2022年11月24日

熟年超人A〜序章・初心者編(3)

『テラ3号、君の通信回線は開かれた
初動活動が規定数値をクリアしたことが記録され、官のフォロー下に入った』
*えっ、なんのこと。夢の中で私は無意識に質問を発した

『官は、第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である
君の当該惑星における活動をフォローする者である』
*あっそうか、前任者の引き継ぎ思念にあった銀河連邦とかの…

『銀河連邦、ではないが、そのようなものなので、それでよいだろう
君の昨日の活動が、超人勤務の第1回目になる』
*なるほど、確かに昨日はそれらしいこと、したもんな

『そうだ、君はまずスタートを切ったのだ。そこで、これから君が必要とする装備を送る』
*装備?、装備って…

『今回用意されるのは、君たちの言葉で言う“服“だ
君のやったような活動をするなら、このような“行動スーツ“が必要になるだろう』

夢の中にふわっと、我々がイメージする超人風のコスチュームが2点現れた
一着はスー○ーマンみたいなマント付きの全身タイツ風で、顔もマスクが覆っている
もう一着は、スパイ○ーマンのようなボディスーツタイプで黒っぽく見え
こちらは首から足先まで、全部繋がっていて、どうやったら着られるのか分からない
*なんだか、マントの方は派手ですねぇ

『だが、君の思っているような、他人の命を損なうタイプの悪人たちの印象には
くっきり残るし、君たちの世界の情報網へのインパクトがある』
*そうか、でも私的には、地味な黒い方が合ってるような…

『どちらも着用すると、君の体形を超人的に盛り立ててくれるし
この惑星のほとんどの武器や、自然災害程度では破損しないものだ
官の判断では、君の認識した黒い方はミステリアス感が強く
目立たない割に、この惑星の人々の心になんらかの印象を残すだろう』
*どうでしょう、とりあえず両方置いていってもらって試す、というのは…

『了解した、そうしよう』
ということで目が覚めると、夢なんかじゃなく、確かにベッドのわきに2着、置かれていた
手に取ってみると軽い、非常に軽い、くしゃっと丸めれば、楽々ポケットに入りそうだ
それを広げようと触っただけで、服の方からさっと元の形に戻ってくれる
すごいな、と思いながら、スー○ーマン風の衣装を着ようと手にすると

上下一体型なので、どこから着ればいいんだ?と触っているうちに
首のあたりに手が触れた瞬間、ぴたっと、体に装着されている
それまで身に着けていたランニングとトランクスも、着たままなのになんの違和感もない
洗面台の鏡でみると、身長も180pくらいの高さになり、さらに全身が膨らんで
胸板も厚く、顔をつるっとした印象のマスクで覆われた、いかにもな超人姿が映っている

黒い方も同じ場所に触れるだけで着れ、首元から、マスクが出て一瞬遅れで顔を覆う
こちらの方は、顔面の凹凸がなんとなく分かる、忍者の覆面のようだ
2着を交互に着て、鏡に向かってポーズを決めていると
私の心にふつふつと超人任務に対する意欲が湧いてきた

着用状態を解除するのは、衣装を脱ごうとして喉元のポッチに触れば
触った方の手の中に丸まって収まる、という簡単仕様だった
こうしてとんとん物事が進むので、かなりハイな気分になり、でトーストを焼き
インスタントコーヒーを飲みながら新聞を開く…特に目立つ記事もなし

一段落したので、PCを開いてネット内を見て行くと
《M山から飛行物体発射か?》と気になる見出しがあった
やっぱり、見つかっていたのか…
生来小心者の私なので、短い記事だったが、早速心配になる
きっと、この記事の裏では米軍や自衛隊が大騒ぎしているに違いない

急に外が気になって、窓辺に寄りカーテンを細目に開け
路上に停まっている不審な車とか、電柱の陰に怪しい男が佇んでいないか
ざっと、チェックしてみた
そうして、なんにもないことを確認してダイニングテーブルに戻る

もしや、24のように遥か高空からスパイ衛星がこのアパートを見ているのでは!
と思ったその時、引き継ぎ思念の中に「周囲偵察」という項目があったことが浮かんだ
そのことに精神を集中すると、なんということだろう
最近、物忘れがひどくなってきた私ではあったが
脳裏に、すらすらソノコトが浮かぶではないか!

まず、超人眼には物を透過して見る機能があり、屋内から屋外の状況が確認できること
更に「感覚視野」を広げれば、地上なら半径10qくらいの電子的反応は認識でき
上空に至っては、遮蔽物が無いので高度600qくらいまで感知できるらしい
大方のスパイ衛星は、高度150〜600q程度を周回していると、スパイ小説にあったので
こっちを観ているとすれば分かるはずだ

で、精神を上空に持っていったが、別にそれらしき飛行物体は感じられない
その最中に、一度大型の航空機がずっと低い処を通ったが、旅客機とすぐ分かった
そうして、改めて探っても、アパート周辺に怪しい動きはなかった
初めてグー〇ルマップを試したときのように面白くて、しばらく周辺の観察をしてみたが
なんだかノゾキ魔になったような気がして、やめた

改めて2着の超人服を眺めてみると
それぞれの機能、特徴が脳裏に浮かぶ
スー○ーマン風のは、マントにも防御能力があって
超人でも生身にはちょっとキツイ核攻撃≠ノも、耐えられるらしい
つまり、ただのカッコ付けのマントではなかったのだ

もうひとつのスパイ○ーマン風の服も、基本機能は似ているが、ステルス機能が半端なく
赤外線センサーにも対応しているらしい
そして、どちらも軽量&コンパクト収納がウリで、SDメモリのケース程度に収まるので
日常的に、いつでもどこにでも携帯できるのが、本当に便利この上ない

素早い装着性も併せ、これなら一瞬で早変わりできるから、正義の味方にもってこいだ
スー○ーマン風のを国外用、スパイ○ーマン風のは国内でという具合に使い分けしようか…
また、当面の問題だったレーダー波は、どちらも吸収するので、昨日のようなことは心配ない
なんと、至れり尽くせりの銀河連邦さまだ
《ジュブブさん(だっけ)ありがとう》…と、まだまだ超人任務の大変さがわかっていない私だった

それでは早速、出動しようか
と、カプセルに入れた2つの衣装をジャケットのポケットに収め
出かけようとしたとき、携帯が鳴った
妻からだ!

〈もうすぐ孫が生まれるんだから、早くこっちにいらっしゃい〉
と、言うその声は、いつもより、やや甲高さを増している
ちょっとまだ片付かないことがあるんで、もう少し、こっちにいないといけないんだ
と答えると、〈そう、それならなるべく早くこっちに来てね〉

とか言いながら、電話を切る寸前
〈お給料は、まだしばらくもらえるのよね…〉と、耳に痛い念押しをされた
その時は、ああ、と答えておいたが
そうだ、超人活動をしている間の稼ぎはどうするんだろう
前任者の引き継ぎ思念には、それらしいことは入っていない

そう言えば、最初に逢ったとき
「衣装の素材は届けておいた」とか言っていたが
ジュブブが送ってくれた2種のスーツがそれなんだろうか
なんだかわかったつもりになっていたが
やっぱりちゃんと引継書や取説は読んでおかないといかん
で、もう一度、2代目の引き継ぎ思念を探ってみると

目立たない、というか、ぼやっとした残留思念が片隅にあった
う…ん、これは…、と探ってみると
ぶわっと、前任者の個人的な『想』が、脳裏に広がった
“困った”とか、“いやになる”とかなぜ俺が”…とかの想念の断片だ

もう一度ダイニングの椅子に腰かけて、じっくり閲覧してみた
なんと、そこには彼が初代の超人に会って、超人職を引き継いだ日の記憶や
初期の活動でぶつかった問題とその対応策とさらに、その結果生じた問題、さらに…
といった具合の、真面目な前任者の、苦難の記憶が、ずるずる出て来るのだ

どうやら、50歳になったばかりの2代目が、出会った初代は欧米人だったようだ
赤と青のコスチュームのその人は、明るく振る舞っていても、苦悩が透けて見えたという
言葉でなく思念で伝えられた彼の話は、主に戦場を駆け巡った超人活動で得たものは
常に、救えた人命の陰に、救えなかった人命があったことの繰り返しだったこと

絶えず、様々な主義主張の人々から
彼の超人能力を自分たちのために活かして欲しいという懇願
中でも、若い女性を使者にして、彼を引き込もうとしたのが分かった時
どうしようもない絶望感に襲われ、北極の地に引きこもったこと

そして、彼が北極での隠遁生活中に読んだ書物の中に
勤勉を愛し、単一民族で、調和を好む日本人こそ
次の超人になるべきだと思ったことなどがはっきり伝わって来て
そこに感銘して2代目を引き受けた日の記憶があった

その他の『想』にも肝心の収入面は特に語られていなかったが
どうやら、能力を隠して一般人として職を得ていたようだ
しかし、高度成長期だった時代はいざ知らず
今のご時世では、超人活動も行いながらの仕事なんて難しそう

家族だって多分、理解してくれないだろう
そこで、前職のコンサルテイング的考察を試みた
まず、超人の能力は多分にガテン系である
単純に、人の100倍は労働力がありそうだが

仕事の請負には、発注元の理解が得られそうもないし
もし発注があっても、超人が働いてたらメディアが来そうだ
それに、家族がどう世間から思われるかも心配だし
政府や外国の勧誘も大いに危惧される

どこかの国の軍隊に所属させられたり
なにか、こっそりやってきてくれ
なんてことになっても、家族を人質にされたら
断り切れないだろうしな

逆に前任者のように、こっそり隠れての“善行”程度では
銀河連邦の管理官にどう判定されることやら
悩みまくった前任者の轍を踏むのもいやだし
かといって、有料の超人活動ってのもなんだしねえ…

ああでもない、こうでもないのうちに日が暮れてしまったので
打開策のヒントを求めて、夜の町に出かけることにした
まずは、地味な方のコスチュームをポケットに入れ、アパートのドアを開けた

私の部屋は2階の隅にあるので
外に出るまでに何室かの前を通ることになる
案の定、1階に降りたところで
103号室の独り身らしいおばさん(私と同年齢か?)に出くわした

日頃、顔を合わせた時は挨拶くらいしているので
「こんばんは」と小声で言って通り過ぎようとすると
今夜に限って「まあ、お出かけ?」と返ってきた
「ええ、ちょっと…」とあいまいに返事をして行こうとすると

「いいわねえ、一杯飲みに行くの?」
なんだ、妙に親しげに話してくるぞ
「あ、いやちょっと買い物で…」
別に答える必要もないが、そこはご近所づきあいだ

まだなにか話しかけたそうなのを無視して
頭を軽く下げて、なんとか逃げおおせた
少し気負っているせいか、歩きの速度が抑えられない
普通の人から見ると走ってるみたいだろうな

その後、誰にも出会わず駅前の明るくなっている飲み屋街に着いた
落ち着いて考えをまとめたいなら喫茶店だが、この時刻では開いていない
なるべく賑やかでなさそうな店に入ると、そこはスタンドバー
無愛想なマスターが、黙ってグラスと灰皿を出してくれる

「タバコ吸わないんで、灰皿は下げて」と言うと、「…お飲み物は」渋い声!
店内を見回して、メニューらしいものを探すが見当たらない
「メニューは?」と訊くと、二つ折りの簡単なやつをよこす
超人になる前なら、こんな怪しげな店に近寄らなかったが
なんだか今夜は、どうなるか試してみたい気がする

今夜は、目新しいことや、危なげな感覚にわくわく感がすごい
後になってみると、それがいけなかったんだと思うが
メニューを開いて、つまみと生中をオーダーした
昔の感覚で注文してしまった生中は
超人体質が無害にしてくれてしまうので、ちっとも酔わない

だが、味覚は変わらず、つまみの不味さは分かる
こりゃ、損しちまったなあと思う気持ちが
顔に出ているのか、マスターの無愛想さが増す
もういいか、と思って「お勘定」と、マスターに声を掛けると
無言で、メモ用紙にボールペンで書いてよこした

なんと『12,000円!』とある
「ええ、なにこれ!」と思わず声に出た
「いちまんにせんえん、だよ」声にドス効果がオンされる
「え〜、頼んだのつまみと生中だけじゃあないか」こっちも声が尖る
そのタイミングで店の奥のドアが開き、金髪のにーちゃんが二人、のそっと入って来た

おっ、来た来た♪、と思った途端
「お客さん、なんか言いたいことあるんすか」
「なんか、あるんすか?」
なかなかにドスの効いた声のハーモニー
二人組の一方が若い衆で、片方が兄貴分という取り合わせだ

こりゃ、あまりに典型的な展開なので
この後、事務所に来てもらいましょうか、とか言うんじゃ、って思ってると
「最近、クレーマーのお客さんいるんで、俺らが話し聞いてるんすよ」
「そうそう、お客さん、クレーマー?」語尾が上がる、目は座ってる

「いやあ、なんか高過ぎるなあ、と思ってマスターに訊いてただけなんだけど…」
喋りかけの最中に、若い方がカウンターをドンと叩いた
「あ、なにクレームつけてんの?飲んだんだろ、ここでっ」
年上の方が、ぐっと顔を近づけて来て「飲んだんでしょ、お客さん」と凄む

超人前だったら、絶対びびったんだけど
この後の展開をどう持っていったらベターなのか
そこに思考が行って、二人組との対応を疎かにしてしまう私
「おいおい、おっさん、ちゃんと聞いてるのかよっ!」
「早く払うもの払って、帰んなよ。その方がいいと思うぜぇ」

声は大きめだが、吠えるほどではなく、表面上は脅し文句も入っていない
その辺りは、気を付けてるんだろうな、と思いながら
こっちから手を出すわけにもいかんから、なにかやらかしてくれないかな

彼の国で遭遇した連中は、それでも訓練されていたから
すぐ次のステップに入れたし、まだ超人力に慣れていない私の
あまりコントロールできていない暴力にも耐えられ
死んでしまった者は無かったはずだが

この連中でも、大丈夫だろうか
死なせてしまったら、今後の活動に支障がありそうだし…
マスターをちらっと見ると、カウンターの隅の方に移動している
二人組の、若い方はもう、いらいらした険悪な顔つきになっている
年上の方も、かなりいらついている
【再編集版・序章の最新記事】
posted by 熟年超人K at 14:54| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年11月21日

熟年超人A〜序章・初心者編(2)

それでも一度、能力テストで山間部に行ったとき
ガードレールに突っ込んでいる事故直後の軽トラを見つけて
シートベルトが外れずに、車内でぐったりしていた高齢の男性を助けることができた

このところの癖で、辺りに誰もいないことを確認してから
力任せにドアを引き開け、シートベルトを引きちぎって
ぐったりしていた男性を車外に引き出し、崖下に落ちかけていた軽トラを道路に戻した

これでやれやれと、帰りかけてから
怪我人をこのまま放ってはおけないな、と思い当たり
初めてのことで自信が無かったが、男性を小脇に抱えて
夕やみ迫る山道から、田畑と農家がある辺りまで、ちょっと飛んで、道端に置いて来た

それが余分だった…
翌朝のテレビで、その不思議がスポットライトを浴びていた

そりゃあそうだろう
事故った軽トラがガードレールに跡を残していながら、道路に戻っていて
ドアは壊れているは、シートベルトは引きちぎられているは
運転していたご本人は、10qほど離れた農道に倒れてたなんて
こりゃ、誰が考えてもおかしい

今落ち着いて考えれば、馬鹿なことしている
その場で、もっと冷静に考えて行動しないと…
内緒で超人やるのは難しいぞぉ、こりゃ反省しなくちゃ

翌朝起きると、会社に行かなくてもよい生活に入ったのに
やはり何かに追われている感が消えていない
超人になったせいで、眠くなるとか、体が疲れている、なんてことは無いのだが
どうも夜は寝床で横になりたくなるし、朝は歯を磨いてから、朝食を摂りたいのだ

テレビは、人の心を引っ張ろうとするニュースを流すので
最近は観ないようにして、もっぱら新聞を読んでいる
いくらなんでも、そろそろ超人らしいことをしないと
前任者や、彼の遺留思念にあった銀河連邦(?)の監査もありそうだし…

―ということで、今日は仕事をしに出かけることにした
まずは、私の住まいが分からないように、朝早い電車を乗り継いで、山間部に向かう
とある里山の中にずんずん踏み入り、頂上の手前あたりで
周囲に人がいないことを確認した上で、空に飛び立った

米軍や自衛隊のレーダーに引っかからないように
低空を飛びたいが、不慣れなことで何にぶつかるか分からないし
もちろん、誰かに見つかる可能性が大きいから
一気に、準最大速力を意識して、高空に向けて飛び上がった

高度は、気圧計の付いた腕時計が9000mで止まってからも、更に上ったので
多分2万m前後だろう、空気の無いのや超低温(―56℃程)は平気だが
着ている濃紺のトレーナーは、ガチガチに凍っているし
髪もバリバリだ(ニット帽を被ってくれば良かった…)

西北西に1時間ほど飛んで、方向確認のためゴビ砂漠で着地
コンパスの氷が溶けるのを待って、そこから2000m程の高度で、西南西を目指した
かなり思い切りだから、マッハ3くらいのイメージで、2時間半弱飛んで、やっと彼の国に到着
日本を出て約3時間半、日本時間では午後1時頃だが地球の自転があるので
現地時間は午前11時くらい。昼飯前だ

山岳地帯に降りたので、歩いて人が住んでいる処を目指す
超人眼で、着地前に見定めていた方角に時速100q程で走っていくと
2qほど前方にバリケードと数台の車が見える
どうやら、三つ巴勢力のいずれかの検問中のようだが
どっち派なのかは、もちろん分からない

そもそも今回は、ならし正義活動という設定なので
とりあえず、一般人を虐げている現場に介入する積りだったので
最初から、何派を叩こうとは思っていなかったのだ
そこで、速度を落として普通人のように歩いてバリケードに向かった

早速、ひげ面の汚いのが十数人
わらわらっと出て来て私を取り囲む
超人能力(表情の細かい変化や、心音、呼吸音、体温の変化などで把握)
で、ある程度相手の言っている意味は分かるが

残念ながら、言語能力は超人でないので、応答できない
そこで、ジェスチャーで『私は怪しい者でない』と伝えたが
そもそも、この荒れ果てた地で、濃紺のスエットスーツに運動靴の
熟年の東洋人がいることが怪しすぎるだろ、となるのは当然

自動小銃を何丁も突きつけられて、そこに腹ばいになれ
と言われているのではないかと推測したが
めんどうなので(というより、暴れてみるきっかけ作りに)
無視して、すたすた歩きだしてみる

私より大きい男たちが数人、掴みかかってきたが
掴まれたまま、速度を落とさず歩いた
彼らの表情がさっと変わって、銃で殴りかかってくる者
反りのある刀で切りつけてくる者、少し離れて銃を構える者…
殺気が一気に漲った

私と言えば、スエットスーツの無事を保って、ここを通過出来るか
そこが心配だった
それからの展開は、服をなるべく汚したくない私と
多少の戸惑いはあれど、人を殺すことに躊躇しない兵士達との
なにかリズム感の悪い、大立ち回りになった

基本的には、私を傷つける程度で、戦意を奪って尋問したい兵士と
服の損傷を気にしつつ、彼らをぶっ壊さないよう手加減しながら
素手で対応している(格闘経験のまるでない)私との闘いになっている
それで分かったのが、戦闘モードに入るとアドレナリンの具合か
俄然、相手の動きがスローに見えることだった

いや、砂煙も、折れて吹っ飛ぶ銃身も、びっくり顔になる兵士の表情も
全てがスローモーション映画のようなのだ
なにしろ、生まれてこの方、闘ったことなど全くない私でも
自分だけが、その中をすいすい動けて、面白くなるくらいなのだ

ただ、残念なことに格闘術を知らない私の動きも効率が悪く
こっちの兵士が吹っ跳んでくれているのに
次の相手を処理する順序がよく分からず、その都度、考えてから動くので
つい強く当ってしまって、相手が10mもぶっ飛んでしまう、ということになる

その展開に驚いたのは、遠巻きで銃を構えていた奴らで、慌てて闇雲に発砲してきたので
流れ弾に当たった兵士の血が飛び散るは、私の服も何ヶ所か焦げ穴が開くはで、収拾がつかない

ただ、服に穴は開いても、私自身は痛くも痒くもないので
ついそのままの勢いで、手近な相手を掴まえては、ぽんぽん投げ飛ばしたり
ついでに、SUVもひっくり返したりしていると、いつの間にか銃撃は止み
まだ立っている兵士は銃を捨て、唖然とした表情で棒立ちになり
さらに言えば、大部分の兵士は地べたに転がっている状態になっていた

問題は、この後だ
全員気絶くらいさせるか(と言っても、死なせずに上手く気絶させる自信がない)
武器はまとめてへし折って、車両も全部ひっくり返すくらいで、それ以上やる気も起きない
だがこのままでは、結局こいつらはまた、仲間から同じような武器を与えられ
同じようなことを繰り返すんだろうな、と思うと憮然となる

なんとか、一人も殺さないように気を付けてやっつけたのに、なんだか馬鹿らしくなってしまった
と、そのとき、いいアイデアが浮かんだ
次来たときは、この国の言葉をワンセンテンスだけ覚えておいて
「私は魔人だ。また同じことをやっていたら今度は地獄に落としてやるからな」と言って脅そう
信心深い連中のようだから、何回か繰り返していたら、効き目があるかも知れない

民族とか、宗教が絡んでいるんだろうから、根本的な問題解決は無理だが
こんな風土の国だったら、そんなとこが正解かも
で、今回は車両もテントも銃器もぐしゃぐしゃに破壊して
(助けを呼べるように、通信機らしいものは壊さないでおいた)
重傷を負った連中のめんどうをみられるよう、無傷の兵士を何人か残しておいて一段落

今日は町に行くのは止めて、ひとまずここまでとしておこう
はっきり言って、10分くらいでも戦闘は疲れるのだ
体力的にはへっちゃらだが、精神的にね

それから、最初のこの地に着いた場所に戻り、そこから3時間半ほど東に飛んで
目測しながら日本を目指し、出発場所の里山に降りた(速度の落とし方はマスターできた)
ただ、返り血と穴だらけになったスウェットでは、電車に乗れないので
少し山中で時間をつぶして、暗くなってから走ってアパートに帰った

寝る前に、ネットで彼の国の言葉を教えてくれそうな教室を探し
次に着て行く服のことを考え(ちょっと答えが出なかった)
明朝の新聞とネットニュースの心配をしつつ、いつの間にか眠っていた

眠りに就いて、しばらくしてからレム睡眠に入ると、通信回線が開いた
…と言うより、私は分かっていなくて、夢を見ていると思っていたのだが…

posted by 熟年超人K at 14:09| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年11月18日

熟年超人A〜序章・初心者編(1)

どうもなにかいい夢を見ていたようなのだが、目覚めると覚えていない
いや、ひとつだけ微かに残っているのは、とにかく楽しかったという気分が残っている

最近は、朝起きるのが面倒に感じている
ネクタイを[選ぶのも、シャツと背広を合せるのもおっくうなのだ
妻に言わせれば、それもあの会社に行くことも、もう無くなるんだから目一杯楽しんだら、ってことか
妻は、ときどきパートなどに出ていたが、家庭を背負った私とは違うのかも知れない
まあそれもいい。もう少し深刻に受け取るかと思っていたが、どこの家庭にもやってくる”定年ってものが
夫にも来ただけなんだと割り切っているのだろう

その日は当然やってきた。会社で決めた通りの日に私を訪れた
幾たびか転職を繰り返し、最後の転職先だったSAプランニングの定年退職の日
お決まりの送別会は、私と言う人間が居る仕事場と、もういない明日からの職場の区切りのイベント
2次会に誘う声もないままの散会、「お元気で」「皆さんも頑張ってください」「長生きしてくださいよ」とかとか
それでも、皆も私も、同学年でこの会社に誘ってくれたM田井社長も、これでそれぞれの生活に戻る訳だ

火照った頬に風を感じながら、妙に大きな花束を手にして、駅に向かってふわふわ歩いていると
背の高い男が明るい駅を背にこちらを見ている
なぜ、私を見ているのだろうと訝りながら、それでも歩調を変えずに、歩いた
そう、もう私は今や自由人ではないか。会社勤めは終わったのだから
あいつが何処かで挨拶したことのある取引先の部長でも社長でも
企画コンペで出し抜いたことのあるライバル会社の社員でも構やしない
今の私には、頭を下げなきゃいけない相手なんか、もうないのだ
と、いささか酔いの回った大脳辺縁系に煽られて、どんどん間を詰めて行く

「待っていたよ。早めにあんたに引き継ぐことができて良かった」…確かにそう言った
思わず立ち止まって、しげしげその男の顔を眺めてみる(酔っていなければそんなことはできないが)と
声は深くてしっかりしているが、見た目は結構、年寄りに見える
「えぇーっと、お、恐れ入りますが、どちら様でしたでしょうか…」
自分の声が頼りなく、自信なげに遠くに聞こえる
「衣装の素材は君のアパートに送っておいたから」
なにを言っているのか分からないが、いつも他人に命じ慣れている口調
もしや、社長が今日の送別会では黙っておいて、お取引先か、下請け会社に私の次の就職を頼んでいて…
いやいや、あり得っこない。昨今の景気では、そんなことあるはずがない

「すみません、私になにか御用なのでしょうか?」
なんと、我ながら自信なさそうな声しか出ない
「そうか、あんたには昨夜連絡しておいたはずだが、忘れてしまったのか」
昨夜…、連絡…、えっなに、なんの連絡があったというんだ
メールもケータイも、このところなにもなかったし、社内でも、定年間近の私に話しかける者もなかったが…
いいことと言えば、夢でスー○ーマンみたいに活躍できたこと
そう、それくらいしか楽しいことはなかった、が…
そうだ、忘れていた、夢の最後に誰かに囁かれていたっけ。『じゃあ、OKだな』…とか
「ええっ、まさか、貴方、夕べの夢に出たとか、そう言うのじゃないですよね」
「そうだ、そこで次の超人職はあんたに任せたんだ」
じょ、冗談じゃない…そうか、なんだこれ、ドッキリテレビなのか?
な〜るほどぉ、そうだ、テレビ番組なんだ…
最近の地方局は、一般人も巻き込んで、こういうのよくやるんだよな
「あ、そうでした、そうでした、思い出しましたよ」…得意(だった)の営業口調が戻って来た
「やりますよ、超人職でしょ。やりますよ」
「そうか、良かった。では、これが“引き継ぎ短針“だ」
言った途端、男が私の胸に手を伸ばし、瞬間、ちくっと、胸に痛みが走り、…私は理解した

この星にも超人職が導入されたのだ
そして、なぜか私が第3代の超人になったことを
文明レベルが一定(核分裂の応用)に達し、かつ、自力で正しいことが決められない星に
必ず派遣されるのが超人≠ネのだ

その任は必ず、その星の人間が務めることになっていることを理解した
私に引き継いで、急によろっとなりながらも、それでも、やんわり微笑んで
ゆっくり歩き去ったのが、2代目超人、だった人
私の心臓は大きく、熱く、力強く鼓動し
彼の引き継ぎ思念が、これまでの彼の苦闘をはっきりと、私に伝えてくれた

初代の超人は、この惑星の最先進国の人間で、若く逞しい人物だったらしい
ただそのことが、超人としての任務を遂行する上で、大いに障害になったのだ
彼は、若い女性(美人の)を救うことに気を奪われて、一般人を後回しにしたり
重大事件の糸口が掴めずに、防げるはずの悲劇を避けられず、悩んだ末、北極で消息を絶ったという

それを反省した神?は、2代目超人に、戦争に負けた結果、平和になった国の50才の人物を選んだ
神仏をほどほどに信じ、真面目に働き、一家の幸せを夢見ていた、平凡な人物を
しかし、2代目超人になった背の高い男は、己が授かった特別な力に困惑して、超人職を全う出来ず
早々に辞退を申し出て、以降50年間、ひたすら目立つことを避ける人生を送ることになった

2代目の男の深層心理から、この惑星人の基本的資質を再洞察し、背の高さも外見も普通で
特に、人生の成功も経験せず、かと言って投げ出すこともしない人種をベースに
そこに、挫折した2代目が陥った、全くの普通人が超人を務めることの困難さを加味して
楽観的科学指向を有し、組織よりも自己実現を優先する人間(私)が候補となったらしい
つまりは、三度、超人を選ぶことになったいきさつを理解できた


そう、夢の中での私の示した(ほどほどの)超人ぶりが
銀河連邦(?)主管局の審査を通る決め手になったことも、全てわかったのだ
(基本単一言語・ほぼ単一種族の日本人で、SF好きが重視されたとか)

そして、任期はこの星の公転周期で50回転、乃至100回転分となっており
50年後に、一度更新か引き継ぎかの打診があるとのこと
また極端に実績がなければ(つまりなにもしないと)
途中解任(になるとどうなるのかは、引き継ぎ事項にはなかった)もあるらしいが
とにかく100年満了で、成績により上級職への昇進もあるらしい

超人能力は、空を飛べ、銃弾にも貫通されず
力は機関車(??)よりも強く…etc.etc、つまりはスー○―マンと同類
概ね、ご存じの通りの力を持ち、性欲や味覚、睡眠欲
温度や湿気などの感覚を、残すかどうかは本人の選択可能

この惑星での加齢は、任期中は100分の1で進行し、病気、飢餓はなく
なにを守り、なにを罰するかは自由判断(正義か悪かも本人次第)
と、まあこんな知識が、いつの間にか自分の脳内に存在していて
考えようとすれば幾らでも細かく分析・理解できる

ふつふつと、やる気が起こってきたような気もするが
ちょっと引っ掛かるのは
件の2代目が、100年の交代期ではなく、短い方の50年での交代を選んで
私に引き継いだ後、いかにもほっとしたように微笑んだことだ…

アパートに帰って、部屋の明かりを点けようとして…やめた
明かりを点けなくても、室内がよく見えている
そうだ、私は超人になったんだ
そう言えば、駅からから走るように(自分では歩いている積りだったが)
帰って来たのに、ちっともはあはあしていない

帰る途中、空を飛んでみようかとも思ったのだが
誰かに見られていたら困る(防犯カメラも多いし)と思って歩きを選んだ
そう言えば、電車でも立ったままで、いつもの揺れがまるで気にならなかった

寝る前に、これからどうするか
考えとかないといけないんじゃないか、とネガティブ思考が囁く
暴れ放題のマーベルコミックなら、後先考えなくても良いだろうが
ここは和の国、日本なんだし…

そもそも私は、思いつきだけでこれまでやってきたような人間だ
(…広告業界では、思い付きは“ひらめき“と訳す)
そして、テンションで突っ走った後の、虚しさに弱いのだ
さあ、どーするワタシ

ちょっと一杯飲りながら、考えを進めようかと、冷蔵庫から出した缶ビールの
プルトップを持ち上げようとした瞬間、ぶしゃっと握りつぶしてしまった
いかんいかんオレは超人なんだ。力の入れ方に気を付けないと、このアパートだってアブナイ
そっとテレビのリモコンを(潰さない様に)操作して、深夜番組を見ながら、全然眠くないことに気付く

そう言えば、送別会の酔いもすっかり消えている
試しに、取って置きのウイスキーをストレートで飲んでみたが、全然、水みたいなもんだ
だが、つまみのサラミは、ちゃんと味がある
どうやら、体に良くないものは無効になるようだ
こりゃあ、自分の能力をちゃんとチェックしとかないと…

ま、明日からずっと暇なんだから、ゆっくりやろうか
と、もう一人の私がつぶやいた

そんな眠らないままの夜が明けて、私の気持ちはしっかり固まった
自分に何ができるかは、大体理解できていた
確かにスー○ーマンのようなことは、やれそうだ
…しかし、しかし、だ

若い頃なら、悪い奴をやっつけて、困っている人を助ければ、気持ちが良かっただろうが
どっこい、今の自分には、世の中の仕組み、ってものがそこそこ理解できている
そもそも、たった一人で、世界の困っている人全部を救うなんて、無理に決まってる
なら、ここは居直って、自分の目に付いたことだけに関わろうか、とも思ったが

やってしまった後のことを考えると、めんどうなことが、山ほど残りそうだ
もし、悪いと思った奴をぶっとばして、そいつが死んでしまったり
ぶっ飛んでって何かにぶつかって、壊しちまった物の持ち主が、損害賠償を求めてきたら、どうする?
そーして、警察とかが、逮捕に来たらどうする?

おとなしく捕まってたりしてたら、いつまで経っても、悪い奴なんて片付けられないだろうが
警官の指示に従わなかったら、即、公務執行妨害で逮捕、だろうし
大体、目の前の悪そうに見える奴だって、本当は、どの程度のワルかも分からない
被害者に見える人物が、実は陰湿なことをやってのけてる場合もあるんじゃないか

…ということで
当面は力を発揮せず、メディアの情報を基に、聞き込みをして、充分検討した上で正義活動をすることにした
まあ、偶然、犯罪に出くわしたら、緊急発動することにするが、そんなこと私の60年間では1回も無い
(…いや、危なそうな場所に出かければ、あるかも知れんな)

*
*

しかし、前任のあの人は、なにをやってたんだろう?
どうも、50年目でリタイアしたみたいだったが
そうすると、1967年前後に超人になったはずだ
さっそくググってみると、なんとまだビートルズが現役で
アメリカでは、マルコム]が暗殺され

美空ひばりが「柔」をヒットさせ
映画の007がゴールドフィンガーの悪事を暴き
ジャイアンツの長島選手が結婚し、テレビでは緒方拳の「太閤記」や
「おばけのQ太郎」や「ジャングル大帝」が人気だったらしい

その後、世界や日本で起きた、事件とか戦争を思えば
スー○ーマンが活躍するのになんの不足もなかっただろうに…
そんな解決って、あったか…?
無かった…、と思う

もう一度
彼の残していった『引継ぎ残留思念』を精査してみたが
なにか軽い後悔のような、後ろめたさのような、そんな感触があるだけで
彼のやったことの具体例は、わからなかった(隠したい過去だったのか)

う〜ん、これはもっと慎重に考えないといかんのかなぁ
ちなみに、私には息子夫婦と同居して暮らしている
奥様もいるし、孫ももうすぐ生まれそうな、そんなリア充?熟年を目指しているのだ
別にその気で探さなくても、世界にも日本にも
超人なら解決できそうな困ったことは、いくらでもあるように思えた

そうなると、きりがなさそうなので、今後の行動基準としてとりあえず
経済問題、政治問題、倫理問題を避け、暴力に見舞われている人を助けることにしたが
そこにも問題がありそうだ

大体、スー○ーマン映画を見ても、きれいな女性が危ういところを
(そう、誰が見ても危機一髪というところがミソではある)
つまり、助けられてこそ、自分に降りかかった災難を振り返って拍手するが
所詮、それを見ている一般大衆は熱しやすく忘れやすいもの

後で、あっちのおばあさんを先に助けるべきだったとか
こっちのワンちゃんも怖い思いをしてたのに…なんて言われかねない
まして、ネット社会だから、新聞を見てから世論が起こるより先に
2チャンネルとかで、私の正体だって曝されかねない

そうなったら、妻や子や、その家族にどんな累が及ぶか、想像するだに恐ろしい
これは、しっかり考えてから行動しないと…と考えるほど気が重くなる
それもともかく、まず自分の超人力がどのくらいのものなのか
今は、それを把握することを優先することにした

この考え方は、前職で身に着いたもので、古い商店街のコンサルタントの際に
私自身、よく口にしていた、イベント開催前の準備段階、その1である
そこで、能力テストだが、もちろん、人には見られたくない

幸い、夜目がすごく効くので、深夜に近くの河原に出かけて試してみることにした
ところが、深夜と言っても超人の視力、聴力を駆使すると
そちこちに人がいたり、防犯カメラがあったりするのがわかる
暗闇というのは、カップルやら、痴漢やら、怪しい連中やらが好んで集まり
また、コンビニの関連者、新聞配達、運送業者などなどが活動している

やむを得ないので、20qほど離れた里山に行ってみることにした
夜空に溶け込むよう、(妻がダサイと言っていた)濃紺のジャージを着込んで
空を飛んでみることにした
飛び方は前任者の伝達記憶にあった通り
息を溜めて、片手を挙げてエイッと体を浮かすようにしてみたが、これが難しい

つい、足でジャンプしてしまうのだ
すると、ぴょ〜んと跳び上がってしまう(あの、高いビルもひとっ跳び、状態である)
アパートから少し離れた、新築中のマンション工事現場の傍で試したのだが
幸いどこにもぶつからずにマンションを飛び越して、公園らしい場所の傍に降り立てたが
着地時に(スキーで言う)抜重が上手くできず、30pほどの凹みが…

空を上手く飛べないなんて、欠陥超人だなぁと自己嫌悪
まあ、上手く飛べるようになるため、練習するしかない
取りあえず、今度は走って行くことにしたが、思ったよりも、すごく早い
途中で、タクシーを軽く追い抜いたところをみると、時速100q近く出ていたんだろう
(タクシーの運ちゃんは驚いたろう)
まあ、謳い文句の通りなら、ピストルの弾丸より速いらしいから
MAX時速1500〜1600qくらい出せそう(街中じゃあとっても試せない)
どうにか、人目がないところを何ヶ所か見つけて
あれやこれやひと通りやってみたが、これだ、という手応えがない

とにかく、力の加減がものすごく難しいこともわかった
例えば、乗用車など持ち上げると、とても柔らかく作られていて、手の跡が残ってしまう
トラックとか重機はその辺りはいいが、足元がめり込む
バランスよくやらないと、重機でも形がちょっと変わってしまう
余程注意しないと、持つ部分に力が加わってしまうので、そこに神経を使う

超人になったおかげで、体の疲労はないが
心が疲れるのだ
これは、日本人には不向きなんじゃないかな
と思いつつ、明朝のテレビでなにか報じられはしないか、と、気にする私

折角、定年退職したのに、いつ帰るのと、妻は何度も留守電とメールで訴えてきたが
こっちは超人能力を、ものにするための練習練習で忙しくって、返事もできない
…というか、返事をする気にならない
とにかく、これから世界を救うかも知れないのに、と肩に力が入っているのだ

超人になるための練習中で忙しいんだ、なんて言えるわけもない
言えば、『そんなこと誰かに任せて貴方は家のことをやってちょうだい』
とか、言われるに決まっている
…て、こんなだから、私は愛想つかれてるんだろうなぁ

そんな具合で2週間ほど経つ頃には、大分、超人らしくなっていった
そこで、最初のならし運転をどうするか、楽しい空送を膨らませていた
平井先生の『狼男』シリーズが参考になったが
実際に、繁華街の危なそうな処に行ってみても
そうそう危ない連中なんて都合よく出て来てはくれない

やっぱり私には、危険な男の発するオーラがないんだろう
大体、他人といさかいを起こしたくない気持ちが強いし
大した理由もないのに、ひと暴れなんてできないもんなぁ…

posted by 熟年超人K at 19:06| Comment(0) | 近過去SF小説