう
早晩、警察とか内閣情報室(…だっけ)とか、公安とか
テレビドラマでおなじみの連中とか、(や)さんとか(CIAとかも?)が
私の正体を突き止めたら、家族を人質にして、超人力を利用しようとするだろう

まあ、そこまでいかなくても、マスコミやネットで正体を暴かれれば
息子の会社での立場とか、ご近所づきあいとか
いろいろ影響が出て来る確率は大だ

なんてったって、アメコミヒーローの時代とは違って
街中の録画カメラや、皆の持っているスマホの目は
かわし切れないだろうし
(この時点で、すでにそうなっていたのだが…)

こりゃぁ、どうしても妻にだけは打ち明けとかないと
いかんだろ、と思った私は決心して
実は…と、定年退職の日の夜に起きた出来事を
順を追って説明し始めた

のだが、みなまで聞かないうちに
「そんなの、断れないの。大体、なんのお手当ももらえないんでしょ」
と、痛いところを突いてくる

そりゃま、そうだが、今の僕はすごい力を持っていて
スー○ーマンみたいに空も飛べるし
バスくらいなら、持ち上げることだってできるんだよと、少々自慢げに話すと
「そうなの、で、それでなにをやろうって言うの
困ってる人を、パパがどれだけ助けられるの」

そりゃね、この間も西の方の国で
テロ集団みたいなのにやられかけてる人々を助けたり…
「へぇ〜。でも、ニュースにもなってないし
あの国のテロ集団が無くなったとか、言ってないじゃない」
まあ、時間がかかるんだよ、こういうことは

「そんなことやってる暇があるんだったら、どこかに就職して
もう少し働いてもらわないと…
お誕生祝いとか、お宮参りとか、この先、入園・入学とか、次の孫とか
娘の結婚式とか、お金がいくらあったって足りないのよ」

そうか、そりゃそうだよな
とにかく、妻の言うことの方が正しそうだった
でも、僕はもう超人になってしまっているわけだし
なんでもいいから、正義の味方らしいことしてないと
銀河連邦(のようなもの)の、管理官から叱られそうだしなぁ…

しかし、そんなことを妻に言ったって理解してもらえないだろうし
まあ、ママの言うことも分かったから
この力をうまく使って、お金を稼ぐから、と神妙に言うと
「でも、悪いことはしたら駄目。私たちだけじゃなくて
子供や孫に迷惑かかったら、どうにもならないんだからね」と釘を刺された

結局、私を信じてくれている妻の想いは
多少的外れではあったとしても、逆にそれこそ正しい解答なのだろう
家族を守り、ご近所づきあい、親戚付き合いも円滑にした上で
世界の平和に貢献する方法を

できること、できないこと、分かってしまって大丈夫なこと
できるだけ伏せておいた方が良さそうなこと、などの要素にまとめ
明日から、なにからどうやっていくのか
それから、収入をどう得るか、そんなことを整理して
行動方針をしっかり考えてみよう

と、思い至ったところで、妻も眠そうになってきたので
私もつきあって、ベッドにもぐりこむことにした
そんな間にも、周りではいろいろなことが進展し
どっちみち、私の進む道は、徐々に決まりつつあった

すでに、私の知り得ないところで、様々な動きが活発化していくのだが
もちろん、今の私は知る由もなく
呑気に、ホテルのベッドで今後の生活について考えたりしていたのであった

超人になってからも、日常の睡眠行動は無くなった訳ではなく
うつらうつら、考えの途中で眠ってしまった
確か、現在の日本で一番困っている問題をググって
専門知識が無くとも、不死身と体力で片付く仕事を探せばいいじゃないか
と、夢うつつで結論を得た気がして、それで安心て寝入ってしまった
posted by 熟年超人K at 22:01| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年11月29日

熟年超人A〜序章・初心者編(5)

でもこの件は、さすがにこのまま終わり、とはいかなかったんだねぇ…
翌朝、いつもの習慣通り焼いたトーストにマーガリン塗って
ぱくっとやりながら、テレビを点けた
お気に入りのキャスターのニュース番組を見ていると
やっぱり昨夜の騒ぎが取り上げられていた

タイミング的に(や)の抗争事件はネタになるようで
やられた側の組関係者の話がメインではあるが
対戦相手は少数で、フェイスマスクを被った格闘技のプロか?
と、話が盛り上がってしまっている

格闘シーンも街頭の防犯カメラが撮ったものと
野次馬がスマホで撮っていたものの2通りの映像が流れた
私の動きが早すぎて、相手さんがぽんぽん飛ぶのが
なんだかポップコーンを爆ざしているように見える

画素数が粗いし、動きが早いのでアップでは分からないのが
救いと言えば救いだが、こりゃいずればれるな、と思った
ここで小心者らしく訳のわからない不安感が、もぞーっと
胃のあたりでわだかまったが

ここで慌てるようじゃ超人なんてやってられない、と
逆発奮して、まず「周囲偵察」能力でアパート周辺を探ってみた
2分間ほど試みてみたが、変わった動きはない
もっとも、動いていないものは透視眼で見透かせる範囲しか見えないので
このアパートの近くには張込み車がない程度の索敵なんだが…

一応落ち着いたところで、久しぶりにドリップコーヒーを嗜んでみた
あまり害のないものは、ちゃんと味がするのがありがたい
アルコール分はしっかりろ過されてしまうみたいで
昨夜は、ちっとも酔わなくって、正直つまらなかったのだ

実はその時点で、(や)さんも警察も、私が思っていたより優秀で
かなりなところまで、迫って来ているのではないかと、心配が頭を擡げて来る

と、そのとき携帯の着信音、である
ぎくっとして、画面も確認せず電話に出ると

妻の慌てた声が耳奥にこだまする
〈パパ、生まれるわよ、T彦ももうすぐ会社から病院に回るって〉

おお、そうか、と返事をして、時計に目をやると、9:15と出ている
病院の名と何号室か聞いて通話を切る
そうか、孫が生まれるんだ
と、感慨が押し寄せて来ると同時に、現在の状況がとても重くなる
こんなことしていて、私は家族の幸せを安全を守れるんだろうか

見たこともない、どこかの誰かさんたちを
悪い奴らから守るなんて、できる訳はもない
お役目返上、といきたいところだが
その場合のペナルティとか、責任追及の度合いがわからない

というか、こちらからジュブブに連絡する方法すらない
なにかすごい切迫感というか焦燥感がつのってくる
引き継ぎ前任者の残留思念を探ってみたが
結局、なにも引っかからず
こんなことになるなんてぇ〜状態で、心がパニくってしまう

もしやテレパシーとかが出来て
一生懸命念じれば、ジュブブに繋がるかも、とやってみたが
もちろん、そんなに都合よくはできないのだ
とにかく、病院に行かねばと財布と携帯を持って室を出た
慌てて、超人力が出てしまわないよう、そこには注意を払いつつ

その時点では、アパートの近くにまで来ていた(や)の雇った探偵にも
駐在所の警官の巡回にも気づかない、ド素人の私であった
とにかくゆっくり歩いたつもりだったが
傍から見れば相当なスピードで走っているように見えただろう

大通りに出て、タクシーを拾おうとしたのは
そんな自分があせって、つい超人力を発揮しないように考えたからだ
なのに、タクシーに乗ってしまうと
道の混み具合とスピードの遅さ(自分の走りに比べ)にいらいらしてしまう
ついドアを叩いてしまうとか、床をどんと踏みつけたら、大変なことになるぞ

と、自分を抑えている私の表情がよほど険しく見えたのだろう
運ちゃんが心配そうに声をかけてきた

「お客さん、大丈夫ですか?」
ああ、大丈夫ですよ、と返答すると
「お急ぎなんでしょう。まあ、違反にならない程度に頑張って走るんで
S病院なら、少し割増しになりますけど、脇道なら早く行けますよ」

じゃあ、それでやってください、と返事した途端
タクシーの運転が活性化した
少し走ると、さっと脇道に入って
そんなに広くはない道を相当なスピードで走る走る

歩行者こそほとんどいないものの
自転車やバイクが走っていたり
軽四や宅配の車が駐車している道をすいすい抜けて走るのだ
「大丈夫っすよ、私、この道慣れてるんで」と
自慢そうに運ちゃんが喋った途端、左の脇道から車が鼻っ面を覗かせる

おっと、と右に避けながらそこを抜けかけたその時
今度は右の小道から自転車が出てきた
慌てて左にハンドルを切ったところに、あいにくバンが停まっていた
パニくった運ちゃんはブレーキでなくハンドル操作で回避
その勢いで交差点に突っ込んだ

運の悪いは重なるもの
右の道から、女子高生を横目で見ながらのワンボックス出現!
ダーン!と2台の車は衝突して、ワンボックスは右斜めに突き進んで街路樹に
こちらは、左前に弾かれて簡易郵便局に突っ込んだ

後部座席に座っていた私は
左右に大きく振られつつ、この状態をどう収めたらいいか
考えようとしていたが、残念ながら脳は超人でなく
動きだけがスローモーションの状態を眺めているだけだった

結局、ドッカーンと郵便局に突っ込んでタクシーが止まり
運ちゃんが膨らんだエアバッグに頭を埋めて呻いているのを確認
私としては、こんなところで時間を無駄にしている訳にいかないと
壊れて開かない(運ちゃんは宋さ出来ない)ドアを押しのけ
めちゃめちゃになっている郵便局の中に出た

びっくりして茫然としている2人の郵便局員と
なんとか無事だった女性客1人が唖然として見ている中を
服のほこりをポンポンとはたきながら私が立ち去る
とは言っても、タクシー代を置いていくのを忘れたくらいだから
私自身、平常ではなく、それがまた次の展開に続くことになるんだが…

ま、この場面は一応これで終わらせるとして
病院にたどり着いた私はと言えば
はたき落とし切れなかった土ぼこりにまみれたぼさぼさ頭と
あちこち擦り切れたようなジャケットにズボンといったすごい状態

そんな私の姿を一目見ると
妻は、私の手を引いてトイレの前の廊下に連れて行き
「なんて格好で来たの!」と、小声で怒る
いや、ちょっと事故にあったもんで…
と、もごもご言い訳すると

「事故?どこか怪我してるの?」
と、声音が心配そうなトーンを帯びたが、それも束の間
ささっと、私の全身をチェックし終えると

「別に、どこも怪我してないみたいね
でも、こんなに埃だらけじゃ、赤ちゃんのとこなんか
行けないわよ。さっさと、トイレの鏡見て直してきなさい!」
と、いつもの調子に戻る

結婚した頃の妻から、子供を産んで育てた母への変身は
超人も顔負け、というところだが
そのおかげで、私は仕事に専念(?)できた訳だし
どこの夫婦だって同じようなものだと分かっているから
こうして、躾けてもらっている状況は決して嫌ではないのだ

が、放っておくとどんどんエスカレートすることも
身に染みて分かっているので
私は、うん、とうなずいてトイレの洗面台の前に立ち、水を出して
顔と髪の汚れをちょちょっと取って、メガネを外し顔を洗った

すると、鏡の中の自分が生き生きして見える
そうか、メガネなしでも良く見えているんだ
マスクを被るときは、ケースにしまっておいて
超人化していないときはかけるようにしていたのに
かけてもかけなくても、どちらも同じようにクリアに見えている

きっと瞬時に屈折率を目が調整しているんだろう
こりゃすごい、とか思いながらトイレから戻ると
妻が怪訝な顔をしている
「あなた、なんか若返ったみたいねえ」
そう言って、こちらの顔をじろじろ眺めている

posted by 熟年超人K at 18:05| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年11月27日

熟年超人A〜序章・初心者編(4)

そこで、と考えた
場所はともかく、この二人がなにかしてきたとき
素早く動いて、先手を取るか
泰然自若として、やらせるだけやらして不死身性を見せつけるか

とにかく、ここで揉め事を起こす
→@警察が介入してくる
→Aまたは、暴力団のような組織の加勢が押し寄せてくる
→Bここの連中が詫びを入れる、…まあこれはないか

どの程度で対応したらいいのかで、悩んでしまう、優柔不断の私
「で、安くなるの?」と訊いてみた
「はあ?、なに言ってんのおっさん」マンガのような展開
「俺らの出張費も追加、けってー!、だよなマスター」

「店ん中じゃなく、奥でやってくれよ」と、マスター
「立てよ、おっさん」若い方が私の右肘に手をかけて持ち上げようとする
年上の方は、若干面白そうな表情を浮かべ、見守っている
ところが、全然びくともしない私に、若い方が切れた風になった

「なにしがみついてんだよー、立てよおっさん!」
「あんた、体は丈夫な方?」これは、私の質問
「なにほざいてんだよーぉ、てめぇやんのかよー!」
年上の兄貴分は黙ったままこっちを見てる

その表情は、なにか変だな、と思ってるが、まさかこんなおっさんが
警察関係じゃないだろうな、と逡巡しているのがよく分かる
今度は、全力で、両手で私の襟元を掴んで引き上げようとする
まあ、大分年季が入ったジャケットだから、ちょっとなら傷んでもいいが
ただ、耳元でがなってるんで、煩くってしょうがない

右の手で、若い奴の脇腹を掴んで、軽〜く力を入れてみた
うわあー、と言って若い男は身を伸ばして逃げようと悶える
手はそのままにして、兄貴分とマスターの様子を見てみる
二人は驚いて、固まったままになっている

さあ、どうしよう、この先と、思っていたら
マスターが携帯でどこかに電話してる
あちゃー、こりゃ警察か暴力団の助っ人かなんか来るなぁ
そうなんだ、この暴力的な展開が、どんどんエスカレートするとき
それに対応していくと、収拾がつかなくなりそうだ

とりあえずここから離脱したとしても、相手は組織的に対処してくるだろうから
いくら超人でも、混戦状態になれば、丁寧な対応が疎かになって、死人が出たりして
結果、世間が敵視してくるようになったら、そこからの名誉挽回は、しんどそうだ
まだ、決めた訳ではないが、日本で超人活動をするときは、そこに気を付けないとな

顔もじきに分かってしまい、家族にも影響が及ぶだろうし
ここはなんとしても正義の立場で悪を懲らしめる”じゃないと、いかんだろう
じゃあ、と心も決まったので、若いのをぽんと放り出し、向かってこないのを確認してから
1200円をカウンターに置き、マスターの電話はまだ続いているので、
兄貴分の方に「じゃ、お代こんなもんだろ」と言っといて、店を出ようとした

「なに言ってやがる!」と
案の定、兄貴分が上着のポケットからスタンガンらしきものを取り出して身構えた
マスターは、まだ電話の相手と話しているが、雰囲気からして、警察の方ではなさそうだ
ぐずぐずしていると、この場でエスカレートしそうなので
すっと手を伸ばして、兄貴分を掴まえて横に軽く振った

だん、と店の壁にぶつかって反動で、前にすっ転ぶ
その衝撃で、カウンター側の壁に並んでいるグラスが落ちて、派手な音を立てた
こりゃ、1200円じゃ済まないな、と思ったが
持ち合わせは、あまり無かったので、知らんぷりで店を出た
マスターがなにか叫んでいたようだが(実は、ひどいじゃないか!と聞こえてた)

構わず、店の前の路地をすたすた歩いて、他の酔客に見られないところまで行こうとした
が、そんなにうまくいかないもんだ
店の外には、すでに十人近く野次馬が集まっていた
そりゃあそうだろう、結構大きな音が出たし、こんなぼったくりバーだから
ちょくちょく揉め事もあって、ご近所さんも耳をそばだててるはずだ

ま、ちょっとごめんなさいよ、ってな感じで、その場を離れようとしたが
早くも、援軍到来。人相の悪い連中が7〜8人、向こうから走って来る
どうしよう、迎え撃とうか、くるっと回って逃げようか、なんて逡巡していると
そのちょっとの間に、連中との間隔が詰まる

少し前から、「逃がさねぇぞ!」とか、「あっちに廻れ!」とか、喚いているのが聞こえる
おまけに一般人の見物もいるし、スマホで録っているのも数人いるから
ジャンプして雑居ビルの屋上にでも隠れちまおうか、というアイデアもボツだ
どうやっても人目から逃げ切れないなら、まだ早めだが、ヒーロー登場、といくか!

さっと雑居ビルと雑居ビルの隙間に飛び込み、ジャケットのポケットのから装カプセルを取り出す
車のキー程のカプセルの、小さな突起を押すと濃いグレイのコスチュームが、一瞬で全身を覆う
着ていたジャケットもズボンも、靴までもが圧縮されるのか、全部一緒に包み込まれてしまう
次回は、もう少しその辺りを考えたファッションにしないといかんかなあ…

スパイ○ーマン風の姿で雑居ビルの隙間から通りに出ると
駆け付けたばかりの(や)連中と、どんぴしゃの遭遇、になった

「ああ、なんだぁてめえ」「変な格好しやがってよぅ」
「てめえ、そりゃなんかのコスプレかぁ?」などと、口々に罵声を浴びせてくる
さっきのマスターが、腕っ節の強い奴だ、かなんか言ったせいなのか
一気に飛びかかって来ず、こちらを値踏みしている

遅れて到着した30代後半の、銀鼠のスーツを着込んだ
いかにも兄貴分といった輩が、無理して抑えたような声音を出して言う
「あんた、どこの誰かは知らねえが、ここらでこんなことされちゃあ
わしらとしちゃあ、黙ってらんないんだよ!」とドスを効かす

このスパイ○ダーマン衣装は、全身タイツ的な風体で、顔をマスクが覆っているから
口も無ければ、目も開いていない、言わば、のっぺらぼうなので返事がしにくい
黙って立っていると、右側の黒シャツに白ズボンという昭和ヤクザみたいな若いのが
バカヤロー!と吠えると、手にした鉄パイプを振り回してきた

左手で軽く払うと鉄パイプが、がっと鳴って
黒白の若い衆の手から跳ね飛んだ
その一連のアクションで、連中のスイッチが入り
若干ばらばらながら、連携動作的に私を目がけて襲いかかってくる

顔全体を覆っているものの、視界はすっきり確保されている状態で
彼の国の兵士達より遅い暴力動作は、どれも予備動作があって次に本動作が来るので
本動作の直前に、それを抑えるように素早く手を入れてやると
おもしろいように引っくり返るか、すっ転んでしまう

こりゃ、以前テレビで見た合気道の達人の技に似てるなぁ
と我ながら感動してしまった次第だ
4人ほど引っくり返したところで、武器が彼らの手に現れた
スタンガンが2人、サバイバルナイフが2人、
残りの4〜5人は木刀と鉄パイプ、金属バットを手にしている
兄貴分は、格好つけてスーツの内ポケットに手をやっている(ピストルか匕首か?)


遠巻きに見ていた観客の輪が広がる
ここで、先制攻撃に移ることにした
まず、兄貴分の内ポケットにいっていた右手の手首を捻る
ぽきっと音がして、兄貴の顔が歪んだ
内ポケットに触れた感じでは、金属の塊(やはり拳銃?)

そのまま、兄貴を掴んでおいて、一人置いた左横のスタンガン男に放り投げた
その反動を利用して、右隣に跳んで
並んで身構えているサバイバルナイフ2人の手を左右の手で掴んで
きゅっと捻ってやると、ナイフが路上に音を立てて落ちる

その間、約2秒ってところか
残りの連中を見ると、唖然として棒立ちになっている
多分、街頭の防犯カメラに、この立ち回りは映っており、何人かのスマホにも残り
下手をすれば、この界隈にやってきた時点の素の私の映像もあるかも知れないが

このスパイ○―マン風怪人の活躍と、一応現場に姿があっても
定年退職したばかりの私には辿り着けないだろうと踏んだ
びびって腰がひけた(や)連中と、それより後ろに下がった野次馬の隙間を衝いて
私は急激に疾走して、文字通り風のごとくその場から退散した

それも、人影が感じられなくなってからは
さらにスピードを上げて、暗い住宅地の夜道を、アパートの反対方向に走り
わざわざ遠回りして、コスチュームをカプセルに収めてから
元の服装に戻って、アパートに戻ったのだ
posted by 熟年超人K at 23:25| Comment(0) | 再編集版・序章