2022年12月31日

熟年超人A〜第1章・仲介人のA編(5)

社会派リポーターのDは、このところスランプ気味だと自覚していた
身長が高く、どちらかと言えばルックスも渋めの2.5枚目で
高校までやっていた少林寺拳法を、大学に入るとすっぱりとやめ
学業は単位をぎりぎりで取りながら
テニス同好会と、マスコミ研究会のかけもちをして
バイトで始めたテレビ局の下請けプロダクションに所属し
今では、ベンリーさんと呼ばれるキャラとして業界に定着していた

そこそこ女の子にもてればと、始めたリポーター業だったが
深く考えもせず出かけた3ケ月ほど前の大事故の取材で
自分の見ている事象が、伝え方ひとつで視聴者にインパクトを与えたことに
感動し、それからは社会派リポーターを名乗ることにしたのだが
業界内の評価は必ずしもそうでなく、鬱屈した毎日を過ごしていた

例えば、先日あったヒーロー風の男と、地回り(や)との抗争事件も
マスコミとしての取り上げ方次第では、閉塞している日本社会の
突破口になる予感を得て、そのようにリポートしていたのだが
あの大物キャスターの一言で、軽くあしらわれてしまった
朝の『昼報ですよイチサンマル』の打ち合わせでも、継続取材を望んだDの主張は
メインキャスターO倉の鶴の一声で、“様子見(ヤラナイ)”となってしまった

その日、番組が無事終了して、仲の良いスタッフたちと飲みにいった店で
日本にとってのスーパーヒーロー待望論をまくし立てたDは、いつのまにか孤立し
気が付くと、どこかの飲み屋で一人くだを巻いていたのだった
その姿を見かねたのか賛同したのか、30代半ばの男と厚化粧した女がDを挟んで
相槌など打ちつつ、追加の酒肴をどんどんオーダーしている状況になっていた

その場の流れで、30代半ばの男(実は探偵S我谷)が
Dのスマホの例の事件の動画を見せてもらっていると
横から覗き込んだ女が「あらっ、わたしの知ってる人!」と素っ頓狂な声を上げた
30代半ばの男とDは即反応し、互いに目と目で同じ獲物を追っていることを悟った

後は、追加したジョッキで口の軽くなった女から、住む部屋、どうやら定年退職者だとか
このところ警察の人間が何人か訪ねてきていること等を聞き出すのは簡単だった
酔いの回った女がうとうとしている傍で、DとS我谷は互いを協力できる対象と認め合った

「こっちは、S会さんにも報告しないといけないんで、そこんとこはよろしくデス」
「わかってますよ、経過だけ教えてもらえば、取材源の秘匿でいけますし
そこそこ経費もOKですから、お宅さんには美味しい目、見てもらえますって」
「じゃ、それでOKってことで。写真は先にS会さん、でいいですよね」
「まあ、仕方ないですわ。こっちはこっちで取材しますし、後はお互い相談で」
もう1杯ずつチューハイを頼んで、乾杯して二人は別れた
女が、その後どうしたのかは、二人とも気にも留めていなかった


[ ここで、アパートに戻った私の方に話は戻る ]
正直、超人になりたての、ついこの間まではただの一般庶民で
警察などというものは、テレビで見る以外、せいぜい免許の書き換えか
お金でも拾ったなら、届けに行く処としか認識していなかった私ゆえ
あの尋問には、神経が随分と細っちゃいました

なにか、じわじわ追い詰めて来るあの空気感に浸されていると
つい、自分のしていることが悪かったと、反省したくなるような気分に
まあ、そんな破たんは避けられたのは、自分の超人力に慣れてきたのか
いざとなれば、誰も自分が出て行くのを止められない、と分かっていたからだ

そんな風に自己分析しているうちに気持ちが落ち着いてきて
これからの行動指針にも考えが回るようになった
まず最初に、周囲偵察で張込みらしき車”が周囲2q圏内にいないことを確認
次に、テレビを点けて各局の深夜の報道番組をチェック
同時に、超人眼で部屋の中に盗聴器や小型カメラが仕掛けられているかを透視
結果、コンセントの分配器と卓上の時計の中に盗聴器発見したが
この部屋では、どうせ大した話しはしないし、分かってれば問題ないからそのまま放置
(テレビの方は、プロ野球ニュースと海外サッカーのニュースが始まったばかり)

こうしてみると、まだもう少し隠密行動が取れそうだ
一旦、有名になってしまうと、例えスーパーヒーローの代理人であっても
世間の好奇の目からは逃れられないだろうし、家族もそのうち判明するだろう
家族については、肩身の狭い思いはできるだけさせたくないから
どうしてもグリーンマンを良い超人にしておかなければならない
スパイ○ーマン風の方は、既に(や)と揉めているし
警察にも目を付けられているから、自粛せざるを得ないだろう

さて、考えるのはこれくらいにしておいて、そろそろ寝るとしよう
明日はどこかに遠出して、他所の市の図書館で原発関連の知識を得るとしよう

*

ぐっすり寝て、朝の7時起き、結局ジュブブのレム睡眠通信はなかった
なにも心配事が無くなったかのように、普通の朝を迎えることができた
普通の日常と言えば、トイレの方は大も小も本当に回数が減った
大の方は超人になってからも、習慣で結構食べているのだが
ほとんど出ない。出ても、飴玉(比喩が申し訳ない)くらいのが、2回だけだ
小の方も、結構飲料を飲んでいるがほとんど出ない
恐らく、体内で徹底利用されているんだろう

そんな話はひとまず置いて、冷蔵庫に入っていた食パンをトースターに入れ
電子レンジでマグカップに湯を作り、インスタントコーヒーの粉を一匙放り込み
焼けたパンにマーガリンを塗りながらゆったり気分で考える

今日の行動は、まずアパートを出て
警察の監視をまき、夜になったらF県内の山中にでも移動するとしようか
テレビを点けて、朝の報道番組を見ながら朝食を摂りながら
なんだか警察もののドラマの犯人役の気分を味わって少々興奮する私

新聞も隅から隅まで目を通し、時計を見ると10時を過ぎている
出がけに、このところ習慣化している周囲偵察をしてみると
案の定、少し離れたところにあるコンビニの駐車場に
人が乗っていながら、駐車している白い車がいる
更に、アパート向かい側の住宅の2階にも、こちらを向いているレンズ
それなら、連中の死角になりそうな、2階の各部屋をつないでいる通路の
下に降りる階段の反対側から、隣のアパートに飛び移って
1本向こうの通りから出て行こうか
いや、ドアを開けて通路に出た途端、向かいの住宅から覗いている奴に分かってしまう

では、どうしよう…夜になるまで待つか
暗くなってから動いて、夜中にF県内の山中に行くしかなさそうだ
そうと決まれば、明るいうちは自由に動いてやろう
どんな風に警察が尾行するのか、確かめるのも面白そうだ

心が決まったので、堂々とドアを開けて、通路でわざとらしく背伸びなどして
ゆっくり1階に下りる
服装は後のことも考えて、毎日が日曜日の私にふさわしいチノパンに
着古したジャケットにした
いつもコンビニではつまらないので、駅前のネットカフェに行くことにする
周囲偵察をしながら歩くのは初めてだが、徐々に要領が掴めてくる
斜め後方に、K刑事
そのK刑事の後ろにもう1人、さりげなく付いてくる奴

人通りがあまりないので、角を曲がった瞬間にダッシュしようか
とも思ったが、まあやめておく
結局、金魚の糞を引きずったまま、ネットカフェに到着
大分前に、この店のネット会員になっているので
インターネットもできるが、どうせ後でチェックされるだろうから
週刊マンガ誌と単行本を10冊ほど持って案内された席に着く
K刑事は入口に近い席に、もう1人は店の外に立っている

延長タイムを1時間ほど追加して、借りたマンガは全部読んで
日替わりランチまで食べて、のんびり顔で店を出る
K刑事が慌てて、身分証を見せながら少々の質問と勘定を済ませ
表の誰かが、視線をそらすのを見て、あの時のカメラを持ってた奴だと分かった
すると、カメラの男は、警察ではなく、マスコミか(や)の関係者だ
ちょっと訊いてみたい気もするが、きょうのところはやめておこう
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2022年12月29日

熟年超人A〜第1章・仲介人のA編(4)

どやどやっと十人くらいの精悍な男たちが画面内に現れ
左の画面が消える
右の画面は少し離れているとみえ、録画は続いている
少し後ずさりしている野次馬と、周囲をねめつけている(や)の男たち
突然、男たちが身構える、緊張が走る
「ああ、なんだぁてめえ」
「変な格好しやがってよぅ」
「てめえ、そりゃなんかのコスプレかぁ?」
男たちが吠える

集まった男たちの大部分は、いわゆるいかれた格好が多く
その中に2人ほどスーツ姿も交じっている
男たちの視線に合わせ、スマホがその方向に向く
なんだかぼんやりした印象の、濃いグレイの人影が立っている
「そいつぁ強えぇぞー」と叫ぶ声が入る
スーツ姿の男が低い声でなにやら言って
グレイな人影を囲んでいた男が細い棒のようなもので打ちかかる

その棒が、グレイな人物の片手で軽く払われると
若い男の手から吹っ飛んでしまう
それをきっかけに、人の群れが活気を取り戻し
グレイな人物に襲い掛かる
その先は、まるで合気道の演武のように人が飛び
放り出される。あっと言う間だ

一瞬ひるんだ風の男たちが、はっきりと武器を顕わにして
グレイな人物を威嚇する。見物の野次馬が後ずさりし
スマホも大きく揺れる
画面がはっきりしないうちに、次のアクションがあり
男たちの後方に居たはずのスーツ姿が手首を抑えてなにか喚いた瞬間
横の男に思いっきりぶつかって、すっ転ぶ
次に二人の男が弾き飛ばされるように転がり、なにやら光るものが路上に落ちる
そのまま一瞬画面がフリーズし、暗転する(バッテリー切れか)

ここで左の画面が復活
少し遠巻きに、喧嘩の様子を録画している
男たちがぽんぽん吹っ飛んでいる感じ
周囲の野次馬の「すっげぇ〜!」とか
「なにあいつ、アイ○ンマン?」「スパイ○ーマン?」
「めっちゃ強いじゃん!」などと言う声が続く
そのうち、「あっ、いなくなったぁ」
「えっ、消えた?」などと声がかぶさって画面暗転

次にまた街頭の防犯カメラの映像
これも、バーから私らしき人影が出て来るところから始まり
(や)たちがやって来て、ぼんやりしたグレイの人影との立ち回り
こちらは鳥瞰している画面なので、野次馬も含め、人の集団の動きが分かる
とにかく、かのグレイな人影の動きの速さが尋常でないこと
特に、場を離れる際のスピードが印象的だった

「どうですAさん、この人物に心当たりは?」
「いっやぁー、すごいですねぇ。こんなの初めて見ました」
「この人物、あなたのお知り合いかなんかじゃ、ないですか」
「いやいやいや、こんなすごい人、知り合いである訳ないじゃないですか」
「しかし、どの画像を分析しても、あなたが姿を消した途端、この人物が現れ
マル暴らと一戦してるんですよ」
「いやぁ、私も陰からちょっと見てましたが、怖くなったんで逃げ出した次第で…」
「ほう、逃げ出した。どこからどちらへ」
「いや、あのバーからなんとか逃げ出して、その後大騒ぎになったんで、よく覚えて…」
「そのバーで、あんた大立ち回りしたって、そんな話も聴いてるんですが、ね」
…やばい、あの店でも一般人的には、大暴れしてたんだっけ

う〜ん、やっぱり素人には警察の追及をはぐらかす、なんてぇのは無理
こうして、どんどん追い詰められちゃうんだよなぁ
「そ、そうですか。そんなに私、あの店で…」
「そうだ、暴れたんだろ?」
(だろ?…って、確証がないのか)

「えぇと、バカ高い請求されて、おかしいよ、ってちょっと言ったら恐そうなのが出て来て」
「それで、あの店で暴れたのか」
「暴れた、って誰が言ってるんです?」
「誰が、ってそりゃ、あれだよ。…誰が言ってたんだ、K刑事」
「はっ、誰が、と言いますと、あの店の中が少し壊れたそうで…」
「だから、被害届はどうなんだ。取れたんだろ!」
「いや、は、はい、マスターが言うには、グラスがちょっと割れただけで
お客は代金払って、店の外に出たから、被害もなんにもない、って」
「なにぃ、この前所轄が店に寄ったときには、店の中がぐちゃぐちゃだったって
言ってたじゃないか!」
(…どうやら、あの店のマスターは、自分たちで落とし前つける積りみたいだな)

「まあ、まあ、結局、あの店も吹っかけてるのは分かっていて、大ごとにしたくない
って、ことなんでしょ」
「な、なにを偉そうに。…まあ、お宅さんのことは、もうしばらく調べさせてもらうんで
今日のところは、お帰り頂いて結構ですわ。K、お送りしてくれや」
そんな具合で、どうにかその夜はアパートに帰して頂いたのである

*
*

[ その25時間前 探偵S我谷の事務所兼ねぐら ]
S会の若頭T野の依頼で、しょうもないアパートに住んでいる中年男Aの後を付け
最近店を閉めたパチンコ店前の空き地で4時間ほど粘っていた探偵のS我谷は
とうとう張込みをあきらめて、狭い事務所に戻って、パソコンをONにした
画面が明るくなったところでパスワードを打ち込み
探偵稼業で一番大切にしている画像フォルダーを開け、カメラのSDメモリから
今日撮った画像を、ひとまとめにドラッグ&ドロップする
SDメモリの画像データは消し、HDのフォルダに撮影日とA1と打ち込み
もう一度パソコンのデスクトップにフォルダをコピーしてから
200枚以上ある画像を1枚1枚目を通していく

撮影された画像は、Aの住むアパートとその周辺
彼が日常行きそうなコンビニや、ドラッグストアまで
次の画像グループは、夕方になってアパートから出てきたA
そして、早足で歩く後姿、徐々に人影が疎らになっていく町並み
店をたたんだパチンコ屋を眺めている後姿
角度をやや斜め後方にして撮った絵、そのズームアップ画像

それが、ちょっと前かがみになった画像(かなりブレている)になり
次のコマは、誰もいないパチンコ屋が写っているだけの画像
その次が、慌てて撮った3連カット
そして3枚目のカットのパチンコ屋の屋上に、ぽつっと小さな点
それをフォトショップに落とし込み、拡大、画質調整をしていくと
どうやら人影のように見える

そもそも、Aのアパートを探し当てたのは、S会若頭の調査依頼を請け
バー夜露で暴れた男の足取りを追ううち、飲み屋で息巻いてたテレビリポーターから
見せてもらったスマホの中の中年男の画像を
上手く探せたら教える、と約束して写し込ませてもらったことと
偶然隣の席で飲んでいた年配の女性がその画像を覗き見て
「あらっ、この人わたし知ってる!」と、奇声を上げた幸運からだったのだ

S会としては、なんとしても警察が動く前に、店で暴れた男を見つけ
あわよくば、もっと手強い怪人の方も掴まえて、けじめをつけたいという状況だったので
うまく獲物を見つけ出して、手引き出来れば、かなりな報酬が期待でき
ついでに、テレビリポーターにも売り込めれば(どの程度まで、リークするかが問題だが)
結構おいしい話になりそうだと思い、にやっとなった
まあ、Aという男がどこまで怪人に関わっているかいないかは知らないが
あとは、S会の問題ということだ

その後のカットは、いなくなった男を闇雲に探すカットばかりで
パチンコ屋と、その周辺の当てずっぽうカットだった
が、1カットだけ、S我谷の勘にちくっとくる画像があった
それは、夕やみ迫るパチンコ屋の屋上看板辺りを捉えたもので
なんと、マントのようなひらっとしたものをなびかせ
空中に舞いあがった、スーパーマンのようにも見えるぼんやりした影が写っている(?)

そこまで神経を集中して画面を見ていたので、疲れた目をこすりながら
S我谷は冷蔵庫の扉を開け、第3種ビールの缶を取り出し、さてこのネタどうしよう
と、いつもの皮算用の世界に没入する態勢となった
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2022年12月27日

熟年超人A〜第1章・仲介人のA編(3)

取りあえず警察に行く前に、予備知識を得るため
『スタンドバー夜露 事件』でググってみた

ネットの世界の住人向きの事件だったようで
様々な掲示板に、何本もスレッドが立っている
曰く「ぼったくり横丁のスパイ○ーマン」
曰く「抗争(や)対忍者マン」
曰く「武神・超人ジャー参上」などなど

それぞれに、当夜見ていた者やら、見ていたかのように語る者やら
超常現象の好きな者やら、他人の意見に一言足したい者やら、交ぜっ返えす者やらが
スパイ○ーマンのような人物の正体や目的、その超絶能力などについて語り
意見が寄せられ、俺がその怪人だ、とか宇宙から来たんだの、未来人だのと喧々諤々
ただ、何本かの当夜の動画と、(や)側の負傷者の数や、「バー夜露」の評判など
ある意味、客観的なデータ類もあって、見ておいて良かったと思った

あれやこれや読んでいるうち、問題があることに気付いた
私Aが警察で、当夜の怪人の知り合いなんだと認めるとすると
その後、F原発の難題をグリーンマンが解決したとき
二人の超人と知り合っている私の立場は、世間にどう思われるだろう
と、いうより、国家権力が、そんな私に対して途切れぬ監視を続けたら
分かっちゃうんじゃないの?真相が
それ以上に、過剰な取材力を誇るマスコミが、我が家族を放っておくだろうか
いや、放っておきっこない!

う〜ん、と、うなってしまったが
どっちみち、ずっとクラークケントではいられる訳がない
どこかで、有名人の家族の立場を受け入れてもらうしかないだろう
それはそうとして、そろそろ1時間近く経つ
刑事さんの来る頃だ
まあ、しょうがない(ポジティブ力発動!)
巷の問題解決時はスパイ○ーマン風、大規模問題はグリーンマンになってます
ってことで、煙に巻いてしまおう

いつ、チャイムが鳴るかと構えた時、携帯が鳴った
「はいはい」と明るく出ると
「居たのね。さっきから何回も呼んでたのに出ないで、なにやってたの!」
と、大分おかんむりな妻の声
「いや、ちょっと携帯忘れたままS友に行っててさぁ」
「だめじゃないの、持っててこその携帯、なんだから」
「そうだよね、ごめんごめん。で、なに?」
「なにって、用がないと電話しちゃ駄目なの」言葉に棘!
「いいや、もちろんそんなことないよ。でも、用なんだろ?」

「まあ、そうなんだけど。パパ、今月のお給料、ってないんでしょ?」
「あ、ああ、そうだね。今、企画を提案中なんだけど、明後日答えが出ると思うから」
「そう、なの。わたしはね、パパにね、危ないことなんかしないで普通の嘱託社員とか」
「いや、大丈夫だから。相手さんは大手の企業だし、この前話したようにやれるから」
「それって、大丈夫なの?なにか変な力で仕事するって…」
いや、この展開はまずい。もし、盗聴されてたら、一気に核心に触れてる会話だ

「まあ、あんまり長話してるとほら、電話代かさんじゃうし」
「そ、そうね。パパの携帯へは、かけほーだいじゃなかったもんね」
「そうそう、だからまた、こっちから電話するから」
「ええ、わかった。じゃ、パパ、あんまり無理しちゃ駄目よ。あら、ごめんなさい
肝心な話忘れちゃったわ。赤ちゃんの名前、T哉になったから。パパもいいって言ってた
それじゃぁね、お休みなさい」
…うん、うん、気は付けるから、そっちこそ皆、元気なんだよね。僕は元気だから
赤ちゃんにも会いに行きたいし…、などと畳み掛け、最後にお休み、と言って電話を切る

ジャスト、そのタイミングでドアチャイムが鳴った
なにも、持っていくものないな。携帯、どうしようか?
もし、着信履歴かなんか調べられたら、まだまずいよな
と、いうことで仕事用机の引き出しに放り込んで、玄関に向かう

「すみませんね、こんな夜遅く。まあ、そんなにお時間取らせないと思うんで」
刑事さん、かなり無表情を装って、淡々と話すとこが、どうも臭うんですがね…
ま、それじゃあ、出かけましょうか
さっきは居なかった白っぽい乗用車がアパートの駐車場の前に停まっている
103号室のおばちゃんが、そっと様子を窺っているのが超人眼でお見通し
別に、確保!って訳じゃないから、お決まりのジャンバー被りもなく
手錠もなく、かと言って、晴れがましくもなく
どうしたら犯人っぽくなく、この見るからに刑事という人物と一緒に歩いたらいいか
そこばかり気にしながら車に乗り込んだ

結局ドラマの通り、私は後部座席、隣に警察のK刑事(まだ本人は名乗ってないけど)
運転席の人物は車内ミラーで、ちらっとこっちを見ただけで、無言で運転している
時折、ノイズを交えながら警察無線が入ったりして、いかにもな雰囲気が増していく
「と、あの…、これで私は警察署に行って、なにされるんでしょうか?」
「う、いや、特になにをされるって話じゃないですから。なにかされるような気でも…」
…やだなあ、こんな風に上げ足取って来るの

「いやいやいや、別に、なにも心配してないですが、刑事ものが好きなんで…」
「そうですね、まあ、これから刑事ドラマと同じところと違うところ、見に行けると
そう思ってもらって。署までお越し頂くのも、ちょっと見て頂きたいものとか
こちらまで、持ち出せないものもあるんで」
「ああ、そうですか。持ち出せないって、大きなものっていうことですか」
「その辺りは、後で。もうじき署に着きますんで。お話はこれくらいで」
う〜ん、愛想がないなあ。もう正体ばれちゃってるのかなぁ…

警察署の前に横付け、とはいかず
普通に警察署の前にある駐車場に着いた
K市の警察署には免許の書き換えで2度来たことがある
残念ながらゴールドではないので、2度なのだ
その時には、ここの駐車場ではなく、少し離れた駐車場だった

まあ、ドラマでもお偉いさんが乗ってるときだもんな、と思っていると
こちら側に、K刑事(まだ名乗られていないが)が回り込んでドアを開け
「どうぞ、こちらへ」と手で建物の入口を示す

ドラマのごとく、ちゃんと立番(というのか)のお巡りさんがいる
K刑事と一緒に前を通ると、きちっと姿勢を正す
さすがに敬礼はしてくれない
建物の中は、少し薄暗く、廊下の木のワックスの臭いがする
なにやら大勢居る気配の大部屋の前を通り抜け、廊下を曲がるとすぐ木の扉
K刑事がコンコンと、ノックする
部屋の中から「おお」というような声がした

「失礼します。Aさんをお連れしました」
「おお、ご苦労さん。すみませんなあ、こんなに夜遅くに」
そりゃそうだろう、もう夜の10時半近くなんだから
部屋の中には、真ん中に机がひとつ、椅子が2脚
部屋の片隅にもうひとつ小ぶりな机、とパソコンと椅子
テレビドラマのままだ

「どうも、こんばんは、Aです」
「ま、こちらへ」と差し向かいの席を手で示す
中に居た人物は、明らかにK刑事の上司、といった佇まいで、小太り
少し聴力を上げると、呼吸音に若干ハアハアいう息切れ音が混じっている
心臓の鼓動もやや早目。高血圧っぽいし、タバコ臭もする。不健康な人物だ
「A県警本部のM野です。こちらは、K刑事。いや、ご足労です」
壁にお定まりの鏡がある。超人眼で覗いてみると、部屋になっているが、誰もいない

「え〜、ところで、私はなんでこちらに呼ばれたんでしょう」
「はは、どうですAさん、お心当たりでも」…これぞ作り笑い!
「いや、全然分からないんですよ。こちらの刑事さんにも伺ったんですけど…」
「そうですか。じゃ、これをご覧ください。ちょっとそれを」
「はっ」と言ってK刑事はノートパソコンをこちらの机に持って来た
もう起動されていて、画面は動画のスタンバイ状態になっている

さっき見てきたNETの動画と違い、画像は鮮明だ
おおっ、私だ、私が映っている
どうやら、K駅前の防犯カメラの画像のようだ
ぼったくりバー事件のあった日付と、時刻がしっかり映っている

「ちょっと編集してありまして、Aさん、貴男の映ってるところばかりになってます」
…そうか、こうきたか、特に反論も出来ず、観るしかないなぁ

その次は、例の飲み屋街を通る人々、そしてそこを通る私、日付・時刻
私シリーズの監視カメラの動画を見せられて
「なにか、私が沢山映ってますねぇ」と、ちょっととぼけてみた
「ふん、お宅さん、この辺でよく飲まれるの?」とM野氏
「いや、滅多に行かんですよ」
動画が一旦止まる
「ここからは、一般の方のスマホ映像も入ります」…K刑事が操作を続ける

なにやら怒声のようなものが聞こえ
例のぼったくりバーの扉が開いて、私らしき人物が出て来る
右の方に行きかけたが、周りががやついてきたのを察知したように立ち止まる
スマホは、罵声が聞こえ始めた方角にパンする

画面が2画面に切り替わり、左側の画像は通りの向こうから迫って来る人の群れ
右の画面は、今録画し始めたように、騒ぎ全体をぐるっと録っている
左側の画面は(や)らしき人影が大きくなってくるところ
右の画面は、録っている人物のそばにいるらしき女の「あっちあっち」と言う声
画面が動いて、動きを躊躇しているような私を捉えるが、一瞬で姿を失い
「じゅんちゃん、あの人消えちゃったぁ…」と女の声がかぶり
「消えた消えた」と呟く男の声が続く
posted by 熟年超人K at 17:57| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年12月24日

熟年超人A〜第1章・仲介人のA編(2)

気が付いたら、時計の文字は18:55になっている
時間がない
ジャケットを薄手のジャンバーに替え
後はさっきのままの恰好でアパートを飛び出した
103号室のおばさんも、自転車でこちらに向かっているお巡りさんも無視
さっさと早足で駅に向かう
駅のモニターカメラも、ショッピングセンターの防犯カメラも無視
下着売り場で、いつものパンツを購入して
さりげなくトイレに直行して、個室に入る(直前に見た売場の時計で19:31)
下着をそこに残し、内からカギをかけたままにして
軽くジャンプ(頭を天井にぶつけないように)して、トイレを出る

さっと周囲偵察でトイレ付近に人がいないのを確認しておいて
奥の高い処にある滑り出し窓に、浮遊して近づき、奥に押して開けると
ちょうど、痩せた私なら抜け出せるくらいに開く
そこから身を滑り出し、手にグリーンマンのスーツを取り出し
宙に飛び出しながら、スーツを瞬着する
まだ夕映えの残っている大空目がけて急上昇だ
さっと超人眼で見渡しても人影はないし、こんなところに防犯カメラもない
レーダー検出できないスーツのおかげで、飛び出してしまえばこっちのものだ

ここからT電力本店のある東京駅までJRなら約350q
前回のように線路沿いに飛べば、時速1000qなら22分くらいのはず
羽田に離発着する国内線の飛行機が7〜8000mの高度を飛んでいるから
高度5000mくらいで行こう
考えがまとまったので、スーツ越しに腕時計の気圧計をチェックしながら
東京駅目指して前回よりスピードを上げて飛び続けた
(実は、時速何百qを出すのはまだ難しくて、前任の2号氏の残留思念を参考に
新幹線の駅間の所要時間から逆算して、およその速度を出している)

とにかく、マッハ(約1200q/h)を超えるとき、ソニックブームが出るらしいので
国内で飛ぶときは、オーバーしないように気を付けているのだ
そのうち横浜らしき光の塊が見えたので減速しながら東京駅に近づく
スーツの下の腕時計は7時52分を示している
超人眼で前方のT電力本店ビルの屋上を見るとヘリポートマークの辺りに人影
少し離れてもう1人、さらに離れて屋上塔の辺りにも数人いる

ここからが大事になる
お客さまを訪問するときは身だしなみを整え
活気ある仕草、そして笑顔(は、見えないが)、親密な雰囲気で!

1qほど離れた上空でホバリング
以前見たスーパーマンの飛行姿勢を意識した格好で
マントをひるがえして、屋上に降り立ったのは19時55分
しっかり見て頂いたのは初めてなので、屋上の人物の驚き顔が印象的だ

ところで、ヘリポートマークに立っていたのは見知らぬ人物
おやっと思っていると、少し離れていた方の人物が緊張しながら近づいてくる
こっちが、先日会ったH池本部長だ
「恐れ入ります。わざわざお越し頂きまして。こちらは、私と同じF原発担当のK護地で…」
「F原発で副本部長を務めているK護地と申します」名刺を差し出しながら近づく
「あいにくそういう物は所持していないので」頭を下げないように胸を張って名刺を頂く
「いやぁ、結構でございます。下にお打ち合わせの部屋は用意してございますが…」
…わざわざ来客用の部屋に行き、お茶など出てきたりしていては、S友の閉店時刻が!

「私は多忙なので、ここで先日の提案の回答を頂こう」あくまで上から物言い
「恐れ入ります。それでは、今朝の会議の結果、ともかくお宅様のお力をお見せ頂ければ…」
「分かりました。それで、私はなにをお見せすれば良いのかな」…ヒーローらしく
「は、まずはF原発においで頂き、現地を見て頂いて、手順など現地スタッフも交え…」
「わかりました。そこで、私の力もご覧頂くということで、よろしいですね」
「はい、そうして頂ければ。ほかの役員なども同席できれば、なおさらかと」
「で、いつにしましょう」…早い方が良いな
「それは、グリーンマスクさまのご都合もおありでしょうが、早いうちが良いかと」

F原発までの距離は、私の住んでいるK市から5〜600qくらいある
1時間弱の距離ならいつでもOKだ
ただし、今度は日中の訪問になるだろう
まあ、前夜にF県の山中まで行って待機して、その時刻に合わせれば良い話だ

「明日でも、私は大丈夫だが」
「あっ、まあ、それはさすがに。明後日ではいかがでしょう」
「そちらさえ良ければ」
「K護地さん、それで各役員さんたちもいけるな」
「はい、連絡はつくと思います。社長もおそらく…」
「わかりました。それではグリーンマスクさま、そういうことで」
「時間は?」
「そうですねぇ。午前の11時というのは…」
「いいでしょう、明後日午前11時に、F原発に伺います」
そこまで言って、相手の別れ際の挨拶など無視して、一気に空に飛び上がり
西の空を目指して加速する

手の中のK池副本部長の名刺が邪魔だが、しょうがない
このスーツにポケットはついてないんだから

それから、せっせと夜空を飛んで、S友の上空に着いたのはまだ8時半
ここからは慎重にと、周囲偵察を念入りに行った後
さらに超人眼で3階と屋上を透視して
屋上も駐車場になっているので、停まっている車の中も全てチェック
人影のないのを確認をした上で屋上に舞い降りる。手慣れたもんだ

いつ次の車が来るか分からないので、スーツをさっとしまい普通の服に戻る
それからホバリングしつつ3階のトイレの窓まで下りて行く
幸い滑り出し窓が外に向かって開いているので簡単に見つけられた
それでホッとして、注意力がちょっと散漫になった
窓から入ろうとして、そこで個室の扉の前に人が立っているのに気が付いた

幸い、こちらには気が付いていない
モップとバケツを持っているところをみると清掃のおばさんだろう
「お客さん、大丈夫ですか?」と個室に声をかけている
どうやら、個室に入ったままの私のことを心配しているらしい

少し聴力を上げると、個室の中で携帯の呼び出し音が鳴っている
「ちょっと待っててね、誰か呼んでくるからね」
そういうと、慌ててトイレの外に出て行く
こちらは、今がチャンスとばかりに窓から身を滑り込ませ
そっと個室の中に着地
落ち着く間もなく、ばたばたいう音が近付いてくる

「こちらです。ここです」
「大丈夫ですか?お客さま」社員風の若い男が、薄い個室の壁越しに見える
「あ、は、はい。なんともありませんよ」
返事をして個室の扉を開け、できるだけ自然に微笑んで二人の前に出る
「いやぁ、ちょっと便秘気味なもんで…」

男性社員の方は、さっと個室内を見渡して、万引きやヨカラヌことの形跡をチェックし
なにもないことを確認し、緊張を解いた
「ほら、なんていうことなかったじゃないですか」
「すみません…でも、随分長いことご返事がなかったもんで…」不服そうな顔
「ま、ちょっと、返事できない状態でもあったんで…」
二人が軽くいさかいしている脇を、そそくさと出て、店内に紛れ込む
履き替えたパンツを、わざと丸めて手に握りしめ、ちょっと言えない状態を印象付けて

さっさとS友を出て、駅の連絡通路を渡りながら
ちょっと気が重くなっている自分に気づく
なにかひとつやろうとすると、必ず付帯的なトラブルが発生してその対処に煩わされる
これから先、自分がやろうとしていることは、もっとスケールが大きいのだ
応対する相手の数も増え、頭が切れ、多面的に私を分析し、値踏んでくるだろう
もっと簡単に思うが儘に、自分視点の正義感で、気に入らない相手をやっつけられれば
それなりに楽しいこともありそうだが、ま、平和な日本だから、そうは、ね

アパートが近付いてきたので、コンビニに立ち寄って
雑誌を手に取りながら周辺偵察をしてみる
交番のお巡りさんは居なくなっているが、例の(多分)刑事さんがいる
また飲みもしない缶ビールとつまみのコロッケを買って、堂々とアパートに戻ってやろう

ところが、今度はそのまま通してはくれなかった
「すみません、Aさんですか」
「は、はあ。Aですが、なんでしょう?」
「恐れ入りますが、少しお伺いしたいことがあるんで、署の方にご同行頂けませんか?」
おお、いよいよ警察ものだよ(彼、Kさんだっけ。ちゃんと警察手帳も出してるよ)
ご同行をお断りすれば、お次は逮捕になるのか
しかし、今言ってるのは任意だろうから、いやだって言うのもありだよね

「すみません、ビールとつまみ買っちゃったんで、後にして頂けます?」
「なにっ!…そうですか、じゃあ、しばらくしたらお部屋に伺いますんで、いいですね」
いいも悪いもない、って高飛車な調子の声音だ。こいつ、いらついてるな
それじゃあ、と言ってさっさと2階の自室に戻る
戻っておいて、超人眼と超人聴力をレベルアップして外の彼をチェックする

「はっ、戻って来ました。特に怪しいものは…。はっ、コンビニで買い物をしたようです」
早速、携帯で本部(?)の上司らしい人物と話をしている
う〜ん、どうしようか
窓から飛んで行っちまう、ってのがおもしろいけど
そんなことしたら、収拾つかなくなっちまうだろうしなぁ
仕方ない、1回行ってみるか

posted by 熟年超人K at 18:38| Comment(0) | 再編集版・序章

2022年12月22日

熟年超人A〜第1章・仲介人のA編(1)

そう、私は午後いちに名刺を頂いたT電力のH池本部長に連絡を入れることになっていた
午後いち、すなわち午後1時(12時ではない)に、電話しないといかん
で、どの電話を使うかだが、どっちみち公衆電話だって誰がかけたか残るだろう
それと、ここが大事だが、″誰”として電話するか、だ

代理人として、普段の自分を設定するのなら、これがチャンスだ
恐らく、グリーンマンのままでは、今後の種々の交渉が難しいだろう
それに先日のごたごたを辿られれば、この部屋に誰かが来るのは時間の問題だ

その際の私という存在は、家族という係累がある人物だ
警察も、(や)も、実力行使が最大の交渉手段と心得ている節があるから
超人であるグリーンマンの弱点がそこだと分かれば、なにをしてくるか分からない
そこで、私が仲介人だという位置づけなら、せいぜい私を人質に捕って
グリーンマンと交渉、という手順を踏むだろう
その連中が本当に家族にとって脅威なら、一気に片付けてしまう手も…
う〜ん、なにやらハードボイルドな性格になってきたみたいだぞ

】結局、私Aとして連絡を取ることにした
むろん、執行役員会で協議した上で
私の(いや、グリーンマンの)能力テストを考えていることは
知る由もなかったわけだが、なんらかのお試しが必要なのは先刻承知
名刺の電話番号を見ながら、駅前に唯一(かな?)残っている公衆電話から
H本部長に連絡を取るのは、きっかり午後1時とした

特にお腹は空いていなかったが、いつものようにカップヌードルで早めの昼食
できるだけ日常感を出して、チノパンにチェックのスポーツシャツを着て
紺のジャケットを羽織れば、お仕事のお出かけスタイル完了
出る前に、一応周囲偵察をしてみたが、まだ誰も張り込んでないみたい
もちろん、いないに越したことはないけど、ちょっと拍子抜けかな

ウォーキングシューズで軽やかに駅前の公衆電話ボックス前に到着
昔みたいに、誰かが使用中でイライラなんてことなく
昔、広告代理店時代に作ったテレカ(ちゃんと使えます)を入れて
H池本部長の携帯に(テレカの使用がどんどん進むこと!)

「…、H池です」
「H池本部長さんでしょうか、私、Gの、いや、グリーンマンさんの
代理人、というか連絡役のAと申します」
「はい?グリーンマンさんご本人ではないので?」
「ええ、彼は多忙なので私が連絡係をしております」
「そうですか。今回の件は、少々微妙な案件ですので、当方としては
ご本人さまでないと、お話しできないのですが…」

「ええ、了解しております。私は、ただ先日のお話が進展しているのか
それだけを伺うようになっておりますので…」
「では、ご本人にご伝言ください。明日か、遅くとも明後日にF県の“現地”に
お越し頂きたい、と」
「了解しました。それから、今後の連絡につきましては、御社のホームページ内の
『伝えたい』の項にアップする文章の文頭に、“緑”または“グリーン”という文字を使い
関連画像を付けて掲載して下されば、Gが毎日チェックして連絡を取るとのことです」
「わかりました。で、今回のお願いのご回答は?」
「そうですね。今夜8時に、御社の屋上にG本人が伺うことになると思います」
「わかりました、私が屋上でお待ちします。よろしくお伝えください」

う〜ん、ビジネスライクでいい会話だ
と、自己満足したところで
この際だから、パチンコ屋の屋上の代わりになる発進場所も探しておこう

私が住んでいるアパートは、大雑把に言って駅の西側にあるので
今回も、あまり行くことのない駅の東側に行ってみよう
便利な周辺偵察の能力も、建物や自動車などの無機物と
人や犬などの動く生体を漠然と感じるだけで、Gマップのように見える訳じゃない
(ただ、スマホや携帯を持っている人物は、クリアに存在を感じる)

企画営業マン時代から、データより直接訪問で得る印象を重視してきた私だ
やはり、行ってみなけりゃ分からんだろ、ということかな
超人になってから、外出時は力をセーブすることばかり意識していたが
こうして、まったくの一般人として散策するのも悪くない

駅の東西連絡通路を渡ると、目的の候補地がすぐ見えた
S友ショッピングセンターだ
あそこなら、夜10時まで営業しているし
トイレにでも飛び込んで、窓から飛び出してしまえばOKだろう

ちょっと考えが甘い気もしたが、まあ今回はこれでいこうと
3階のエレベーター横のトイレと、非常階段、そして都合の良さそうな窓をチェック
久しぶりに、原発関連の本などを探しながら書店で時間を使い
ついでに、インスタントコーヒーやカップヌードルなども買い込んで
アパートに戻ったのは夕方の5時前
買ってきたものを片付けて、テレビの前に座って
スイッチを入れようとした時、ふと気になって周辺偵察を試みた

すると、アパートの前の電柱に隠れるようにして、男が立っているではないか
いかにも刑事もの、いかにもな張込みスタイルだ
カーテンなど動かさず、超人眼で見透かすと30代前半の男だ
背広姿ではあるが、生真面目な様子から(や)の方ではなく
警察関係者と思われる
それが、ちらちら私の部屋の窓に視線を送り続けている
さすがにテレパシーは出来ないが、聴力も鋭くなっているので
この際、テストも兼ねてなにかヒントになる言葉でも聴こえないかと
聴くことに神経を集中してみる

街の騒音の凄さに一瞬たじろいだが
聴きたい音源を絞り込むように意識すると
雑音は大分気にならなくなり
彼の発する呼吸音や心音、生唾を呑み込む音などが聞こえだす

突然、ぶーんという振動音
彼の携帯が鳴ったようだ
慌てながら、それでも声を潜めて応答する声
「Kです、マル被はもう戻っております」
「… … …」さすがに、相手の言っていることまでは聞こえない
「はっ、了解しました。この後、K駅前PBにマル被の監視を依頼します」
短い会話が終わり、彼が立ち去る靴音が遠ざかっていく

さあ、どうしよう
PBと言えば交番のことだ
今朝来たお巡りさんの顔が思い浮かぶ
なにか勘ぐる目つきだったもんな
それにしても、話の調子だとタクシー事故の方じゃなく
別の…、多分、飲み屋で(や)さんと一戦交えた件だろな
なんとなく、直観でそう思ってしまう
彼、マル被とか言ってたようだが、マル被って確か被疑者のことだよな
(割と好きな刑事ものドラマの知識が甦る)

こうなると、ここの大家さん経由で私の本籍が割れ
家族のことも分かってしまうんだろうな
まずい、まずい、まずい…
まずい、という言葉が呪文のように頭の中を巡る

いつまでもまずいまずい、と言っていたって始まらない
一見行き詰ったように思える時こそ、打開のチャンス
と、コンサルティングの教科書にもあるじゃないか
こんなときには、現在の問題点を書き出すに限る

まず1番目の問題
この件(飲み屋の闘い)で、被疑者にされていたとすると
恐らく、器物破損と傷害、それに1万2千円に対しての支払い不足分の踏み倒し
と、いったところだろう
(や)さんでも、警察に被害届を出せば受理されて、捜査に入ったんだろう
(その世界の抗争があることまでは頭になかった)
そんな事件の被疑者としての捜査だったら、家族に対しては
せいぜい私の行き先(姿をくらましたら)を訊ねるくらいだろう
問題は、それが息子夫婦や、あちらの親御さんに与える影響だろう

2番目の問題として
これからのT電力さんとの交渉や、その先の活動に支障が出そうなこと
すでに交渉の代理人として自分を前に出してしまっている
その代理人が警察の捜査対象では具合が悪いだろう

3番目として、これが最悪だが
警察の捜査状況が(や)に漏れて(刑事ドラマでは定番)
家族が危険な目に遭うこと
この場合になったら、(や)に超人力を行使せざるを得ないが
法治国家との闘いにエスカレートするのは必定
仮に私が不死身としても、家族親類縁者を守り切れるか
或いは、守られようとしないかも知れない
ひょんなことから授かった私の超人力が、そんなことに使われると
あのジュブブが知ったら、地球人としてどう評価されるか
考えれば考えるほど、碌でもない展開が予測されるではないか

メモった紙切れを眺めているうち、結論が閃いた
そうだ、ヒーローになってしまえば良いのだ
所詮(や)組織など、国家権力と正面衝突はできっこない
国家や大衆にとって有用な存在、手放しでヒーロー視できる存在になることだ

ならば、例の原発処理で力を発揮することが
近道(と思っていたが…)だと結論づけた
では、しばらくはT電さんに集中して
こちらの方は適当に対応しよう
最悪、グリーンマンとしての正体がばれても
ヒーローなら、なんとかなるだろう
後、もうひとつのスパイ○ーマン風のキャラも使えるかも知れないし

根がポジティブな私だからこその、強行突破の秘策(?)
そこからは、今夜の交渉の際の演出方法に頭を切り替えた私だった
posted by 熟年超人K at 21:34| Comment(0) | 再編集版・序章