2022年11月21日

熟年超人A〜序章・初心者編(2)

それでも一度、能力テストで山間部に行ったとき
ガードレールに突っ込んでいる事故直後の軽トラを見つけて
シートベルトが外れずに、車内でぐったりしていた高齢の男性を助けることができた

このところの癖で、辺りに誰もいないことを確認してから
力任せにドアを引き開け、シートベルトを引きちぎって
ぐったりしていた男性を車外に引き出し、崖下に落ちかけていた軽トラを道路に戻した

これでやれやれと、帰りかけてから
怪我人をこのまま放ってはおけないな、と思い当たり
初めてのことで自信が無かったが、男性を小脇に抱えて
夕やみ迫る山道から、田畑と農家がある辺りまで、ちょっと飛んで、道端に置いて来た

それが余分だった…
翌朝のテレビで、その不思議がスポットライトを浴びていた

そりゃあそうだろう
事故った軽トラがガードレールに跡を残していながら、道路に戻っていて
ドアは壊れているは、シートベルトは引きちぎられているは
運転していたご本人は、10qほど離れた農道に倒れてたなんて
こりゃ、誰が考えてもおかしい

今落ち着いて考えれば、馬鹿なことしている
その場で、もっと冷静に考えて行動しないと…
内緒で超人やるのは難しいぞぉ、こりゃ反省しなくちゃ

翌朝起きると、会社に行かなくてもよい生活に入ったのに
やはり何かに追われている感が消えていない
超人になったせいで、眠くなるとか、体が疲れている、なんてことは無いのだが
どうも夜は寝床で横になりたくなるし、朝は歯を磨いてから、朝食を摂りたいのだ

テレビは、人の心を引っ張ろうとするニュースを流すので
最近は観ないようにして、もっぱら新聞を読んでいる
いくらなんでも、そろそろ超人らしいことをしないと
前任者や、彼の遺留思念にあった銀河連邦(?)の監査もありそうだし…

―ということで、今日は仕事をしに出かけることにした
まずは、私の住まいが分からないように、朝早い電車を乗り継いで、山間部に向かう
とある里山の中にずんずん踏み入り、頂上の手前あたりで
周囲に人がいないことを確認した上で、空に飛び立った

米軍や自衛隊のレーダーに引っかからないように
低空を飛びたいが、不慣れなことで何にぶつかるか分からないし
もちろん、誰かに見つかる可能性が大きいから
一気に、準最大速力を意識して、高空に向けて飛び上がった

高度は、気圧計の付いた腕時計が9000mで止まってからも、更に上ったので
多分2万m前後だろう、空気の無いのや超低温(―56℃程)は平気だが
着ている濃紺のトレーナーは、ガチガチに凍っているし
髪もバリバリだ(ニット帽を被ってくれば良かった…)

西北西に1時間ほど飛んで、方向確認のためゴビ砂漠で着地
コンパスの氷が溶けるのを待って、そこから2000m程の高度で、西南西を目指した
かなり思い切りだから、マッハ3くらいのイメージで、2時間半弱飛んで、やっと彼の国に到着
日本を出て約3時間半、日本時間では午後1時頃だが地球の自転があるので
現地時間は午前11時くらい。昼飯前だ

山岳地帯に降りたので、歩いて人が住んでいる処を目指す
超人眼で、着地前に見定めていた方角に時速100q程で走っていくと
2qほど前方にバリケードと数台の車が見える
どうやら、三つ巴勢力のいずれかの検問中のようだが
どっち派なのかは、もちろん分からない

そもそも今回は、ならし正義活動という設定なので
とりあえず、一般人を虐げている現場に介入する積りだったので
最初から、何派を叩こうとは思っていなかったのだ
そこで、速度を落として普通人のように歩いてバリケードに向かった

早速、ひげ面の汚いのが十数人
わらわらっと出て来て私を取り囲む
超人能力(表情の細かい変化や、心音、呼吸音、体温の変化などで把握)
で、ある程度相手の言っている意味は分かるが

残念ながら、言語能力は超人でないので、応答できない
そこで、ジェスチャーで『私は怪しい者でない』と伝えたが
そもそも、この荒れ果てた地で、濃紺のスエットスーツに運動靴の
熟年の東洋人がいることが怪しすぎるだろ、となるのは当然

自動小銃を何丁も突きつけられて、そこに腹ばいになれ
と言われているのではないかと推測したが
めんどうなので(というより、暴れてみるきっかけ作りに)
無視して、すたすた歩きだしてみる

私より大きい男たちが数人、掴みかかってきたが
掴まれたまま、速度を落とさず歩いた
彼らの表情がさっと変わって、銃で殴りかかってくる者
反りのある刀で切りつけてくる者、少し離れて銃を構える者…
殺気が一気に漲った

私と言えば、スエットスーツの無事を保って、ここを通過出来るか
そこが心配だった
それからの展開は、服をなるべく汚したくない私と
多少の戸惑いはあれど、人を殺すことに躊躇しない兵士達との
なにかリズム感の悪い、大立ち回りになった

基本的には、私を傷つける程度で、戦意を奪って尋問したい兵士と
服の損傷を気にしつつ、彼らをぶっ壊さないよう手加減しながら
素手で対応している(格闘経験のまるでない)私との闘いになっている
それで分かったのが、戦闘モードに入るとアドレナリンの具合か
俄然、相手の動きがスローに見えることだった

いや、砂煙も、折れて吹っ飛ぶ銃身も、びっくり顔になる兵士の表情も
全てがスローモーション映画のようなのだ
なにしろ、生まれてこの方、闘ったことなど全くない私でも
自分だけが、その中をすいすい動けて、面白くなるくらいなのだ

ただ、残念なことに格闘術を知らない私の動きも効率が悪く
こっちの兵士が吹っ跳んでくれているのに
次の相手を処理する順序がよく分からず、その都度、考えてから動くので
つい強く当ってしまって、相手が10mもぶっ飛んでしまう、ということになる

その展開に驚いたのは、遠巻きで銃を構えていた奴らで、慌てて闇雲に発砲してきたので
流れ弾に当たった兵士の血が飛び散るは、私の服も何ヶ所か焦げ穴が開くはで、収拾がつかない

ただ、服に穴は開いても、私自身は痛くも痒くもないので
ついそのままの勢いで、手近な相手を掴まえては、ぽんぽん投げ飛ばしたり
ついでに、SUVもひっくり返したりしていると、いつの間にか銃撃は止み
まだ立っている兵士は銃を捨て、唖然とした表情で棒立ちになり
さらに言えば、大部分の兵士は地べたに転がっている状態になっていた

問題は、この後だ
全員気絶くらいさせるか(と言っても、死なせずに上手く気絶させる自信がない)
武器はまとめてへし折って、車両も全部ひっくり返すくらいで、それ以上やる気も起きない
だがこのままでは、結局こいつらはまた、仲間から同じような武器を与えられ
同じようなことを繰り返すんだろうな、と思うと憮然となる

なんとか、一人も殺さないように気を付けてやっつけたのに、なんだか馬鹿らしくなってしまった
と、そのとき、いいアイデアが浮かんだ
次来たときは、この国の言葉をワンセンテンスだけ覚えておいて
「私は魔人だ。また同じことをやっていたら今度は地獄に落としてやるからな」と言って脅そう
信心深い連中のようだから、何回か繰り返していたら、効き目があるかも知れない

民族とか、宗教が絡んでいるんだろうから、根本的な問題解決は無理だが
こんな風土の国だったら、そんなとこが正解かも
で、今回は車両もテントも銃器もぐしゃぐしゃに破壊して
(助けを呼べるように、通信機らしいものは壊さないでおいた)
重傷を負った連中のめんどうをみられるよう、無傷の兵士を何人か残しておいて一段落

今日は町に行くのは止めて、ひとまずここまでとしておこう
はっきり言って、10分くらいでも戦闘は疲れるのだ
体力的にはへっちゃらだが、精神的にね

それから、最初のこの地に着いた場所に戻り、そこから3時間半ほど東に飛んで
目測しながら日本を目指し、出発場所の里山に降りた(速度の落とし方はマスターできた)
ただ、返り血と穴だらけになったスウェットでは、電車に乗れないので
少し山中で時間をつぶして、暗くなってから走ってアパートに帰った

寝る前に、ネットで彼の国の言葉を教えてくれそうな教室を探し
次に着て行く服のことを考え(ちょっと答えが出なかった)
明朝の新聞とネットニュースの心配をしつつ、いつの間にか眠っていた

眠りに就いて、しばらくしてからレム睡眠に入ると、通信回線が開いた
…と言うより、私は分かっていなくて、夢を見ていると思っていたのだが…

posted by 熟年超人K at 14:09| Comment(0) | 再編集版・序章
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