2023年02月01日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(2)

それは聴力
F原発の湾でも、除染しながら海中を進んだ時も、気にしていなかったので聴こえていなかったのか、分からないが、今、注意しながら潜行していると、様々な海中の音が聴こえている
なかでも、クジラかイルカなのだろうか、少し悲しげな声のような音がよく聴こえ、もうひとつ機械的な音、あれは多分船のスクリュー音なのだろう
もっと慣れて、音のサンプルが揃えば、潜水艦のソナー探知のようなことができそうだ
いろいろ気付いたことが多かったが、詳しい分類は後にするとして、とりあえず今は、海岸を目指そう
推進速度は、今回はぐっと落として20〜25q程度とし、水深5mくらいの深度を保って、上空から確認していた半島の方角に進んで行く
それにしても海中を進むのは、前や海面がよく見えず、的確な上陸地点の選択は困難を極める
スクリュー音を避けて進んでいるので、ちゃんと真直ぐ進んでいるのかがよく分からない
…が、そのうち海底がはっきり見え始めた
陸に近づいている証拠だ
確か、渥美半島の太平洋側は砂浜部分が多かったはずだ

いつのまにか、水深5mは保てなくなっていき、徐々に海底を這うように進むことになった
マントの水流ジェットの力はますます弱くなり、やがてマントに戻って体に巻き付いた
そうなると、泳ぐしかなくなる
テレビでよく見る、ダイバー風の泳ぎに代え、手を伸ばしてバタ足で水をキックすると結構楽に進む
それはそうだろう、なにしろ息継ぎする必要もなく、こうして泳いでいても疲れないんだから
そして、ついに浜辺に上陸、となる
この辺りは確かサーファーが多い処だったことを思い出す
直前に平泳ぎに代え、顔を上げて近くに人がいないのを確認していたのは言うまでもない
もう背が立つので、歩いて浜に上がる
目の前には防風林だろうか、木々が密集している
その木々の間に入って、やっとスーツを脱ぐことができると、ほっと一安心
喉元の膨らみを探り、ぽつっと押す
一瞬でスーツは手の内に収まり、私は昨日のネットカフェに行った時の格好に戻っている

さて、ここから出て、T鉄道の駅(なるべく無人駅)を探して、アパートに帰らないと
ちょっと飛べれば、問題ないのだが、土曜日の夕方時分では釣り人や、サーファーが居ないとも限らない
ここは、慎重にやらないと…

スー○ーマン風スーツ(Gスーツ)をジャケットの内ポケットに収め、改めて周囲偵察を試みようとした時、砂浜を踏む足音が聞こえた
周囲偵察をするまでもなく、こちらに近づいて来る人の気配に、ちょっと身構える感じになって、その場に立ち尽くしていると、大きなクーラーボックスと釣竿を携えた中年男が現れた
向こうもちょっと驚いた感じになっているので、緊張感を和らげようと
「投げ釣りですか、なにが釣れるんです?」と声を掛ける
かえってそれが相手に不審感を抱かせたようで、じろっとこっちを睨む
「イシモチですか、今頃は」魚名を出して、なんとか警戒心を解こうとする
「わからん。まだ投げてないから」ぼそっと声が出た
「こんな時間じゃないと、サーファーが多いでいかんねー」三河弁を交えて話を繋ぐと、やっと相手の緊張感がとれる
「まあ、あいつら、うるさいで。あんたは、なんだ、釣りか?」
この格好で釣りはないだろう、と思いながら
「いやぁ、昔ここらで釣ってたもんで、懐かしくて…」
私の年恰好を40代と踏んだのだろう(このところ若く見えるようだ)
「そうだなー、前はこの辺りも、よー釣れたもんなー」と和む
いつまで話をしていても仕方ないので、じゃあ、と言ってその場を離れた

釣り人の来た道を辿ると、防風林を抜けて車が多く行き来している道路に出る
多分これが国道42号だろう
ならばと、そのまま横断して北に延びている畑の間の細い道を進む
周囲偵察を前方に展開しながら、人がいないときは速度を上げるのだが、この時間帯は人などいない
そのうち家も疎らにあるようになったので、本気でゆっくり歩くようにする
やがて踏切と小さな駅が見えた
駅名表示を見るとT駅となっている
TY市に出る時刻表は15分毎になっているので、しばらく待てば電車に乗れるだろう
ここまでに何人かに見られているが、記憶の中になら問題ないし、どうせ記憶にも残らないだろう

電車を乗り継いでK市駅に着いたのは、もう夜の7時半近くだった
街の灯りが点いて、夕食の匂いが何処からともなく流れて来ると、小さかった頃の記憶が蘇るのか早く家に帰らないと、という気持ちが強くなる
この歳にして、とは思うが根源的な感覚だから仕方がない
それでも、足早にならないよう気を付けながらアパートを目指す
お馴染みのコンビニが見えた辺りで、周囲偵察をさりげなくすると、どうも怪しい車が距離をおいて2台停まっている
まあ、しょうがないな、と腹をくくってアパートに戻って部屋の鍵を開けようとすると開いている
ちょっと警戒して、室内を透視するとダイニングの椅子に座って、妻のM代がテレビを観ている
安心して、がちゃっとドアを開けて部屋に入る

M代は相変わらずテレビを観ている
「おお、来てたの?いつ来たの?」といつもの調子で声を掛けるが返事がない
「なんだ、どうしたの?」少し不安になりながら、それでも後ろめたいことなんか無いぞ、という気を込めて重ねて声を掛ける
「どこに行ってたの」振り返らず言う声に棘がある…。やばい雰囲気が立ち込める
「何処って、仕事だよ。例のT電の…」と、言いかけてこの件は、まだ妻に教えてなかったことに思い至った
「T電、って?」そこに反応したのは、なるほど妻らしかった

「実は、前に話した超人になった力を使ってやる仕事に、T電が今困っているF県のアレの片付けを手伝うことを考えてるんだ」
「F県のアレって、原発のこと?」
「そう、僕は超人になったんで放射能も平気だし、力もあるし、空も飛べるから、あの後始末の作業で手伝える部分があるんだよ」なるべく、刺激がないようにさらっと話す
「それって、お仕事になるの?お金になるか、ってことだけど」案外平然とした声。でもまだ振り向かない…やばいぞ、大やばだぞ、これは
「なるよ、今日だってあっちで会議だったんだ。T電だけじゃなくって、電機会社や建設会社の偉いさんも出ている会議に行って来たんだ」
「それで、携帯切ってたの?」声の棘が少し取れる
「そうそう、携帯の電源は切って、だよ」少しほっとする、が、まだ顔は向こう向きだ

こんなときの妻は恐い
相当怒っているということなのだ
それは、私の説明が彼女の心の疑念の的に当たっていないからだ
そこは分かっているが、うっかり藪を突いてしまうのは、もっと恐いことになる
仕方ないので、話を続けるのはやめて、冷蔵庫を開けてみるという、動作をしてみる
「なにか、飲物欲しい?」要らない、という返答を予測しながら一応訊いてみる
「あっちって、東京?」くるっと、こちらを向いた

「いや、F原発の会議室」さらっと、答える
「F原発って、新幹線で行って来たの?」
「いいや、飛んでったんだよ、空を。ほら、超人だから」
「パパ、本当に超人になったの?あのスー○ーマンみたいな」
「そうなんだよ、前にも話したよね。Y市のホテルで」
「聞いたけど、まさか本当なんて思わなかったわよ」声音が微妙だ
「そのとき、仕事探すって言ったろう」
「言ってたけど…。で、大丈夫なの、放射能とか浴びて」…なんだか、理解しているような口ぶりだ

「大丈夫だよ。あの原発の炉心に入ったけど、なんともなかったし、T電の人に検査もしてもらって、すっかりきれいになってる、ってお墨付きもらったから」
「放射能とか、持ち込まないでね。T彦のとこに申し訳ないから」
「そうそう、それでママにも知っておいて欲しいんだけど。お金のことなんだけど、まさかスーパーマンが料金もらうなんておかしいから、僕が代理人ということで、もらおうと思ってるんだ」
「お金なんてもらえるの?」
「そう、それで、僕は超人グリーンマンの地球側の代理人、というか窓口で…」
「そんなので、T電ってお金支払ってくれるの?こういうことって、ボランティアなんでしょ、普通」
「ま、そりゃそうだけど、一応、僕がなにかでグリーンマンを助けて、その恩義で僕の言うことだけは聞いてくれる、みたいな話にして。僕は、そりゃ普通の日本人だから、なにかと生活費もかかるから、それでお金を請求する、みたいな話にする積りなんだ」
「それは、いいけど、T彦のところに迷惑かからないのよね」痛いところを突いてくる
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2023年01月31日

熟年超人A〜第2章・次の一歩編(1)

「U島さん、線量計をご確認ください。なにか急激に上昇しておりませんか?」T電機のA多があせった口調で収束センターのU島に告げる
「おおっ、そうですね。M希松さんのも?」今度はU島に訊ねられたM希松が、慌てて線量計をチェックすると先ほどまで400msv(ミリシーベルト)ほどだった数値が700msvを超えようとしている
「は、はい、自分の数値は、今、700を超えました」
「これは中からGが出て来る、ということではないでしょうか」A多が言葉を添えた
「そうだな、彼は恐らく放射能まみれで出て来るだろうから、想像してはいたが…」
「U島さん!さらに数値が上昇しています。タイペック装着の我々はともかく、周囲で観察している一般防護服着用の皆に、退避を勧告すべきです」とM希松
「そうだ、A多さん、皆のところにこのことを伝えに行ってください」ハイ、と言ってA多は(タイベックの重さのため)ゆっくり皆のいる処に向かって歩き出した

上部が吹き飛んでいて、今は屋上になっている5階に出た私は、スーツが通常通りに戻っていることを確認した上で、下にいる3人に手を振った
が、下に居るのは2人で、1人は向こうに固まってこちらの様子を窺っている皆の方にゆっくり歩いている
聴覚のレベルを上げると、下の2人が「ちょっとそこで待ってて下さーい」と言いながら、しきりに手を横に振っている
なるほど、あの高濃度の放射能まみれになっている私だって、それこそ鼻つまみ者になってるって訳だ
意味は分かった、というように大きくうなずいて見せておいて、さあどうしようと思案した
そう言えば、海水で除染して下さい、と言っていたことを思い出して、自分を指さしてから次に海を指さして回収容器とガイガー管、ハンディトーキーをそこに置いて空に飛び上がった

さすがに構内の港では狭いので、一気にスピードを上げて(それでも時速1000q程度に抑えて)東に100秒ほど太平洋上を飛んから、海に飛び込んだ(原発から20qくらい離れたと思う)
海中に入ると、今度はすぐにマントが反応して、例のジェット水流で進むことができた
これはこれで爽快でいいな、などと呑気なことを思いながら、なるべく水流が起きるようジグザグに海の中を突き進む
おそらく水中では時速100q程度出ているかと思うが、カジキあたりだと120qを超えるということだから、超人としては、どうも水中活動は得意ではなさそうだ
10分ほど泳ぎ回ったので、とりあえずこれでどうだろうと、海中から飛び上がって再び宙を飛んで3号機の屋上に舞い戻った
下を見ると今度は3人揃ってこちらを見上げていて、遠巻きにこちらを見ていた連中の姿はない

念のためにハンディトーキーで喋ってやろうかと思ったが、スイッチをオンにしても放射線にやられたようで、なんの音もしない
仕方がないので、回収容器とガイガー管だけ持って、下に降りることにした
「すみません、放射線量を計測しますので、そこで止まって下さい」
「線量、100msv超えています」
「たびたびすみません、お手持ちの物を置いて、ゆっくりこちらにおいで下さい」回収容器とガイガー管をその場に置いて、ゆっくり3人に近寄っていった
「線量、上昇の気配ありません」
「そうか、グリーンマンさんが持って来られた容器とGM管が汚染されていたからか。グリーンマンさん、すみませんがこの線量計を手に取って頂けますか」
分かった、とうなずいて、U島さんらしき人物から携帯電話よりひとまわり小さい線量計を受け取る
傍に寄って来たもう1人(多分A多さん)が、覗き込んで大丈夫、というようにうなずいて両手で〇を描く
別の1人(となるとM希松さん)が、トランクケースのようなものを持って、さっき私が置いて来た回収容器とガイガー管を中に入れている

「グリーンマンさん、ハンディトーキーは建屋の中ですか?」
「いや、持って来たがもう使えなくなっていたので、屋上に置いて来た。取って来るか?」
「すみません、貴重な資料になりますので、お願いします」
分かった、と言ってしゅっと飛び上がって屋上に戻り、トーキーを持ってトランクケースを持っているM希松のところに降り立って、それを渡す(こういうことできると、超人っぽいんだよな)
「それで、私の放射線量は合格、ということなんだね」
「はい、充分除染されておられると思います」
「やはり海で洗って来られたのですか」U島が訊ねたので、そうだとうなずく
そんな会話をしているうちに、急に時間のことが気になって来る

「回収容器の中のものだが、下になっているのが圧力容器の下のウエットゾーンだった場所のコンクリート土台にめり込んでいたやつで、もうひとつ金属が混じったものも持って来た。一番上のは圧力容器の真下のグレーチングの上に落ちていたデブリだ」
「そうですか3個も、それはありがとうございます」
「じゃあ、私はこれで失礼する」
「ええっ、行ってしまわれるんですか」
「本部で皆が待っているので、一度あちらにも寄って頂かないと…」U島が懇願するが、行ったら何時までかかるかわからない
「別の場所で、私を必要としている者たちが呼んでいるのだ。今後の連絡は地球人のAからコンタクトを取るようにするから」有無を言わさず、えいっと空に舞い上がってしまう
これが超人の特権だな

空に飛び上がってお気楽モードになりそうになった瞬間、はっと思い出した、J山でこちらを撮影していた連中のことを
私が宇宙から来た超人ならば、ここは当然宇宙に帰らないとおかしい、ってことだ
すでに、200〜300m上昇して海に向かいかけていたところを、念のため周囲を確認するように見廻す(本当は周囲偵察で航空機をチェック)
ヘリでも飛んでいるかと思ったが、空には何もない。逆に地上には、J山のほかにも録画カメラのグループが2つ居るのを確認
それではと、らしい感じでぐっと高空を見据えてから、一気に(急加速にならないよう注意しつつ)上昇を開始した

マッハ2くらいまでどんどんスピードを上げて、高度2万m程度に達してそのまま100qほど南下、茨城県沖の太平洋上に慎重に着水、そのまま100mほどの深度で海中を10qくらい潜行して進む
その後、再び高度2万mの成層圏をマッハ2で約200q南下、特徴のある犬吠埼を確認後、今度は南西に房総半島、伊豆半島を見るコースをとって、太平洋上空をふっ飛ばす
しばらく飛ぶと、伊豆半島南端の石廊崎が見え始め、陽はまだあるが、そろそろ西の空に低くなっている
飛行速度を落として、久しぶりに腕時計で時刻を確認すると16:43だ
ここから富士山西側、南アルプス南端、と往路に近いコースを取るか、このまま海の上を行き、渥美半島のどこかの山にでも降りて、TH市から電車でTY市に出てK市に戻るのもありか、と迷う
どっちにしても今日は土曜の夕方、帰宅ラッシュにぶつからないのは助かるのだが…

結局、少しでも人目に触れる確率を低くするため、遠州灘沖で海に入り海中を進んで、渥美半島の太平洋岸のどこかに上陸して、T鉄道の無人駅から電車に乗ることに決めた
そうと決まれば、スピードアップだ
再び速度を上げて3〜4分飛ぶと、前方に渥美半島らしき形が見えた
速度と高度をゆっくり落としていく
この辺りの空域は、H市にある航空自衛隊の練習機が飛んでいる可能性も有るし、航空各社の定期便が数多く飛んでいるコースでもある
2万mの高度なら、目視(レーダーには映らないので)される心配はないが、高度を下げれば必然的に危険性が増す
周囲偵察には3機ほど感じられるが、どれも遠いので今のうちに海へ、と思ったが
どっこい、海上には多数の船舶がいるのが見える
小さなヨットや近海漁船もとなると、避け切ることは不可能に思える

こりゃ困ったなぁ、と呟いた時、前方に突き出している両腕のスーツの色が緑ではなく青になっていることに気付いた
しかも上面は碧色、下面は空色になっているのだ
そう、魚の背が濃い色で、お腹が銀色になっていて、海鳥からも、底の方に居る大きな魚からも見えにくい、という保護色状態なのである
なぜ、今回こんな風に色が変わってくれたのかは後で考えるとして、今はなるべく早く、船影のないところに着水しなければ…
水柱をなるべく立てないよう、以前観たオリンピックの高飛び込みを連想して、垂直にずぼっと海中に突っ込んだ
なかなかの勢いだったが、さすが超人、ちっとも痛くないので、どんどん思い切った動きが取れる
海中に入ると、周囲偵察能力は無くなるようだ
単純に目で見て、前に進むだけだな、と思ったが、もうひとつ探知能力があることに気付いた
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2023年01月30日

熟年超人A〜第2章・炉心へ編(5)

やったぞーっと、勢い込んでエアロックから格納容器内に入る
エアロック内にはいってから、がりがり音が大きかったガイガー管が静かになった
メーター針が上限の黒いゾーンの一番端で止まっている
300svを超えているということなのだろう
スーツの発光量が少し落ちていて、ちょっとふっくらした感じになっている
これは、スーツが高濃度の放射線に対応している、ということになるのかも知れない

体の動きには支障はないようなので、スーツのことは忘れて、目の前のコンクリート壁の奥に透視でぼんやり見えている円筒形の圧力容器の方に関心を移す
圧力容器については、あの事故以来、何度も見てきたような気がするが、実物は初めてなので、こりゃ大きいな、というのが最初の印象である
と言っても、奥にそいつがすっきり立っている訳ではなく、こちらにはメンテナンス用のタラップやら鉄の梯子やらが、周りをごちゃごちゃと取り囲んでいる
T電機のスタッフから聞いたところでは、圧力容器は厚さ14pの炭素鋼に、ステンレスの内張りが施されていて、高さ21m直径6m弱ある、でかいカプセルといったところだ
今いる格納容器の天井までの高さが34mというから、かれこれ9階建てビルくらいあるし、圧力容器だって5階建てのビルくらいはある
そして、この圧力容器の中に核燃料が入っている訳だが、皆が心配しているメルトダウンは、容器の円筒の底部が抜けて、下の格納容器の底も抜けて、サプレッションプールのある地階の床をもえぐっているのか、放射線量が強すぎるためか、透視ができない

いずれにせよ、こと3号機に関して言えば、ここまで来られたなら後は、このコンクリート壁を壊して鋼鉄製の圧力容器を引っこ抜いて持ち出すことは出来そうだ
後は、熱溶融した核燃料のデブリをかき集めて、タンカーの小さ目なやつに積み込んで、宇宙に飛び出せさえすれば、なんとかなりそうだ
だが、3号機ひとつでこれだけ手間取るなら、後2基乃至3基の炉心を取り出すのは大変だろうな、といささかブルーになる
有無を言わさずぶち壊して、炉心だけ引っ張り出して適当な船に積み込んで、太陽まで運ぶだけなら簡単なんだけどなあ…
後のことを考えると、そうはいかないのが歯がゆいところだ
まずは、圧力容器を囲んでいるコンクリート壁の破損している場所を探して、中に入ってデブリをこの回収容器に入れて外に戻ろう
向こうに帰る時間が気になってきた
コンクリート壁を回り込むように設置されているタラップ(キャットウォークとここの連中は呼ぶ)の、半分以上は落ちてしまっているので、残っているものを探してはジャンプして飛び移り、そこから改めて全体を見てみる

今度は、円筒のサイズが大分小さくなっているので、そんな探し方でも充分だった
ドーム状になっている格納容器の天井部分の近く、床から15〜16mの辺りに水素爆発でコンクリート壁が破損している場所があり、中から突き出しているパイプが途中から折れていて、その根元のコンクリートが割れた
箇所がある
なんとか側に寄ってみると、中の圧力容器の外殻が見えているが、隙間が狭くコンクリート壁を壊さないと圧力容器の底には行けそうもない
こんなにコンクリート壁と圧力容器の隙間が無いのでは、床に降りて下の部分をぶち破って、圧力容器の底部に行くしか方法がない
早速下に降り立ち、それでもどこかに破損している所がないかと円筒壁に沿って歩いてみる

ヒビのある個所はいくつかあるが、念のため中を透視すると、表面だけのものが多い
3/4ほど回った処で、やっと深いヒビの入った所があった
そのヒビの入っている箇所に掌を当てがい、さっき会得したばかりの発勁を試みる(もちろん、えいっと気合を発して、だ)
するとどうでしょう、コンクリート壁に直径60〜70pの穴が見事に開いた
よし、と思わず掛け声をかけ、開いた穴に上半身を突っ込もうとすると、スーツのふくらみが大きくなっている
これじゃまるで、つなぎのダウンを着ているようだ
幸い表面がすべすべしているので、割れた穴の断面にひっかかるようなことはなかったが、今までの経緯からすると、内部の放射線量がまた凄まじくなっているのだろう、と若干びびってしまう
まあ、体調の変化もないし、もし本当に危ないなら、ジュブブがなんとか言ってくるだろう

あくまでポジティブに考え(そうでないとやってられないよ)、えいやっと内部に身を滑り込ませた
中はもちろん真っ暗だが、スーツの発光で充分様子を見ることが出来る
広さは直径5mほどの円筒で、足元は側溝などでよく見かける格子状の蓋(グレーチングというらしい)になっている
そこに、タールが固まったような大きいのやら小さいのやらの黒い塊が、あちこちにある
ははぁ〜ん、これが皆が言っていたデブリだな、とひとりうなずいて頭上を見上げると、丸く釜の底のようになっている圧力容器の底部が見える
しっかり超人眼で見ると、底部は何ヶ所も裂けていて、大きな穴は1m以上もありそうだ
その下のグレーチング床も、何ヶ所も溶けているところがある
どうやら、皆が心配していたように溶けた核燃料がしたたり落ちて、下のウエットゾーンに落ち込んだようだ
下のウエットゾーンが、文字通り機能していればそこで止まっているのだろうが、どうだろう

圧力容器の底部には、制御棒の上げ下げの棒が沢山突き出ていると言っていたが、それらは溶けた核燃料に溶かされたのか、ほとんど見当たらない
それならよし、と床のグレーチングに手をかけて、軽く宙に受けながら持ち上げてみる
鉄製のものには重力波がよく伝わるのようで、90×90pほどのグレーチングが、拍子抜けするほど簡単に持ち上がった
それを横に退けておいて、下のウエットゾーンに侵入してみる
ここはフラスコ状になっている格納容器の底になる訳だが、想像通り水など無く、ここの底も抜けている
燃料棒が高温の溶岩みたいになってどろっと落ちて、さらに落ちた場所を溶かして、そのまた下に落ちていく、みたいなことが起きたのだろう
折角なので、もうひとつ下のサプレッションプールがある階に下りてみることにした

もうこれだけ壊れているならと、開いている穴に手をかけ穴を広げる
この格納容器の素材は、厚さ3pの鋼鉄製とT電機の誰かが言っていたから、厚さ15pの圧力容器に比べれば楽勝だろうと思ったが、どっこいそんなに簡単ではない
ならばと、手を発熱させて鋼鉄を溶かしながら、めりめりと穴を広げ、なんとか下の圧力抑制室に降り立った
これで格納容器の真下に来た訳で、周りを見回すと、概要図でおなじみのドーナツ状のサプレッションプールが見えている
ここの床材はコンクリートのようだが、黒く見えるデブリが幾つも積もっているのが確認できる

しばし、この先に控えている、破壊された炉心を引っこ抜いて宇宙に持って行く作業の手順を思い描いてみる
太陽まで何往復もしたくはないので、思いつきのように言ったタンカーなどの入れ物に積み込むことになるのだろうが、いくらタンカーが大きいと言っても、格納容器ごと積み込むのは無理だろう
せめて圧力容器は丸ごと運び出したいが、それでも1本21m×6mくらいあるというから難しそうだ
ならば、段ボール箱を燃えるゴミの袋に潰して入れる、みたいなことが必要だろう
力任せに潰す、とは言っても相手はでかいから、大変だ
それに、放射能にまみれた残骸がどれほど飛び散るかわからないし…まあ、ジュブブに相談してなんとかできるだろ
考えるのは後にして、大分遅くなったからそこらのデブリを何個か拾って、回収容器に入れて帰ろう

一応、落ちていた場所毎のデブリのサンプルが欲しいだろうと、気働きさせてまずはここのからいこう、と黒いデブリに手を伸ばす
指先がデブリに触れる寸前に、手の部分が形を変え、5本の指先が菜箸のように伸びた
なるほど、まんま掴んではさすがに危ない、ということか
納得して伸びていない方の手で回収容器の蓋を開けて、握りこぶし程度のデブリを拾い上げようとしたが、床に溶融しているのか動かせない
参ったなぁ、と思ったが、大分このスーツの応用力にも慣れていたので、菜箸のように伸びた指先を発熱させてデブリを切り取った(実はこのとき随分危ないことをしていたのだが、知らないという事は怖いもんだ)
とにかく最初の1個を回収容器に収め、入って来た穴に向けてふわっと飛び上がる
身体がやっと通る穴だったので、抜けるのにちょっと苦労したが、無事水の抜けたウエットゾーンでもデブリを回収して、格納容器内に戻る
そこでもデブリを回収容器に収めて、やれやれ気分で帰路に着く

後は入って来た道順をほぼ低空飛行ながら、浮遊して戻るので楽なものだ
おかげで、こういったスロー飛行にも慣れたし、ちょっと沈没船の船内から宝物を拾ってくるダイバーのようだな、と自己満足しながら最後の5階オペレーションフロア(だったところ)に出た
実は、そのとき建屋の外では、待機していたT電機の3人の線量計が急上昇を始め、大騒ぎになっているのだが…
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2023年01月29日

熟年超人A〜第2章・炉心へ編(4)

この扉もなかなか手強そうだ
電気が通じていればこその安全策が、どこもかしこも破綻していて不便この上ない
まあ頑丈そうな扉だが、エアロックで格納容器と完全遮断しているはずならば、そんなに厳重でもないだろう、と若干楽観視していた
多分ここにあるキーボードに暗証番号を入れて、すーっと開いたんだろう、電気があるときは
ということで、取っ手のようなものがない
まずは遠慮しないで、ぐわんっとぶっ叩いてみる
案の定、表面が少し凹んだが、扉は壊れない
周りの灰色の壁はコンクリートのようだから、例の“すりすり”をやってみようか
それとも、指先を熱くするのを掌全体にして、この扉を溶かしてしまおうか

しばし考え、取り敢えず実績のある“すりすり”でいくことにした

扉の表面を、両の掌で素早く擦ってみると、扉の縁がびりびりし始めた
そのとき、ふと気づいたことがあったので手を止めた
この扉を、さっきのようにコンクリート壁から外してしまって、その先はどうなるんだろうと
この先には、格納容器に点検員たちが入るためのエアロックがあるという
エアロックだから、1の扉を開けて中に入って1の扉を閉めて、次の2の扉を開けてその先に入ったら、また2の扉を閉めて入室が完了、ということだろう
なぜそんなややこしいことをやるのか、と言えば当然、その先(=格納容器内)の放射能を外に出さないためだ

きっと、エアロックの扉も開かない、あるいは、すでに壊れて開いているかも知れない
私は平気でも、このデブリ回収の調査から、私の太陽への廃棄まで、そう簡単には進まず
誰が責任を持つのか、安全性の担保は、などなど、うじゃうじゃした話が繰り返されるのだろう
大きな組織程、そういうものなのは前職でいやになるほど味わっている
そのすったもんだの間に、放射能がダダ漏れになっているのでは、ここの皆が困るだろう
外の連中が一番心配していたのは、そこだろう
そうなると、この扉をできるだけ壊さず、ある程度放射能の遮蔽能力を保った状態にしておかないといかんな、といつもの気配り癖が出て来たのだ

そこである考えが閃いた
もう一度、よく見てみよう、である
超人眼の透視力をできるだけ引き上げて、扉の細部を点検することにした
当然であるが、扉が開かないようになっているということはロックがかかっているということだ
何がなにをロックしているかと言えば、扉を保持している鉄枠のどこかに、扉から押さえ棒のようなものが突出して、鉄枠の穴に刺さっているような状態だろう、と推理した
その機構を動かしているのが電気的な合図で、その合図が押さえ棒のようなものの出し入れをするのだろうと考えたのだ
ならば、その出し入れをしている部分か、押さえ棒そのものを無くせば、扉は原型を保ったまま開けられるだろう

すらすら出て来た考えに、心の中で拍手して、早速その線で念入りに扉を透視してみる
確かにロック機構のような箱状の物体と、押さえ棒らしき棒が扉の端の上下に見える
…が、中の構造がどうなっているのかは全然わからない
それに、ピンポイントで重力波を作用させることは、今の私には出来ない
ジュブブに訊ければ、なにか方法があるかも知れないが、あいにく眠くならない
困ったなあ、と呟いたとき、ふっと考えが浮かんだ
熱だ、押さえ棒を高熱で溶かしてしまえばなんとかなるんじゃないか、と

あのときの指先から出た熱を、もっと強力にして、この扉のロック機構の押さえ棒に集中させれば、ロックしている部分だけ除去できるだろう
そう思いついたところで、即実行、と右手の指先を手刀のように揃えて、2mはある扉の上部に空中浮揚で浮き上がった
押さえ棒が隠れている扉の上端に指先を当て、指先が発熱するイメージを集中的に念じてみる
10秒ほどすると、指先が明るく輝き始める
さらに気を集中して温度を上げる
が、扉の表面は白く輝くものの、溶けはじめるところまではいかない
ここであきらめるものかと、さらに強く念じると金属の表面が急にくすぶり始めたかと思うと、どろ〜っと流れ出した
扉の表面が溶けて穴が開き、内部の金属棒が姿を現したので、穴に手を入れてそれを掴む
これも高熱を与えると、ぐにゃりとした感覚が指先に伝わって、金属棒はつまみ切れてしまった

慌てて指先の発熱を止めて、上の鉄枠に刺さった金属棒の残りを引き抜く
どうやら熱で開けた穴は、箱状になっている扉の向こう側にまでは貫通せずに済んだようだ
それを確認して、床に降り立ち、今度は床に這いつくばるようにして同じことを繰り返す
下で押さえていた金属棒も引き抜いてから、おもむろにドアハンドルを回して扉を引き開ける
さあ、最後の難関、エアロックは目の前だ

扉を開けると、格納容器の外壁から突き出しているエアロックの扉が見えた
扉の横には、間違いようもなく『外側扉』と記されている
円筒形の、長方形の扉とそこに昇る小さなタラップ
それは、昔好きだった宇宙もの映画のエアロックそのものだった
そして見るからに頑丈そうなその造りに、はてどうやって開けようかと、またも悩む私だった
今度は荒業でいいんだ(実はそうではなかったのだが)、と思いながらも、その荒業を今まで試してこなかったことに反省もした
ここに至るまで、全てほどほどにこなしてきた私だった
超人になって、100%の破壊力は発揮せず、ひたすら大事にならないよう気配りばかりだった私
今後、もっとハードな仕事をやらざるを得なくなった時に、あるいはやれないことを知らずに危機に直面したら、困るじゃないか、と思い至ったのだ

まあそれにしても、いきなり力技というのもなんだから、扉の横の壁にある船の舵輪のような大きな開閉ハンドルに両手をかけてぐいっと廻してみる
が、錆び付いているのか予想通り動かない
だが、よく見ると『スイング/ラッチ/バルブ』という文字と、ハンドル開閉の⇔印がある
確か、エアロックというものは、2つの扉と真ん中の調整室を使って、この原子炉のように中から漏れ出したら困る物を、あちらとこちらの空気圧を違うものにして、防ぐ機構だったはずだ
当然、こちらの扉を開けてみたら、あちらの扉も開いていた、じゃあ困るので、その辺りの間違いが起きないように、扉の開閉がうまく関連付けられているようになっている
今や電気が止まっているので、空気圧調整用のコンプレッサーみたいなものは機能していないはず

では、と今度は「開く」と書いてある方に力を込めて思いっ切り廻してみた
すると、ぐきんぐきん、という音がしてハンドルが動く
自分がどれほどの力を出しているかは分からないが、鋼製のハンドルをそのまま回すと、なにかが外れたような手応えがあった
ぐいっと力を入れて扉を押すと、かくっと音がして扉が開いた
よし、と調整室に入り、今度は内側に付いているハンドルを逆に回して扉を閉めるのを忘れないようにしてから、次の扉にとりかかかる
今度の扉は、格子状に間仕切りを箱のフタのような10p程の厚さのスチールが覆ったものだ
振り返って見ると、最初の扉も内側から見れば同じ構造をしている

さあ、と扉横のハンドルに両手をかけてぐいっと回すが、今度はびくともしない
さっき無理やりハンドルを回したせいか、外側と連動するようになっている格納室側の扉は開かない
さらに力を込めてハンドルを回そうとしたら、がこっ、と音がした
こりゃあ、いよいよ扉の開閉装置を壊してしまったなぁ、と思ったが、まあ仕方がない
当初の考え通り、ここは強行突破あるのみだ
とりあえず、エアロック外側扉は閉まっている
確か、内側に押せば開くはずだからと、全力で押してみる
が、開かない
なにかでこじ開けようにも、扉と扉枠とはぴったりはまり込んでいて、それこそ髪の毛一本入る隙間もない

さあ、困った、である
前に試した掌擦りも、扉と扉枠、そしてエアロック室そのものが、全て同質(に見える)の金属製なので、重力波でも分離できないだろう
指先の熱では、これだけ厚いスチールでは溶かし切るのに時間がかかり過ぎるだろう
いつか観た映画のスー○ーマンのように、目から熱線でも放射できればいいのだが
一応、目に力を込めて、出ろ熱線!と声にも出してやってみたが、やはり無理
眠くもならないから、ジュブブのアドバイスも訊けない
どうしようもないイライラで、思いっ切り扉を殴りつけてみた
ぐわーん、と音がしたが扉は相変わらずそこにある

しかし、よく見ると若干凹みが出来たようだ
そもそも思いっ切り何かをなぐったことなんてないのだから
ちゃんと腰の入った、いいパンチなど打てている訳はないのだ
と、頭の中に、様々なボクシングマンガのシーンが浮かんだ
それをイメージしながら、腰の入った風のパンチを放つ、と手応えがある
さらにはボクシング以外の格闘技マンガに出て来る、発勁のイメージも浮かんでくる
今度は扉に掌を当てがっておいて、気を入れて「えいっ!」と押し出す
すると、扉がみしっと動いた
半信半疑だったのが、いつのまにか夢中になって、その技を繰り返していると
ばくん、と音がして扉が向こう側に、勢いよく開いた
posted by 熟年超人K at 22:12| Comment(0) | 再編集版・序章

2023年01月28日

熟年超人A〜第2章・炉心へ編(3)

格子に指先を掛け、ぐいっと持ち上げてみた
めきめき、という感じで2mほどの格子床が持ち上がった
そこから下の階に飛び降りる
この階(多分2階)の様子も惨憺たるものだった

スーツはさらに発光を強めていて、随分先の方まで見えている
この発光がなければ、超人眼だけでも、あるいは用意してくれていた懐中電灯があったとしても
状況判断に苦労しただろう
周囲全体を照らしてくれる灯りに感謝して、通路を進むことにする
気が付くと持って来たガイガー管の針は振り切れていて、この場が凄まじい放射線に満ちているであろうことが推察される

普通の人間だったら一瞬で死んでしまうほどの放射線に曝されていては、いかに超人でもなんらかの影響が出るんじゃないかと、不意に弱気の虫が蠢いた
でもまあ、こうして普通に歩けている訳だし、物も考えられている
じゃあ、だいじょぶだろう、と今度は楽観的な私が甦る
そこで気を取り直して、丸みを帯びて見える格納容器(と思われる)壁の中を透視してみる
隔壁が非常に分厚いせいか、中はおぼろにしか見えないが、確かに円筒状の圧力容器(外の連中がシュラウドと呼んでいたやつだ)らしき影が見える

いよいよ核心に近づいたことで、私は少なからず興奮した
一番簡単なのは、この隔壁をどうにかしてぶち壊して、中のステンレス製の圧力容器を、一気に持ち上げて宇宙に持って行くことだろう
しかし、スー○ーマン映画とは違って、メルトダウン(多分してるだろう)した圧力容器の底から
零れ落ちる溶解したデブリだとか、一緒にくっついてくるなにやらかにやらで
ここは壊滅的な打撃を受けるんだろうな、と思い至って急速にネガティブになってしまう

するとまず、圧力容器の下がどうなっているのか、そこを確認するべきだろう(そこ、と底がオヤジギャグになっていることに思わずにやりとした私)
馬鹿馬鹿しいことは、後で家に帰ってからにしろ、と別の私が叱咤する
事前に見せてもらっていた構造図面では、今いる2階の下の下はトーラス室といって沸騰水型原子炉の図の一番下にあるドーナッツ状のサプレッションプールという冷却水溜めがあるはずだ
そこなら、格納容器の一番下、圧力容器の底の下に冷却水の循環用パイプでつながっているはずだ

そうと決まれば、そこに行くしかないな、と思い至った私は足元に視線を落とす
透視眼でも奥が見えないほどのコンクリートの床がそこにある
ふと、SAプランニングのM田井社長の言葉が甦る
『アイデアが止まったら、一旦目を閉じてから部屋の中を見渡すんや』
あれは企画会議中の話で、他の出席者の様子からアイデアの突破口が見えるという話だった
それはともかく、私はもう一度爆発で吹っ飛んだ跡にしか見えない室内を見渡してみた

確か、1号機の水素爆発に続いて、この3号機も爆発したと覚えているが、後日3号機は
軽い核爆発を起こしていたとかいう話もあったが
核爆発なら、このぐちゃぐちゃに散乱しているパイプやスチール棚に、高熱で溶けた痕跡がありそうなものだがそうでもないようだ
ただ、そのぐちゃぐちゃに折り重なっている資材の奥を改めて透視して観ると
なにやらドアのようなものが見えることに気が付いた

階下に向かう為に下ばかり意識して、散乱しているガラクタの中を充分確かめていなかったのだ
早速、目の前の鉄材や太いパイプの壊れたのやらを取り除くことにした
その前に、邪魔になっていたガイガー計測管の持ち手に、そこらに転がっている電源コードを結わえて腰にくくり、ハンディトーキーは同じく電源コードを巻き付け肩からはすかいにかけた
デプリ用の回収容器は、ベルトに腰に巻いた電源コードを通してぶら下げる
なんともスーパーヒーローらしからぬ格好になったが、まあ仕方がないと一人で納得して仕事にかかる

それからは、周りのことは考えずに、ぽんぽん放り投げれば良かったので、意外に早く壊れたドアに到達した
そこで、また別の考えが頭に浮かぶ
確か水素爆発は、水が抜けて熱くなった核燃料が暴走して、少なくなった冷却水から水素が発生して
格納容器内に充満した結果、爆発が起きたと云われていたと記憶している
なら、格納容器に爆発で生じた裂け目のような部分があって、そこから中に入れるのでは?

いやいや、今更行動方針を変更するのは効率が悪いだろう
裂け目を探して、下手をして格納容器の周りを回る羽目になるのはごめんだ
一瞬ためらった後、ドアに手をかけてぐいっと引っ張ってみる
例によって枠が少しひしゃげていたようで、一度がくっと引っかかったものの、ばきっと蝶番が飛んでドアが外れた
開口部をくぐって中に入ると、どうやら建屋の外壁に沿った外周通路のように感じた
その証拠に壁面越しに外界が微かに見えている

これならハンディトーキーが使えるかも、と思ってコールボタンを押してみたが、2mものコンクリート壁の電波遮蔽力は半端でなく、なんの反応もない
それらのことを一連の動作で確認しておいて、通路を進むとすぐに外側壁面側にドアが見える
開閉ハンドルを持って、ぐいっと捻ると鉄製のドアが開いた
始めてまともなドアを開けると、想像通り下に降りる鉄製の非常階段のようなものがある
とんとんとんと、軽やかに階段を降りる
頭上が狭いので、飛ぶより駆け降りた方が早いと判断したのだ

下の階に降り立って、ここが1階かと、妙な感慨が湧く
さらに下に降りる階段があればいいのだが、あいにくここで終わりのようだ
この階は爆発の直接的な影響が少なかったようで、散乱している器材の間に床が見える
さらによく見ると、倒れているスチール棚の向こうに円筒状の大きな物体、格納容器があるようだ
ここに入り込む前に見せてもらった1階部分の概要図には、格納容器に出入りできるエアロックがあったことを思い出した
それなら、わざわざ地下のサプレッションプールに行かなくても、格納容器の中に入れるかも知れない
倒れたスチール棚から飛び出したのか、様々な資料ファイルが床に散らばっている
そんな書類を踏んづけて歩くのは心情的な抵抗があるので
宙に浮いてゆっくり格納容器側に接近しようとした

まず、軽く床からジャンプして宙に浮いてから、身体を横にして飛行姿勢を取ろうとした
が、最初のジャンプで危うく天井に頭をぶつけそうになった
屋外なら、大体の感覚で地を蹴って飛び上がり、後は行きたい方向に頭を向けて手を伸ばせば
飛行姿勢が取れ、速度をイメージすれば飛べるのに
屋内では、思っていたよりそれが難しいのだ
仕方ないので、軽くジャンプしながら歩いて行くことにした

スチール棚を跳び越え、散らかった書類を踏まないよう進むにつれ、あの月面での歩行感覚が甦り
割と順調に曲面を描いている格納容器と接している壁まで進むことが出来た
今度は、壁伝いに左に進み、角を折れると扉が現れた
どうやら、これが事前に教えてもらっていた格納容器内に入るときの、エアロックに行ける扉のようだ
さてどうやって、中に入ろうかと思いながら、ふと周囲をもう一度丁寧に見廻すことにする
外壁側の一部が薄いのか、外の連中の様子が透視できるではないか
あの三人が所在無げに立っているのが見える
そうか、あそこは外から大きな機材を搬入する搬入口の部分だ

ならば、とハンディトーキーのスイッチを入れてみる
外の一人が、急に音を発したハンデイトーキーを耳に持っていくのが見える
「は、はいこちらT電機のM希松です!グリーンマンさんですか」
「そうだ。今、建屋1階の大型機材搬入口の近くに来ている」らしく、意識して話さないと…
「そ、そうですか。中の様子はどうですか?」
「この階はさほどではないが、それでもかなり散らかっている」
「GM管の数値は?」
「GM管?ガイガー管のことだな。数値は…5と10の中間くらいというところだ」
「7〜8sv(シーベルト)!?ですか?」
他の二人がM希松の周りで動いている

「で、グリーンマンさんは、なんともないんですね」
「ああ、正常だ」
三人がざわざわ動いている
「わかりました。これから格納容器内に入られるんですね」
「その積りだが、エアロックに入る扉が開かなかったら、破壊していいか?」
「破壊!扉が開かないんですね。しかし、破壊というのは…」
「どっちみち、中はぐしゃぐしゃなんだ。開かなきゃ壊して入るしかないだろ」
「それは…そうですが…。今、同僚が本部と連絡中ですので、ちょっとお待ち頂けますか?」
「分かった。早目の返答を頼む」
「了解しました」その後、しばらく空電ノイズが続き
「グリーンマンさん、聞こえますか?」
「ああ」
「本部のOKが出ました。できるだけ大きく壊さないよう、やってみて下さい」
「分かった、できるだけそうする。この後、中に入るとまた話せないと思うのでよろしく」
言うだけ言っておいて、スイッチを切って扉に向かう
posted by 熟年超人K at 16:46| Comment(0) | 再編集版・序章