2022年11月24日

熟年超人A〜序章・初心者編(3)

『テラ3号、君の通信回線は開かれた
初動活動が規定数値をクリアしたことが記録され、官のフォロー下に入った』
*えっ、なんのこと。夢の中で私は無意識に質問を発した

『官は、第13星系区管理官のジュブブワールノ2209である
君の当該惑星における活動をフォローする者である』
*あっそうか、前任者の引き継ぎ思念にあった銀河連邦とかの…

『銀河連邦、ではないが、そのようなものなので、それでよいだろう
君の昨日の活動が、超人勤務の第1回目になる』
*なるほど、確かに昨日はそれらしいこと、したもんな

『そうだ、君はまずスタートを切ったのだ。そこで、これから君が必要とする装備を送る』
*装備?、装備って…

『今回用意されるのは、君たちの言葉で言う“服“だ
君のやったような活動をするなら、このような“行動スーツ“が必要になるだろう』

夢の中にふわっと、我々がイメージする超人風のコスチュームが2点現れた
一着はスー○ーマンみたいなマント付きの全身タイツ風で、顔もマスクが覆っている
もう一着は、スパイ○ーマンのようなボディスーツタイプで黒っぽく見え
こちらは首から足先まで、全部繋がっていて、どうやったら着られるのか分からない
*なんだか、マントの方は派手ですねぇ

『だが、君の思っているような、他人の命を損なうタイプの悪人たちの印象には
くっきり残るし、君たちの世界の情報網へのインパクトがある』
*そうか、でも私的には、地味な黒い方が合ってるような…

『どちらも着用すると、君の体形を超人的に盛り立ててくれるし
この惑星のほとんどの武器や、自然災害程度では破損しないものだ
官の判断では、君の認識した黒い方はミステリアス感が強く
目立たない割に、この惑星の人々の心になんらかの印象を残すだろう』
*どうでしょう、とりあえず両方置いていってもらって試す、というのは…

『了解した、そうしよう』
ということで目が覚めると、夢なんかじゃなく、確かにベッドのわきに2着、置かれていた
手に取ってみると軽い、非常に軽い、くしゃっと丸めれば、楽々ポケットに入りそうだ
それを広げようと触っただけで、服の方からさっと元の形に戻ってくれる
すごいな、と思いながら、スー○ーマン風の衣装を着ようと手にすると

上下一体型なので、どこから着ればいいんだ?と触っているうちに
首のあたりに手が触れた瞬間、ぴたっと、体に装着されている
それまで身に着けていたランニングとトランクスも、着たままなのになんの違和感もない
洗面台の鏡でみると、身長も180pくらいの高さになり、さらに全身が膨らんで
胸板も厚く、顔をつるっとした印象のマスクで覆われた、いかにもな超人姿が映っている

黒い方も同じ場所に触れるだけで着れ、首元から、マスクが出て一瞬遅れで顔を覆う
こちらの方は、顔面の凹凸がなんとなく分かる、忍者の覆面のようだ
2着を交互に着て、鏡に向かってポーズを決めていると
私の心にふつふつと超人任務に対する意欲が湧いてきた

着用状態を解除するのは、衣装を脱ごうとして喉元のポッチに触れば
触った方の手の中に丸まって収まる、という簡単仕様だった
こうしてとんとん物事が進むので、かなりハイな気分になり、でトーストを焼き
インスタントコーヒーを飲みながら新聞を開く…特に目立つ記事もなし

一段落したので、PCを開いてネット内を見て行くと
《M山から飛行物体発射か?》と気になる見出しがあった
やっぱり、見つかっていたのか…
生来小心者の私なので、短い記事だったが、早速心配になる
きっと、この記事の裏では米軍や自衛隊が大騒ぎしているに違いない

急に外が気になって、窓辺に寄りカーテンを細目に開け
路上に停まっている不審な車とか、電柱の陰に怪しい男が佇んでいないか
ざっと、チェックしてみた
そうして、なんにもないことを確認してダイニングテーブルに戻る

もしや、24のように遥か高空からスパイ衛星がこのアパートを見ているのでは!
と思ったその時、引き継ぎ思念の中に「周囲偵察」という項目があったことが浮かんだ
そのことに精神を集中すると、なんということだろう
最近、物忘れがひどくなってきた私ではあったが
脳裏に、すらすらソノコトが浮かぶではないか!

まず、超人眼には物を透過して見る機能があり、屋内から屋外の状況が確認できること
更に「感覚視野」を広げれば、地上なら半径10qくらいの電子的反応は認識でき
上空に至っては、遮蔽物が無いので高度600qくらいまで感知できるらしい
大方のスパイ衛星は、高度150〜600q程度を周回していると、スパイ小説にあったので
こっちを観ているとすれば分かるはずだ

で、精神を上空に持っていったが、別にそれらしき飛行物体は感じられない
その最中に、一度大型の航空機がずっと低い処を通ったが、旅客機とすぐ分かった
そうして、改めて探っても、アパート周辺に怪しい動きはなかった
初めてグー〇ルマップを試したときのように面白くて、しばらく周辺の観察をしてみたが
なんだかノゾキ魔になったような気がして、やめた

改めて2着の超人服を眺めてみると
それぞれの機能、特徴が脳裏に浮かぶ
スー○ーマン風のは、マントにも防御能力があって
超人でも生身にはちょっとキツイ核攻撃≠ノも、耐えられるらしい
つまり、ただのカッコ付けのマントではなかったのだ

もうひとつのスパイ○ーマン風の服も、基本機能は似ているが、ステルス機能が半端なく
赤外線センサーにも対応しているらしい
そして、どちらも軽量&コンパクト収納がウリで、SDメモリのケース程度に収まるので
日常的に、いつでもどこにでも携帯できるのが、本当に便利この上ない

素早い装着性も併せ、これなら一瞬で早変わりできるから、正義の味方にもってこいだ
スー○ーマン風のを国外用、スパイ○ーマン風のは国内でという具合に使い分けしようか…
また、当面の問題だったレーダー波は、どちらも吸収するので、昨日のようなことは心配ない
なんと、至れり尽くせりの銀河連邦さまだ
《ジュブブさん(だっけ)ありがとう》…と、まだまだ超人任務の大変さがわかっていない私だった

それでは早速、出動しようか
と、カプセルに入れた2つの衣装をジャケットのポケットに収め
出かけようとしたとき、携帯が鳴った
妻からだ!

〈もうすぐ孫が生まれるんだから、早くこっちにいらっしゃい〉
と、言うその声は、いつもより、やや甲高さを増している
ちょっとまだ片付かないことがあるんで、もう少し、こっちにいないといけないんだ
と答えると、〈そう、それならなるべく早くこっちに来てね〉

とか言いながら、電話を切る寸前
〈お給料は、まだしばらくもらえるのよね…〉と、耳に痛い念押しをされた
その時は、ああ、と答えておいたが
そうだ、超人活動をしている間の稼ぎはどうするんだろう
前任者の引き継ぎ思念には、それらしいことは入っていない

そう言えば、最初に逢ったとき
「衣装の素材は届けておいた」とか言っていたが
ジュブブが送ってくれた2種のスーツがそれなんだろうか
なんだかわかったつもりになっていたが
やっぱりちゃんと引継書や取説は読んでおかないといかん
で、もう一度、2代目の引き継ぎ思念を探ってみると

目立たない、というか、ぼやっとした残留思念が片隅にあった
う…ん、これは…、と探ってみると
ぶわっと、前任者の個人的な『想』が、脳裏に広がった
“困った”とか、“いやになる”とかなぜ俺が”…とかの想念の断片だ

もう一度ダイニングの椅子に腰かけて、じっくり閲覧してみた
なんと、そこには彼が初代の超人に会って、超人職を引き継いだ日の記憶や
初期の活動でぶつかった問題とその対応策とさらに、その結果生じた問題、さらに…
といった具合の、真面目な前任者の、苦難の記憶が、ずるずる出て来るのだ

どうやら、50歳になったばかりの2代目が、出会った初代は欧米人だったようだ
赤と青のコスチュームのその人は、明るく振る舞っていても、苦悩が透けて見えたという
言葉でなく思念で伝えられた彼の話は、主に戦場を駆け巡った超人活動で得たものは
常に、救えた人命の陰に、救えなかった人命があったことの繰り返しだったこと

絶えず、様々な主義主張の人々から
彼の超人能力を自分たちのために活かして欲しいという懇願
中でも、若い女性を使者にして、彼を引き込もうとしたのが分かった時
どうしようもない絶望感に襲われ、北極の地に引きこもったこと

そして、彼が北極での隠遁生活中に読んだ書物の中に
勤勉を愛し、単一民族で、調和を好む日本人こそ
次の超人になるべきだと思ったことなどがはっきり伝わって来て
そこに感銘して2代目を引き受けた日の記憶があった

その他の『想』にも肝心の収入面は特に語られていなかったが
どうやら、能力を隠して一般人として職を得ていたようだ
しかし、高度成長期だった時代はいざ知らず
今のご時世では、超人活動も行いながらの仕事なんて難しそう

家族だって多分、理解してくれないだろう
そこで、前職のコンサルテイング的考察を試みた
まず、超人の能力は多分にガテン系である
単純に、人の100倍は労働力がありそうだが

仕事の請負には、発注元の理解が得られそうもないし
もし発注があっても、超人が働いてたらメディアが来そうだ
それに、家族がどう世間から思われるかも心配だし
政府や外国の勧誘も大いに危惧される

どこかの国の軍隊に所属させられたり
なにか、こっそりやってきてくれ
なんてことになっても、家族を人質にされたら
断り切れないだろうしな

逆に前任者のように、こっそり隠れての“善行”程度では
銀河連邦の管理官にどう判定されることやら
悩みまくった前任者の轍を踏むのもいやだし
かといって、有料の超人活動ってのもなんだしねえ…

ああでもない、こうでもないのうちに日が暮れてしまったので
打開策のヒントを求めて、夜の町に出かけることにした
まずは、地味な方のコスチュームをポケットに入れ、アパートのドアを開けた

私の部屋は2階の隅にあるので
外に出るまでに何室かの前を通ることになる
案の定、1階に降りたところで
103号室の独り身らしいおばさん(私と同年齢か?)に出くわした

日頃、顔を合わせた時は挨拶くらいしているので
「こんばんは」と小声で言って通り過ぎようとすると
今夜に限って「まあ、お出かけ?」と返ってきた
「ええ、ちょっと…」とあいまいに返事をして行こうとすると

「いいわねえ、一杯飲みに行くの?」
なんだ、妙に親しげに話してくるぞ
「あ、いやちょっと買い物で…」
別に答える必要もないが、そこはご近所づきあいだ

まだなにか話しかけたそうなのを無視して
頭を軽く下げて、なんとか逃げおおせた
少し気負っているせいか、歩きの速度が抑えられない
普通の人から見ると走ってるみたいだろうな

その後、誰にも出会わず駅前の明るくなっている飲み屋街に着いた
落ち着いて考えをまとめたいなら喫茶店だが、この時刻では開いていない
なるべく賑やかでなさそうな店に入ると、そこはスタンドバー
無愛想なマスターが、黙ってグラスと灰皿を出してくれる

「タバコ吸わないんで、灰皿は下げて」と言うと、「…お飲み物は」渋い声!
店内を見回して、メニューらしいものを探すが見当たらない
「メニューは?」と訊くと、二つ折りの簡単なやつをよこす
超人になる前なら、こんな怪しげな店に近寄らなかったが
なんだか今夜は、どうなるか試してみたい気がする

今夜は、目新しいことや、危なげな感覚にわくわく感がすごい
後になってみると、それがいけなかったんだと思うが
メニューを開いて、つまみと生中をオーダーした
昔の感覚で注文してしまった生中は
超人体質が無害にしてくれてしまうので、ちっとも酔わない

だが、味覚は変わらず、つまみの不味さは分かる
こりゃ、損しちまったなあと思う気持ちが
顔に出ているのか、マスターの無愛想さが増す
もういいか、と思って「お勘定」と、マスターに声を掛けると
無言で、メモ用紙にボールペンで書いてよこした

なんと『12,000円!』とある
「ええ、なにこれ!」と思わず声に出た
「いちまんにせんえん、だよ」声にドス効果がオンされる
「え〜、頼んだのつまみと生中だけじゃあないか」こっちも声が尖る
そのタイミングで店の奥のドアが開き、金髪のにーちゃんが二人、のそっと入って来た

おっ、来た来た♪、と思った途端
「お客さん、なんか言いたいことあるんすか」
「なんか、あるんすか?」
なかなかにドスの効いた声のハーモニー
二人組の一方が若い衆で、片方が兄貴分という取り合わせだ

こりゃ、あまりに典型的な展開なので
この後、事務所に来てもらいましょうか、とか言うんじゃ、って思ってると
「最近、クレーマーのお客さんいるんで、俺らが話し聞いてるんすよ」
「そうそう、お客さん、クレーマー?」語尾が上がる、目は座ってる

「いやあ、なんか高過ぎるなあ、と思ってマスターに訊いてただけなんだけど…」
喋りかけの最中に、若い方がカウンターをドンと叩いた
「あ、なにクレームつけてんの?飲んだんだろ、ここでっ」
年上の方が、ぐっと顔を近づけて来て「飲んだんでしょ、お客さん」と凄む

超人前だったら、絶対びびったんだけど
この後の展開をどう持っていったらベターなのか
そこに思考が行って、二人組との対応を疎かにしてしまう私
「おいおい、おっさん、ちゃんと聞いてるのかよっ!」
「早く払うもの払って、帰んなよ。その方がいいと思うぜぇ」

声は大きめだが、吠えるほどではなく、表面上は脅し文句も入っていない
その辺りは、気を付けてるんだろうな、と思いながら
こっちから手を出すわけにもいかんから、なにかやらかしてくれないかな

彼の国で遭遇した連中は、それでも訓練されていたから
すぐ次のステップに入れたし、まだ超人力に慣れていない私の
あまりコントロールできていない暴力にも耐えられ
死んでしまった者は無かったはずだが

この連中でも、大丈夫だろうか
死なせてしまったら、今後の活動に支障がありそうだし…
マスターをちらっと見ると、カウンターの隅の方に移動している
二人組の、若い方はもう、いらいらした険悪な顔つきになっている
年上の方も、かなりいらついている
posted by 熟年超人K at 14:54| Comment(0) | 再編集版・序章
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