2022年12月06日

熟年超人A〜序章・初心者編(8)

うすぼんやりした小柄な影がゆれるように動いていて
いかにも(や)らしき男たちが、弾けたり横に滑ったりしている
動きは早く、立ってその場を見ている男が次々と
小柄な影に立ち向かい、跳ね飛ばされるのが見えているが
あまりに非現実的な動きで
最近のユーチューバーの加工映像を観ているようだ

『なんか、あんまりよくわからないなぁ、この映像…』
局の報道室にいるキャスターのつぶやきが映像にかぶさり
画面は報道室に戻る
『それじゃあ、Dさん、また変化があったら、番組中でも連絡ください
それでは、次のニュース…』

あきらかに、私の立ち回りがニュースになっている
この面映ゆさは、なんだ
これから先は、マスクはかぶっているにせよ
有名人になるんだ
なにか、とんでもない世界が待ってるような

さてと…、これからどうしようか
なんだか、めんどくさいことになったもんだ
というのが、そのときの本心
しかし、いまさらやめられない
というか、とりあえず金になりそうなT電力本社訪問が優先だが

こっちの話を放っておいて大丈夫だろうか?
こっちの話というのは、もちろんスパイ○ーマン風の方だ
スー○ーマン風と、スパイ○ーマン風を、ほぼ同時期に出現させてしまって
後で、なにかやりにくくなることはないのだろうか
1人で両方やっていると、バレた場合のディメリットは…

コスチュームを2つ作った目的を勘ぐられることだろうな
例えば、どこで調達したのか
誰かにもらったのなら、バックはどういった組織なのか、とか
コスチュームそのものも、調べたくなるんじゃないか、とか

今回の場合、超人が超人然としていればこそ
世間(=マスコミ)は、その超人ぶりに気を取られ
ま、正体は誰だ、くらいのアドヴァンスはあったとしても
その背景やら、家族やらに考えが及ばないのではないか

つまり、その正体が異星人とか、純粋な超人(日常は一般人でも)であって
家族の存在など、追及の意味がないようにしておくべきなんだろう
と、なれば、スパイ○ーマン風は隠しておくに限る、ということだ
まあ、どこかの武術の達人がどこかにいる、とでもなればよい

結論が出たところで、スー○ーマン風のネーミングを考えないといけない
他方よりやや大きめの、楕円形カプセルの縁を触ると
指先に軽くぽちっとした突起が当たる
くっ、と力を入れるとダークグリーンを基調にした緑っぽい衣装が体を覆う

超人なればこそ分かる時間差で、マスクが頭から顔を覆い
ボディの衣装と接触した首周りから、しゅっとやや明るい緑のマントが出て
太腿の辺りにまでまとわりつくように垂れ下がっている

これらのことは、0.02秒くらいの間に起こっているのだが
スパイ○ーマン風のコスチュームに比べると、装着時間は随分遅い
恐らく、装着の瞬間をハイスピードカメラで撮られたら
正体が分かってしまうだろう

故に、スー○ーマン風、あるいはバッ○マン風コスチューム装着の場合は
ちゃんとしたアジト(場所を突き止められても良い場所)が必要だ

ここまで考えて、その場所は山の中か
あるいは、廃屋なのだろうと思い着いた
山の中(案)は、ここ(アパート)の生活をどのように引き払うかが
まだ決めてない以上、そこまでの行き来がかなり困難なので破棄
となると、廃屋だが
そいつは1〜2件心当たりがあった

少し前につぶれた駅東のパチンコ屋か
以前通っていたSAプランニングへの通勤電車から見えていた廃工場だ
パチンコ屋なら確かに近い
いけるかどうか、ちょっとこれから行ってみよう

なにやら、あれやこれやと考えが散漫なようだが仕方がない
なんと言っても、頭の中身は超人じゃないんだから

さあ、名前はなんとしよう
色はグリーン基調だから“グリーンマン“?
もう少し、金色とかなら”黄金マスク“??(古!)
自分で突っ込みを入れてると、即、さ〜っとコスチュームの色が金色に変わった
おお、こりゃ考えただけで色が変わるみたいだ

こうなってみると、われら大人の日本人は、なになにマンになりたいなんて願望が
ほとんど無いということが分かる
子供の頃はあった気がするが、本や漫画の登場人物に身を置いて読んでいただけで
今はハリウッド製のスーパーヒーローの活躍や苦悩を、距離をおいて観ているだけだ
まして、この年齢になると、自分がなりたいなんて気は、全然だ

だが、しかし、である
キャンペーンではネーミングがとても大切なことはよーく分かっている

ポイントは、世間をあまり刺激せず
基本、好意的にみてもらえること
できれば、国際的にも同じようなスタンスがとれること
さらに言えば、T電力関係者や、地域の人の
潜在的な好感が得られることだ

すると、最初の緑系は正解だったのでは
『この星の自然を守る…ネイチャーマン』とか『グリーンマン』とか
まあ、そんなところが正解ではないだろうか

陽が落ちる迄、キャッチフレーズと『ネイチャーマン』、『グリーンマン』を
交互に何回も唱え
ついでに、決めポーズもちょっとやってみたりした私だった

しかし、鏡の前でポーズをとってみると
いまいちしっくり来ないのだ
最初バッ○マン風に口元が開いていたはずだが

私の身元を完全に隠したい願望に反応しているのか
フルフェイスになったマスクが素っ気ないのだ

被っている私の視界は、すごぶるクリアで問題ないのだが
鏡の中にいる私は、つるりとして、戦隊ものヒーローや
フェンシングの選手のマスクのようだ
これでは、主人公っぽさに欠ける

まあ、私の個人的な感覚ではあるが
「私は、地球を守るグリーンマン」みたいな決めゼリフに
ちょっとそぐわない、というか
超人らしさがあまり感じられない?のだ

ま、いいか(…といつもの独白)
あんまり細かいところにこだわっても
世間ってやつは、こっちの苦労なんて関係ないとこに感心するものだし…
この格好に決めて
まずは、2〜3ケ月前から店を閉めてた、あのパチンコ屋に行ってみよう

脱ごうと思った瞬間に緑色は消え、元のグレイ系に戻り
そして小さくなってカプセルに収まって掌に
便利だね
どんな仕組みで作動しているのか、さっぱり分からないが
ちゃんと動いてくれる
スマホの機能性とよく似てる
後は、慣れるまで使いこなせ、だ

てな訳で、若干ハイな状態になった私は
マント付きコスチュームだけをポケットに忍ばせ
ささっとご近所を、通り一遍に周囲偵察しただけで
アパートの部屋から外に出た

それでも早足にならないよう気を配り
直線的にでなく
わざわざ逆方向に歩き出したのだが
歩きながらの前方偵察を時々しているくらいだったので
後から尾行している探偵屋さんには、気付かなかった

夜も大分遅いのに、まだ帰宅途中のサラリーマンやOLさんもいて
人通りが無くなったら
早足移動に切り替えたいと、思っているうちに
徐々に町の明るさが疎らになっていき
照明の無い、つぶれたパチンコ屋の建物が迫ってきた

こうした使われていない建物でも
無断で敷地に入れば“不法侵入“だろう、ぐらいのことは知っているが
でも、どうやら通りの向こうの防犯カメラと
建物の入口に付いている監視カメラは
視界が限られているので
後は、通行人や通りすがりの車に気を付ければ
中に入ることは充分できそうだ

と、踏んだ私は
得意の”周辺偵察“を、いつもより念入りに行い
誰もいないことを確認した上で
しっかりスピードアップした動作で
文字通り、サッと建物の屋上にジャンプした

しかし、プロとは怖いもの
アマチュアとは馬鹿なもの
探偵が望遠カメラでこっちを狙っていたのは分からなかった

距離が近ければ、恐らく私がジャンプしたことさえ
この薄暗がりで見えなかっただろうが
かなり距離を取って潜んでいた、探偵屋さんのカメラのフレームの中から
急に早い動きでジャンプして消えた私と、慌てて押した3連シャッターの
コマ撮りの間に、パチンコ屋の屋上に立つ私の姿が写ってしまっていたことに
私も探偵屋も気付いていなかったのが、後の展開に影響を与えるのだ

パチンコ屋の屋上は
大きなネオンを支える鉄骨の枠組みが載っているだけの構造で
飛び乗った私は、思わずよよっとなってしまった
慌てて鉄骨につかまると
ぐにゅっと曲がった気がしたので
そっとつかみ直す

[ 私がパチンコ屋の屋上でもたもたしていた同時刻 ]
(や)の情報屋である探偵S我谷は、私が急に視界から消えてしまったので
周辺を見廻していたが、ふっと手の中のカメラのことを思い出して
画像再生ボタンを押す
4コマ戻ったところには、暗い大きな建物(つぶれたパチンコ屋)を
突っ立って見ているおっさんの後姿が写っている

次のコマには、おっさんがやや身をかがめているところが
少しブレて写っている
その次のコマには暗い建物だけ
そのまた次の(最新の)コマも建物だけ

なんだ、これはと思って
S我谷はカメラの液晶を拡大してみた
…が、どこにもおっさんの姿はない

突然消えちまった、ってか
S我谷は思わず呟いて
さあ、これからどうしようか、と掻いた頭の中には
S会の若頭T野の渋面が浮かんでいた

私の方と言えば、とりあえず体の落ち着く場所に身を委ね
ざっと周囲偵察して、監視カメラも人の眼も無いことを確認した上で
(探偵さんは気配を消していたので分からなかったなぁ…)
コスチュームの入ったケースを取り出す

これを着て、T電力の本社ビルに向かえば
もう今までの私ではいられなくなる
大きな案件のコンペでプレゼンをする前の、緊張感が甦ってくる

まあ、ここでやめてアパートに帰ったって
年金を頼りの倹しい生活に慣れる保証はないし
なにもしないでいて、例のジュブブなんちゃらさんにX出されたら
どんなことになるのか分かりゃしない
って言うか、もったいない気分もするし…

ここは吹っ切って、こいつを着て
飛び出しちまえばなんとかなるだろう!
てな訳で、さっとコスチュームを身に着け、緑色を確認して
えいやっと、夜空に向かって跳び上がった

どんぴしゃ、そのタイミングで
探偵S我谷が口にくわえた煙草に火を点け
最初の一吸いを、ふぅ〜っと空に吹き出しながら
見るともなく、黒い建物の輪郭に視線をやり
人影らしきものが、さぁーっと空に跳び上がったのを目撃した気がして
その瞬間、半ば無意識にカメラの連射シャッターを押していた

ちなみに、ジャンプするときはかなり早く跳ぶんだが
空を飛ぼうとして飛び出すときの初速は
えいや、ってな感じで飛び立つので、さほど早くはないのだ

posted by 熟年超人K at 22:01| Comment(0) | 再編集版・序章
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